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13話 ローラが僕の言葉でキレました

3人の姿を見て萎縮するローラ、完全に心から恐怖を抱いているせいで、本来の力を発揮できないでいる。訓練学校において、一応こういった場合の対処方法も聞いているけど、それはあくまで先生の体験談であって、それが彼女に効果を及ぶすかは不明だけど、ここまで殻に閉じこもっている以上、相当な刺激を与えないと奮起しないだろう。彼女を救うためなら、僕は心を鬼にする。

「ローラ、もう一度言うよ。君にも、夢があるはずだ」

ここからは何も知らない無責任な発言になるけど、ここまでの彼女の言動を踏まえて、彼女の心に炎を灯らせる。

「夢……あるわ」
「その夢を叶えるために、あの初老の女性を師と仰ぎ、魔法を学んでいるんだろう?」

彼女は、あの3人から目を背けているけど、僕の言葉に反応し、それを理解しているのか、ゆっくりと頷く。

「別に、あの3人に嫌われてもいいじゃないか」

「え、なんで? 師と先輩なのに…嫌われたくない。意地悪な人たちであっても、私は仲良くして修行を続けたい。それなのに、どうしてそんな酷いを事を言うの?」

師はともかく、あの2人にも嫌われたくないのか。嫉妬による虐めを受けた場合、相手側は余程のことが無い限り、心を入れ替えないと思う。無理に仲良くしようとすると、かえって拗れる。無責任な発言になるけど、ローラの心を解き放つためにも、ここは言わせてもらうよ。

「君は君の行く道を歩いていけばいい。所詮そこの3人は、ただの道標なんだよ。そいつらから十分な知識と技術を学んだのなら、君を信じない3人なんか切り捨てて、君自身で夢への道を切り開いていけばいい」

彼女は震えてこそいるけど、僕の言葉を聞いて、はっとした顔となる。

「切り開く…そうだ…私の目指したいのは…あの人の魔法が素晴らしいから…師と仰いだだけ…でも、今は先輩たちの言葉だけを信じて、私を信じてくれない。そんな師なら……怖い怖い怖い…虐められるのは嫌だけど…どうしたら…」

正論で説き伏せても、ローラから魔力を感じ取れない。彼女らとの関係性が揺らいでも、肝心の魔力が魔法への恐怖のせいで、体内で閉ざされたままなんだ。ここからは、荒療治になるな。

「もう、3人に言われた言葉なんて気にするな。今まで、散々罵倒されたんだろ? 生意気、性悪、傲慢、根暗………不細工、貧乳、寸胴、短足、チビ、たとえいくつか当てはまるものがあったとしても気にするな」

僕が思いつくまま適当な悪口を次々と並べていくと、ローラの呟きがピタッと止まり、先程までとは異なる身体の震えを見せる。よし、僅かだけど、魔力を感じ取れる‼︎

「所詮、奴らは夢への踏み台でしかないんだ。君が気にするのなら、その怒りをそこにいる3人にぶつけてやれ‼︎ この……無自覚大食い野郎‼︎」

最後は僕の思ったことをそのまま叫んでしまったけど、それが決め手になったのか、彼女から感じ取れる魔力が、急速に高まっていく。

「うううううう」

あれ? 
なんか、睨まれてないか?
敵意も、僕に向いてないか?

「うがああああ~~~~、煩い煩い煩い煩~~~~~い。生意気で悪いか~~~傲慢で悪いか~~大食いで悪いか~~~好きで大食いになったんじゃな~~~~い」

急に、ローラが叫んだ瞬間、魔力が彼女の身体の外に溢れ出し、それが両拳に集まっていく。怒りのせいか、フードが外れたことにも気づいていない。鬼気迫る表情で、怒りの矛先が黒髪の女性へ向いた。

「あんたなんて、黒髪が長くて、顔が隠れたら、どう見ても薄気味悪い幽霊にしか見えないよ‼︎ しかも、魔法の発動に失敗したら、ぐちぐち小さな声で失敗理由を語らないでよ‼︎ 気持ち悪くて怖いんだよ‼︎ この根暗女~~~~~」

言いたいことを言い切ったローラは、魔力を込めた拳で15歳くらいの黒髪女性を押し倒し、叫び声をあげながら綺麗な顔を殴りまくる。そして8発殴ったところで、黒髪女性の顔だけが完全に砕け散る。次の矛先は、金髪縦ロールの女性だ。

「あなたは、いっつもいっつもオホホオホホってうるさいのよ‼︎ 私が、平民出身で悪いか‼︎ 礼儀知らずで悪いか‼︎ あんたなんて話術と礼儀を除けば、性格も最悪で、魔法も一番ヘタクソじゃないの‼︎ あんたは25歳で年増なんだから、オホホと言いながら結婚相手でも探してろ~~この行き遅れ女~~~~」

う~ん、鬱憤が相当蓄積していたんだな。金髪女に対しては、子供の拳サイズの氷魔法[アイスパレット]を連続でぶっ放し、女の身体に幾つもの風穴を開けていく。数百発も当て続け、風穴も無数に生じたせいで、女は遂に崩れ落ちた。最後は、60歳くらいの茶髪と白髪の入り混じる女性だ。

「師匠、あなたは私以外の弟子の言葉を疑えよ‼︎ 根暗女と行き遅れオホホ女の言うことを、全て信じるな‼︎ そのくせ、私が言い訳したら、『見損なったよ』『傲慢になったね』『先輩のアドバイスを聞け』だ~? は‼︎ それだったら、その先輩方に『後輩を見習え』の一つでも言え‼︎ このクソババア~~」

師と仰ぐ白髪女性の方は、他の2人と比べると、まだ温和そうに見えるけど、その師に向かって、クソババアと言い放つとは……。そして、魔力を両拳に溜めに溜めて、問答無用の一発を顔面に放り込むと、首がボキッと折れて、僕の方に転がってきた。一応、見た目だけの人形なので出血とかはないけど、かなりリアルだから、僕も声をあげそうになった。

「どうだ、これが今の私の力だ~~~」

3人の人壁を撃破した途端、ローラは渾身の叫び声をあげ、ガッツポーズをとると、身体がいきなり輝き出す。彼女も自分の身体の輝きに驚いているようで、体のあちこちを確認している。

「何…これ? 以前と何か違う。身体の中から、どんどん力が湧き上がってくる。………あ‼︎ 1200くらいだった魔力量が3600くらいにまで上がってる‼︎」

3600だって!? 嘘だろ!? 
僕の5倍くらいあるじゃないか!?
この子、本当に何者なんだよ!!

「これまで相当な鬱憤を身体に溜めていたんだ。君の心にのしかかる壁を全て砕いたことで、ストレスが一気に解放され、その衝撃でレベルアップしたんじゃないかな?」

自分の力を確認して満足したのか、さっきまでの顔色が嘘であるかのように明るくなったのだけど、僕を見た瞬間に何故か険悪なものへと変化し睨んでくる。

「これが、あなたのギフト[壁]の力なんだね。納得したわ、でもねクロ~~ド、私の悪口を散々言ってくれたよね~~あそこまで言わなくてもいいんじゃないかな~~言って良いことと、悪いことがあるんだよ~~~」

う、自分でも言い過ぎたかなと思っていたけど、やっぱり彼女を傷つけてしまったか。


「あはは、君を怒らせるために、あえて言っただけで、決して本気で思ってないからね」

指をポキポキ鳴らしながら、僕に迫ってくるんですけど?

「へえ~、私には所々本音が混じっていたような気がするんですけど~? そのおかげで、怒りを爆発できたから良いんだけどね~」

[大食らい]に関しては……本音かな。
言葉で許す発言をしているけど、目が全く笑っていない。

「ま…まあ、魔力制御も復活したし、魔法も使えたのだからいいじゃないか」

やっと理解してくれたのか、温和な表情に戻ってくれた。

「そうね、復活しただけじゃなく、身も心も軽くなったし、魔力量だって大幅にUPしたわ。これなら、明日からの任務に差し支えない。全部、クロードのおかげだけど、今後女性と接するときは、ああ言った悪口を絶対言わないように…ね!!」

う、前半は最高の笑顔で僕にお礼を言ってくれたのだけど、後半からの脅しが怖い。やっぱり、こういった悪口に関しては、女性に言ってはいけないようだ。

骨身に染みるほど、彼女の圧が凄いから。

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