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14話 見識をもっと広めようと心の底から思った

僕のギフトによって、ローラの悩みが解決したのは良いのだけど、彼女の機嫌はすこぶる悪かったので、僕の奢りで喫茶店の特大パフェをご馳走すると言うと、彼女は満面の笑みを浮かべ、『それなら許してあげる』と言い、現在バクバクとパフェを食っている。もしかして、大食いという悪口をあの3人にも散々言われていたのかと疑問に思ったけど、それを口に出してはいけない。

「ふう~ご馳走様~~~」

2000ゴルドもする特大パフェは3人分もあるのに、それを平然と食べるローラが怖いよ。君は、さっき5人分の丼を食べたばかりだぞ?

「これで許してもらえるかな?」

じと~っと僕を見つめてくるけど、許してくれたのか笑顔を見せる。

「私に新たな境地を見せてくれたので、全てを許します」

この子の場合、美味しいものを与えたら、全部許してくれるんじゃないかな?

「あはは、それはなによりだ」

「あの悪口はともかく、クロードには本当に感謝してるの。だから、あなたのために忠告しておくわ」

忠告? 
急に真剣な面持ちになったということは、本気の忠告か。
それは、僕としてもありがたい。
僕は、もっと強くなりたいからね。

「あなたは、物事の視野をもっと広げたほうがいい」
「視野? 一応、それなりに広げているつもりだけど?」

訓練学校の先生からもクラスメイト全員に、『世界は広い。自分の夢を叶えたいのなら、もっと視野を広めろ』と言われているからこそ、僕は剣術だけでなく、魔法関係も独自で知識を増やしていった。だから、彼女の症状もわかったんだ。

「それじゃあ聞くけど、今の聖女様や聖女候補たちの名前はわかる?」

え、聖女? 何故、ここで聖女が出てくるんだ?

「いや、興味がないから、顔も名前も知らない。確かに、教会関係の不幸が襲ってくる以上、名前くらいは知っておいた方がいいか。でもさ、そう言った人たちが街中を歩く際、平民に見えるよう地味に変装するのが通例で、必ずお供の護衛騎士を付けているはずだ。それに、顔はわからなくとも、雰囲気や気品で大凡把握できるんじゃないかな? 今のところ、そういった人々と全く出会ってないけど……え、どうしたの?」

言った瞬間、ローラから醸し出す空気が変わった? 
これは、怒っているのか?
僕は、おかしな事を言っただろうか? 

「へ~そ~気品か~出会ってないか~」

笑顔が怖いんですけど?

「人がせっかく忠告しているのに、そんな言い訳をするんだ~。へえ~聖女候補だって、偶には街中を1人で観光したい時もあるよ~」

今のって言い訳になるの? 自分の考えを言っただけなんだけど? 
せっかく機嫌が直ったと思ったのに、何故か急降下している。

「いや、遭遇する可能性はゼロじゃないけど、聖女やその候補たちと言ったら、国に期待されている輝かしい人たちだよ? 勿論、その人たちにも休息は必要だと思うけど、護衛騎士を振り切り、街中を1人で彷徨くという身勝手な行為はしないでしょう? それを実行したら、護衛騎士は教会上層部にコッテリ絞られ、最悪騎士資格を剥奪される。そんな迷惑行為を働く候補がいたら、僕も見てみたいよ」

これは、常識的なことだ。
そんな行為をしたら、周囲が大迷惑を被るのだから。
何故か、ローラは冷や汗を掻き、何も言わなくなる。

「そ…そこまでのことかな?」

「普通の貴族令嬢でもコッテリ怒られるのだから、聖女候補ともなると、相当だと思うよ。まあ、そんな破天荒な女性はいないよ。普通に許可をもらって、護衛騎士と外出すれば、それなりにリラックスできると思うからね。もし、そんな候補がいたら相当な訳ありだね」

ローラは黙ったまま、僕から目を逸らしている。もしかして、その破天荒な候補が彼女……あはは、そんなわけないよな。僕が話を変えようと喋ろうとした時、一つの影がテーブルに映る。影の主を見ると、平民服を着た20歳くらいの一般女性だ。でも、上手く誤魔化しているようだけど、漏れ出る存在感で只者じゃないことがわかる。

「あ……」
「ローラ様、ここまでです。これは……」
「見つかっちゃったし、一目見ただけでわかるんだ」

女性はローラを見ると、目を見張り驚くと、何故か僕を見る。

「彼が?」

彼女は隙を見せず、じっと僕を見定めている。

「そうだよ。彼の名前はクロード・フィルドリア、クロードのおかげで、私の不調の原因もわかり、魔力だって活性化して、数値もかなり上がったのよ」

ローラの言葉のせいか、女性は鋭い目付きで、じっと僕を見つめてくる。まるで、心の中を覗かれているような圧迫感を感じる。

「そうですか、クロード様、ありがとうございます。こちらは報酬として受け取ってください」

そう言うと、彼女はテーブルにそっと何かが詰まった皮袋を置いた。
報酬って、まさかお金が入っているのか?

僕が中身を確認すると、金貨が10枚(10万円相当)入っており、どう見ても口止め料込みの金額だ。女性の凍てつく視線がかなり怖いけど、僕はそこから一枚だけ取り出す。

「ローラから、報酬は金貨一枚と言われているので、残りはお返しします」

こう言えば、彼女も無理に渡そうとしないだろう。女性は表情を変えず、僕を見定めたままでいる。

「わかりました。それならば、ここの会計は私が持ちましょう。ローラ様、行きますよ」

よかった、引いてくれた。とりあえず、僕の仕事はこれで終わりだけど、ローラは何者なんだ? まさか、本当に聖女候補?

「わ、わかったよ。そうだ、クロード!! 今から5日後の朝刊の一面を読めば、私の忠告の意味がわかる。そして、あなたがもう引き返せない位置にいるということも深く理解できる。念のため、明日から1週間(7日)、必ず朝刊と夕刊の新聞を読んでおいてね」

ええ!? 急に、何を言い出すんだ!!
それってつまり、僕はこの時点で取り返しのつかないミスを犯しているってことか?

「まさか…」

ローラ自身が教会関係者なのかと問おうとしたら、さっきの女性が僕を睨む。『それ以上、先を言うな』と目で訴えている。僕が何も言わないでいると、ローラは女性と共に喫茶店を出ていった。窓腰から『ありがとう』と言い、僕に手を振ってくれたけど、想定外の事態に陥ったせいで、僕は手を振り返せなかった。

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