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俺のことと地獄の日々のこと

―――君の生きる世界はどんな色をしてる?

   

      

   

   ……いや、実際に見た感じビルが多いから灰色とか、

  今、たまたま黒猫が横切ったから黒色とかそういう話じゃなくて。

   

   簡単に言ったら、楽しい時は明るい黄色。

  悲しい時は深い青。

  恋をしている時は桜のように淡いピンク……とかね。

  もちろん感じ方は人それぞれだけどさ。

   

   例えば、俺の場合は音楽が好きだから、

  楽しい時はレゲェの神様、ボブマーリーのような陽気な黄色。

  悲しい時はコールドプレイみたいに一音一音の無数のリズムの針の穴に、

  一曲通して外すことなく精密にメロディの糸を通していくような繊細な青。



  あとは……そう。



   春の淡い恋みたいにふわふわしたピンクのモーツァルトとかね。

   

   まぁなんでもいいんだよ。

  ようは---「気持ちで世界は鮮やかに彩られるはずだ」---って事を言いたかったんだ。



   その色は、毎分毎秒みんなの心の動きに合わせて「クルクル」と変わっていく。

  それが人の生きる世界の、日常のありようってやつだと思うんだ。

   

   でも俺の世界は、普通の人の言う毎日とは、かけ離れてると思うよ。



  結構。……いや、かなり極端にね。



   例えば、天国と地獄みたいにさ。

  生きてる日々の殆どが地獄みたいな真っ黒いヘドロみたいな色をしてる。

  何故だかはまぁ、すぐにわかると思うけど。



   だけど、「殆ど」って言うからには、少しは幸せに感じることもあるわけだ。



  ……それはギターを弾いてるときだね。



   ギターを弾いているときだけ天国のラッパが鳴ってるみたいな幸福感でさ。

  音楽に触れている時だけは、

  ピンライトに当てられて光の真っ白の中にいるみたいな気持ちになって地獄を忘れられる。



   まぁ実際にスポットライトに当てられてるわけじゃないけどね。

  ……ライブとかしたことなかったし。

  自分だけでがむしゃらに弾いてるだけなんだけどね。

  それでも十分に鮮烈な白を感じられる瞬間。

  

   あの白い世界で、天国みたな気持ちでずっとずっと生きていけたらなぁ。

  ホントにそれだけで幸せなのになぁ……。





  ……。



  …………。



  

「―――おい、幸ちゃんよぉ~……。」

  

  …………。



  ……。



  あぁ、俺の地獄の世界から呼ぶ声がする。





   

「―――いつまで気絶してんのよ?

 椅子がプルプルしてたら本が読みにくいだろうがよぉ~」



    

--意識が地獄に引っ張られる--

   

   

************************

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 意識が戻ると、地獄でもなんでもなかった。

空の一番高い所に太陽は昇っている。

   

 ここは、星城高校の屋上。



そして、佐倉幸は椅子になっていた。



 その椅子に座っているのは三年生の番を張っている毒巻という生徒である。

「お~い、幸ちゃん。やっと起きたかよぉ。

 先輩の世話するのが後輩の役目だろぉ?

 誰が寝て良いって言ったよ。

 ちゃんと椅子になってないとダメだろぉ?

 なぁ、おい。教育が必要だよなぁ。

 ……左尻なw」

   

 毒巻がそう言うと、毒巻の取り巻きAみたいな生徒が、半笑いで、手も足も出ない、佐倉幸の学生ズボンとパンツをガッと引き降ろした。

   

「……はははっ。ちょっと先輩達やめてくださいよ。」

生気のないひきつった笑い顔で、ひどく小さな声で幸は訴える。

もう一年以上同じような昼休みが繰り返されている。



 抵抗することが無意味なことを幸は知っていた。

   

 そして、取り巻きBのような生徒が手に持った煙草を幸のお尻に押し当てた。

「……!?!

 あっ熱、熱い!痛い!」

佐倉幸は反射的にその激痛を声にだす。

   

 取り巻きBは煙草を幸から離さない。



    「ジュ~……。」



 皮膚が焼ける音がする。

700度の温度が少しずつ皮膚を溶かして入っていく。

   

「幸ちゃんよぉ、これは教育だから俺達も仕方なくやってるんだよ。

 お前が立派な後輩になれるようにな。

 でも、厳しいことばっかりが、先輩の教えってわけでもねぇよなぁ?」

毒巻は四つん這いになっている幸の背中の上で、最近話題の異世界ファンタジー小説を片手に説いてくる。

   

「……幸ちゃんよぉ。

 異世界にもし俺達が転生されたとしたら、何が一番重要かわかるか?

 当たったら、根性焼き止めてやるよ。」

幸の涙も出ないような痛みを、弄ぶようにどうでもいい話を問いてくる。

   

「……っつぅ。……い、異世界?

 んっ……、なっ、何者にも負けない圧倒的な強さ……。」

あまりに今の状況とかけ離れている異世界。

幸の答えは、とりあえずはこの現実世界で、幸が全く持っていないモノである。

   

「それもまぁ大事だけどよぉ~。

 バッカだなぁお前はw

 ラッキースケベに決まってるだろうがよぉ!」

しょうもない答えを毒巻高らかに叫んだ。

   

「「おおぉ!さすが毒巻さん!」」

取り巻きA、Bは声をそろえて賛同した。

   

「ジュ~……。」



 結局取り巻きBの持った煙草の火は幸のお尻の皮膚を焦がしつづけ滔々と消えた。

   

「っつ……。」

   

 幸はもう痛みに反応も出来なかった。

   

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  ……これが俺の日常。

  イジメってやつだね。

   

   俺の場合は、全校で一番の人気者でカリスマみたいなやつに、

  一回だけ小突かれたことがあってさ。

  それが突撃のラッパの合図みたいになってさ。

  全学年の全員が急に辛く当たってくるようになったんだ。

  

   まぁその人気者の奴、「矢倉臣是」はホントにあの時の一回だけなんだけど。

  やっぱり影響力って凄いね。

  それ以降みんなのサンドバックみたいになっちゃった。

   

---たったその一回の出来事で?---

   

  ……いや、きっとそれだけじゃないよね。

  俺は運動もめちゃくちゃ音痴だし、勉強も全く出来ない。



   恋人なんかも出来た事ないしね。



   いろんな才能が全然ないんだ。

  ……まぁ1つだけ自信のあるものもあるけど。



   とにかく何にも出来ない俺は、

  他の奴らからは一人だけ色が違うように見えたんだと思う。

  違う色してたらさ、排除したり差別したり、攻撃の対象になるのは当然だよね、

  ……きっと。

   

   それに、生きてるだけで、嫌なことなんて降って湧いて来るんだから。

  僕はみんなのはけ口にちょうど良かったのかもしれない。

   

   みんなから色々されるけど、毒巻っていう3年の先輩からの仕打ちが一番辛いかな。

  昼休み学校の屋上に連れ出されるんだ。

  それも毎日ね。

   

   先輩は根性焼きが好きでさ。

  たぶんいつも読んでる異世界物の小説と同じくらい好きなんだ。



  ……あの本も毎日読んでるからなぁ。

  「異世界でもリア充でありたい」ってラノベ。



   高校生が急に異世界に転生されて、勇者になって、

  女の子にモテモテでついでに魔王も倒して栄光を謳歌する冒険譚。

  もし俺が異世界に行ったら簡単に魔物に殺されちゃうだろうな。

  なにせ何も才能がないから。

   

   まぁありもしない異世界の話は置いといて、このイジメが始まったのは、

  一年の梅雨が明けた頃からだったと思う。

  背中とかお尻とか、穴だらけだよ。

  頭もところどころ10円禿になってるしね。

  乾いて来るとカチカチの穴になって、まぁ痛みはなくなるんだけど、

  それまでは、ずっとジュクジュクしてジンジンして熱い。

  でもまぁ、見えないとこにばっかりつけてくるから。

  制服とかも穴開けないしね。



  ……そこだけは助かってる。



   家族にはバレたくないんだよね。



  イジメられていること。

   

   毒巻先輩達以外は、ひそひそ話でなんかひどい事言ってたり、

  机が落書きされてたり、上靴に画鋲が入れられてたりって感じかな。



   いやそりゃ言い切れないくらい他にも色々あるよ。

  有り過ぎて忘れちゃいたいくらいにさ。

   

  なんでみんなそんなに酷い事するのかなぁ?



  はけ口にしては酷過ぎやしないかい?



   俺に当たることが、みんなの楽しいや、嬉しいや、幸せなのかなぁ?



  そんなことが幸せって言ってしまえる人生って何?



   みんなの目には世界は何色に映ってるんだろう?

   

   毎日毎日。

  おんなじ日常が俺を責め立てるんだ。

  俺は高校2年生なんだけど、学校生活がこう苦しくっちゃどこで息していいのか分かんない。



  もうずっと地獄の中にいるように感じちゃうんだ。

   

   笑い方なんかもう忘れちゃったよ。

  どういう時に笑うんだっけ?

  どういう風に笑うんだっけ?

   

   俺の顔がずっとへらへら笑ってるのが気にくわないってみんながいうから、

  あんまり顔が見られないようにって前髪をかなり伸ばしてるんだ。

  

  鼻ぐらいまで伸びてるよ。



   まぁ隠したところでイジメは当たり前のように襲ってくる。

  だから、みんなの前ではついびくびくしちゃって、何も喋れなくなっちゃった。

  

  ……好きなバンドの事とか、ギターの事とか喋りたいことは沢山あるのになぁ。

   

   学校にいる時は本当に辛いんだ。

  なんでなのかな?

  俺は誰かを傷つけても、全然楽しくも嬉しくもないよ。

  その逆だよ。俺は俺の力でみんなを楽しませたり、嬉しくさせたいよ。

  

  ……俺のギターでさ。

   

   

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