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10話 知らない女の子に観光案内を頼まれてしまった

初めに向かった先は、冒険者ギルドだ。訓練学校の体験授業の一環で、ここへは3回訪問したことがあるため、中の仕組みをある程度理解している。周囲を見渡すと、人間族だけでなく、獣人・リザードマン・ドワーフなども多数いる。それそれが異種族間で3~5人のパーティーを結成しており、依頼書を見ながら何やら相談し合っている。

僕は、空いている受付のもとへ行く。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。初めて見る顔ね」
「すいません、クロード・フィルドリアと言います。冒険者登録をお願いします」

話しかけてきたのは20歳くらいの綺麗な人間族の女性で、客慣れしているのか、作り笑顔が似合っている。業務上、色んな冒険者と話し合う受付嬢には、タフな精神力が要求されるため、【どんな状況であろうとも笑顔で保つこと】、これが鉄則らしい。

「私はミレーユよ、よろしく。昨日、ギルドマスターが冒険者たちに、あなたの事情について説明しているわ。[神の死らせ]というものは、冒険者の間で有名なの。その者に関わり不幸に巻き込まれたことで、悲惨な最後を送った者はそれなりにいる。でも、それは後になってわかった話で、今回のようにどの項目が点滅していて、何に注意を払えばいいのかわかっていれば、皆も行動しやすい。あなたの案を聞いた先輩たちは、クロード・フィルドリアを冒険者として認めたのよ。だから、あなたを蔑む人はここにいない」

父さん、助かるよ。話だけは家で聞いていたけど、少し不安だったんだ。
初めが肝心だから、先輩方にきちんとご挨拶しておこう。

父さんが説明してくれたとはいえ、僕自身が礼儀に反する行動を取ったら、それだけで疎まれる存在になってしまう。

「ありがとうございます。これで堂々と、皆にご挨拶ができます。」
「堂々って、何をするつもり?」

「親に頼りっきりというのは、僕としても嫌なんです。自分の不幸である以上、自分で皆さんに説明します」

「なるほど」

僕はミレーユさんに背を向けて、周囲にいる冒険者たちを見る。

「皆さん、僕はクロード・フィルドリアと言います‼︎ 既に、父から事情を伺っていると思いますが、[神の死らせ]により、今後1ヶ月以内に、僕に大きな不幸が訪れます。教会関係とわかっていますので、こんな人目のある場所なら不幸も訪れないと思いますが、僕がいる時は、あまり近づかず、周囲を警戒するようにしてください。12歳と若輩者ですが、冒険者として一から生活していきますので、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します‼︎ 身分が通用しないことも重々承知していますので、自分のことは平民だと思い接してください‼︎ [神の死らせ]を乗り越えるまでは、ソロで活動していきます‼︎ 今後ともよろしくお願いします!!」

僕の声が響いたのか、部屋内が静けさでし~んとなり、皆がぽか~んとした顔で僕を見ている。

「皆さん、聞いていた通りです。彼は神の死らせを受け取っており、それを赤裸々に語ってくれました。あなたたちの行動範囲に彼がいる場合、何かが起こる場合もありえますので、十分な注意を払い、慎重に行動してください」

受付嬢のミレーユさんが語ると、冒険者の先輩方は僕の対抗手段を気に入ってくれたのか、激励の言葉が次々と贈られ、場が一気に騒々しくなる。中には堂々と近づき、僕の背中を叩いて、『がははは、新人のくせに、その根性気に入ったぜ!! このギルド内でなら、お前の力になってやる!!』と応援してくる人もいてくれた。

批判する人も少なからずいると思ったけど、この場にいる全員が僕を認めてくれている。隠すどころか、堂々と全てを曝け出す行為と礼儀正しさを気に入ってくれたようだ。先輩方の年齢層の多くが二十代、その次に三十代、次いで十代だ。年齢層が上がれば上がるほど、子供扱いされてしまうのが複雑な気分だったけど、僕の行動がプラスになって動いてくれたようでホッとした。

その後、僕は冒険者登録を行い、最下層のFランク冒険者になった。初めての登録の際は誰であろうとも、Fランクスタートになる。今回、僕を担当してくれた受付嬢ミレーユさんは、人気ナンバーワンの女性で、彼女を狙っている冒険者は数多くいるけど、僕の場合は年齢的な意味合いもあり、敵意を見せる人は1人もいなかった。


○○○


冒険者になって4日目の朝、僕はこの間に定番のゴブリン退治や薬草採取を成功させたことで、Fランク冒険者として信頼を勝ち取ることにも成功している。肝心の不幸は微塵も襲ってこないけど、今日の朝、宿屋の部屋にて自分のステータスを確認すると、2つの変化が起きていた。

名前:クロード・フィルドリア
性別:男
年齢:12歳
職業:無職
称号:不運な祝福者(赤点滅3秒間隔)
魔力量:657
スキル:剣術[D]、体術[D]、動作予知[C]、身体強化[C]、魔力制御[B]、囮[F]
魔法:壁魔法(氷壁・風壁・火壁・土壁)
ギフト:【壁】(青く点灯)

称号の赤点滅間隔が5秒から3秒に変化し、ギフトが青く点灯していた。ギフト[壁]こそが、不幸を打ち破る鍵であり、その不幸もヒタヒタと少しずつこちらへ近づいているということを示唆している。この変化を見て、僕は今日の予定を変更し、人の少ない公園の広場で、ギフト[壁]を新規開拓しようと決めた。

「人の少ない場所なら、不幸が来ても対処できる」

僕は公園へ向かう道を歩いていると、チラチラと視線だけで僕を見てくる人が多数いる。どうやら、この4日で僕の情報がかなり広まっているようだ。小さな子供が僕の方へ来ようとしたら、母親が焦ってしまったのか、その子を抱き上げて、そそくさと僕から離れて行く始末だ。僕だからいいけど、これがロブスだったら、その行為だけで怒り心頭だろう。

公園の敷地内に入り、人混みも少なくなったところで、僕と同年代と思われる人が前方からこちらへ歩いているのが視界に入る。フードを被っているせいで、顔がよく見えないし、性別もわからないけど、その子は雑誌を夢中で読んでいることもあり、僕の存在に気づいていない。

「フードを被っている君、そのまま歩くと僕とぶつかるよ」
「え……あ!?」

その人と視線が合ったことで、初めて女性であることがわかった。彼女は前を見たけど、僕との距離が近かったこともあり、驚いた拍子に躓きそうになったので、優しく抱き止める。

「大丈夫?」
「あ…ありがとう」

顔をあげお礼を言った瞬間、フードが外れ、顔と髪の全貌が露わになる。腰くらいまである銀髪の少女で、めちゃくちゃ可愛い。この容姿なら、フードで顔を隠すのもわかる。抱き止めたままの状態で、何故か僕の顔をじっと見つめてくる。

「あの…何か?」
「私のことを知っていますか?」

突然、彼女はおかしな事を言い出す。

「今日、会ったばかりなのに知るわけないでしょう?」

そう言うと、彼女は急ににぱ~っと笑い、顔を輝かせる。

「やった!! やっと、私を知らない同年代の子と出会えたわ!!」

僕から離れ、フードを被り直し、ぴょんぴょん飛び跳ねる女の子、その言い方だと、大半の人々が君のことを知っていると言うことになるんだけど? 飛び跳ねるのをやめると、すぐに僕のいる場所へ戻ってくる。

「あの……お願いがあるの」

お願い? 僕より少し身長が低いせいか、申し訳ない表情をしながら上目遣いで見つめてくるその仕草が、妙に可愛く、何処か僕の保護欲を燻らせる。

「私は王都を散策したことがないの。報酬を支払うから、この近辺を案内してくれないかな?」

苦笑いを浮かべながら僕に観光案内を申し込んでくる女の子、悪意はないのだろうけど、ここは心を鬼にして断ろう。

「申し訳ないけど、お断りするよ」

まさか速攻で拒否されるとは思わなかったのか、彼女は苦笑いを浮かべたまま固まった。

「ど…どうして!? ウキウキ気分で観光案内したいから、私を知らない同年代の人をずっと探していたの!! 報酬として、一万ゴルドを支払うわ!!」

一万ゴルド(一万円相当)!!

ただの観光案内で、その報酬額は高過ぎる。冒険者ギルドの掲示板を見て知ったけど、観光案内の相場は通常3000~5000ゴルドだ。Fランク冒険者にとって、その額はかなり高額とも言えるから、観光案内の仕事に関しては、競争率が激しい。昨日だって、僕が見ていると、すぐに剥がされてしまったくらいだ。

この子、ひょっとして貴族なのか? 周囲には護衛らしき人物はいないようだけど、どう応対しよう? ここまで必死にお願いしているのに、このまま無碍に断るのも失礼だ。今の時点で僕の情報もそこそこ広がっているから、ここで告げた方がいいよな。

「お金の問題じゃない。君の命に関わるから断るんだよ」
「私の命? ただの観光案内で?」

まあ、困惑して当然か。

「僕は5日前の祝福の儀で、女神様からギフトと称号を贈呈された。その際、司祭様が称号に[神の死らせ]が付いていることを叫んでしまったんだ。この情報は、平民の間にも広まっている。大きな不幸が1ヶ月以内に訪れるからこそ、君を巻き込みたくないんだよ」

正直に話したせいか、彼女は一歩後退り、身体を震わせる。司祭の行為に驚いているのか、[神の死らせ]に驚いているのか、いやその両方に驚いているのかもしれない。

「それが事実なら、教会関連の不幸が?」

この子、[神の死らせ]の詳細を知っているのか。

「恐らくね。僕は教会の関係者じゃないし、その知り合いもいないから、どんな不幸が襲ってくるのか、全くわからないんだ」

これで引き下がってほしい。女の子の様子を観察すると、始めは身体を震わせていたけど、何故か顔をキュッと引き締め、覚悟を決めたかのような目となった。

「そういった事情でも構わない。何か起きたとしても、あなたやあなたの家族を訴えるような行為はしないと誓うわ。だから、この近辺だけで良いから観光案内をお願いします!! 明日になったら忙しくなって、当分の間、休みもとれなくなるの!!」

何故、観光案内にそこまで拘るのかがわからない。
ステータス画面も朝見た時と変化がないから、ここは承諾しておこう。

「わかった、引き受けるよ。僕はクロード・フィルドリア」
「やった!! 私は……ローラよ、宜しく!!」

今、変な間があったような?
もしかして偽名?
この子も、何かを抱え込んでいるのか。

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