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16話 複雑な事情が絡んでいた

僕への依頼は、ギブソンさんの隣にいる顔色の悪いミズセが絡んでいるのは察せたけど、[行く末が繋がる]の意味がわからない。

「クロード様、あなたの依頼は実に簡単なものです。今日から6カ月間、ここにいるミズセ様と行動を共にしていただきたい」

「はあ!?」

あまりの突拍子な発言のせいで、つい叫んでしまう。僕の全てを知っているにも関わらず、彼女と6カ月間行動を共にしろだって?

「僕と一緒にいたら、最悪1ヶ月以内に死にますよ?」
「無論、承知しています」

承知しているって、この人の意図がわからない。僕と行動することで、何のメリットがあるんだ? 仮に、僕が死に、ミズセが大怪我を負って生き残った場合、その矛先は僕の家族に向くはずだ。多分、依頼主はギブソンさんの主人でもあり、ミズセの父親だと思うけど、彼はフィルドリア家に恨みでもあるのか?

「何か誤解しているようですが、この6カ月の生活で、ミズセ様の生死は問いません。生きていようが死んでいようが、あなたには報酬が支払われますし、あなたが死んでも、その矛先がフィルドリア家に向くこともありません。これだけは断言しておきます」

何だよ、それ!?
ミズセの生死など、どうでもいいという発言が気に入らない!!
僕の怒りが伝わったのか、ギブソンさんはその理由を語り出す。

「あなたがお怒りになるのもわかります。理由をお話ししましょう。ミズセ様は生まれながらにして、何故か魔力を扱えませんでした。7歳の時、医師に診察してもらったところ、魔力を生み出す器官そのものが全て欠損していると診断されたのです。そして、2ヶ月前の12歳の祝福の儀にて、女神さまからギフトを贈呈されませんでした」

「え!?」

魔力を生み出す器官を持っておらず、ギフトすらもないだって……そんな人がこの世にいるなんて、夢にも思わなかった。生物ならば、誰であろうとも、必ず魔力を持っているからだ。しかも、彼女は僕と同じ12歳なのも驚きだ。見た目は8歳くらいの女の子、身体の細さを考慮すると、魔力がないせいで、ずっと虐げられてきたことが想像できる。

「依頼人でもある私の主様は、ミズセ様の父親で、貴族としてのプライドが非常に高い。これまで彼女は、ギフトを授かる可能性も考慮され辛うじて生かされておりましたが、神からも見放されてしまったことで、虐めもエスカレートしていき、私の力ではもうどうにもならないところにまで到達しました。そして家族会議の結果、ミズセ様は修道院へ行く道中、盗賊に遭遇し殺される未来が決定しました」

随分と勝手な親だな。貴族としての利用価値がないとわかった途端、自分の娘を殺そうとしたのか。魔力やギフトがなくても、生活は可能なのだから、[病死]といった適当な理由を付けて貴族籍を抹消すればいいだけのことだ。別に、殺す必要はない。そうか、今後どうなるのか先行きが不透明だから、ミズセはさっきから恐怖で震えているんだ。

「私は絶望に陥りましたが、翌日所用で教会本部へ行った時に、一筋の光がもたらされました。用を早々に終わらせ、急いで邸へ戻り、旦那様と奥様に『まだ、ミズセ様を救う手立てが残されております』と進言したのです」

ギブソンさんが、救いの手を差し伸べた? でも、そんな手段があるのか? まさか、それが僕と関わっている?

「その可能性が、クロード様です」
「何故、僕が関わってくるのですか?」

「私が教会本部へ赴いた際、ある情報を入手しました。クロードという少年がギフトを行使して、最近スランプで伸び悩んでいたエスメローラ様の魔力を活性化させたというものです」

ここで、ローラとの出会いが活きてくるのかよ!!
まさか、そんな形で僕に飛び火してくるとは、完全に想定外だ。
ただ、そうなると考えないといけないのが、ミズセの未来だ。

① 僕と共に、不幸に襲われ死亡する
② 僕が死に、ミズセだけが生き残る
③ 不幸を乗り越え、2人が生存したまま、契約期間を終える

ギフトと魔力を持っていない以上、多分生き残ったどのルートになっても、ミズセは両親に殺されると思う。仮に、魔力とギフトに目覚めた場合はどうだろう? 

……ダメだな。

こちらの場合になると、彼女の両親が黙っていない。平然と自分の子供を殺せるのなら、力に目醒めた彼女を迎え入れ、家の繁栄のために利用しようと企むに違いない。

そうなると、ミズセの未来はどう転んでも不幸しかないぞ? 

僕が彼女の未来を予測して3人に話すと、ミレーユさんは優しく微笑み、うんうんと頷き、何やらメモっている。ギブソンさんの方は、急に笑い出す。

「ほほほほ、どうやらミズセ様には、まだ運が残っているようです。これだけ真剣に考えてくれるのは、あなたが初めてですよ。彼女を救う手立てが、一つだけあります。家族がミズセ様を必要としないのなら、愛という意味合いでミズセ様を必要としてくれる殿方を見つければいいのです。できれば、旦那様方が納得される貴族の方が望ましい。そのための半年なのですよ」

簡単に言ってくれるよ。貴族へ娶らせるには、彼女に魔力とギフトを持たせることが最低条件となる。それをクリアした上で相手を見つけ、両親を認めさせないといけない。それを6カ月以内に達成させるのは、至難の業だと思う。でも、これがギブソンさんにとっての精一杯なのだろう。

「祝福の儀以降に、聖女様にも診てもらいましたが、医者と同じ見解で、回復魔法による治療でも治癒不可能と判断されました。私もミズセ様も諦めかけていた時、丁度殺される2日前のことです。聖女候補様の魔力を活性化させたという吉報、私が必死にお願いしていたこともあり、旦那様も折れて、半年間だけ生かされることが決まったのです。これが、私にできる最後の手段です」

ギブソンさんは自分に出来うる限りの最高の手段で、ミズセの寿命を引き延ばしたのか。雇用されている以上、主人に対して逆らう行為は、状況次第で厳罰の対象にもなりうる。それを承知で進言したのだから、彼だけはミズセのことを大切に思っている証拠だ。

「僕が対処できなかった場合は……」

「ミズセ様の行く末は……死です。主様は、神に見放された穢れた血など存在する必要はないとのことです。あなたが失敗した場合であっても、我々は決してあなたを咎めませんし、罰金などの刑もありませんし、冒険者としての評価にも影響を与えさせません。どうか、この依頼を引き受けてくれませんか?」

ここで僕が依頼を断れば、彼女には即刻、死が訪れる。それに依頼を引き受けたとしても、期間内に遂行できなければ、ミズセは何処かで必ず殺される。たとえ、僕自身が不幸を乗り越え、また学園生活に戻れたとしても、僕の心に大きな傷ができる。おそらく、その傷は生涯心に刻まれるだろう。

「わかりました。その依頼、引き受けます」

この依頼、引き受けるしか道がない。しかも、僕自身が後悔なく生きていくためには、依頼を引き受けて、ミズセに最高のハッピーエンドを迎えさせるしかない。

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