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9話 僕は絶対に諦めない、必ず帰ってくる

さあ、勝利のために動くぞ!!

クラスメイトの中には、相手のステータス情報や物品類を無許可で閲覧できる[鑑定]というスキルを持っている者が少数いる。ロブスは負けず嫌いで、こういった模擬戦においても、勝負に勝とうとする執念がある。そいつらから事前に僕の最新情報を買取ることで、僕の魔力量、修得しているスキルと魔法を把握しているはずだ。そうなると、奴を出し抜くためには、今この場でステータスに刻まれていない新技を放たないといけない。それを成功させれば、奴は必ず度肝を抜かれ、隙を見せる。

現に、一つ目の技[薄氷壁]を披露したら、自分の予期しない出来事のせいか、足を止め、隙を見せた。ここで連続攻撃を仕掛ければ、必ず成功するはずだ。

ここまでの段階で、新技を発動させるためのお膳立ても全て整っている。
危険な賭けだけど、僕も勝ちにいく!!

早速、僕は魔力を放ち、それを切り離し、ある箇所にそれを集約させていく。案の定、ロブスは僕の濃い魔力を感知して、そっちに木刀を動かす。この技の名称はスキル【囮】、視覚が塞がれた相手に対して、人型の魔力塊を形成させることで、相手を誤認させる効果を持つ。

木刀が囮に向かっている間に、僕は極力気配を抑え、奴の背後に回り込み、壁を解く。
予想通り、ロブスは僕を見て、ひどく動揺する。

「もらった~~~~」

僕はとどめの一撃を放った時、奴はほくそ笑む。まるで、こうなることをわかっていたかのように、奴は瞬時に木刀を元の状態に戻し、僕に突きを放つ。瞬時に伸びた木刀による突きが顔面を襲う……その瞬間、僕はその動作を予測して最小限の動きだけで回避し、奴の左肩に一撃を当てた。

ロブスは驚愕な表情を浮かべたまま、膝から崩れ落ちる。

「お前…なんであれを回避できる? スキル[動作予知]でも、あの至近距離では反応できないだろ?」

左肩を押さえたまま、ロブはゆっくりと立ち上がり、僕を見る。

「簡単だよ。君のことだから、薄氷壁を放った時点で、新技が他にもあると踏み、囮にかかったふりをして、僕の背後からの攻撃を読んでいるかもしれないと考えたのさ。僕の仮説が正しければ、必ずギフトによる突きの一撃が来ると予想していたからこそ、瞬時に次の行動へ移せたんだ」

僕の言葉に、奴は呆れた顔を浮かべる。

「は、鑑定でも見つけられないような切り札を持っていると思っていたが、お前は俺の動きをあらゆる意味で読んでいたってことか。完敗だよ、これだからクロードとの模擬戦はやめられないんだ」

どうやら、今回は彼の納得のいく内容だったようだ。僕は、ロブスと握手を交わすと、周囲から拍手と大歓声が巻き起こる。

「おいクロード、不幸に必ず打ち勝てよ。このまま勝ち逃げは嫌だぜ」
「おいおい勝ち逃げって、ギフト戦だと僕の1勝3敗だぞ」
「今回のが、正真正銘のギフト戦だ!!」

あはは、そうかもね。先の3戦は、僕の方からロブスに模擬戦を申し込んだ。ギフトを持っていない状態で、何処までギフト持ちと戦えるかを知りたかったんだ。ロブスも楽しんでいたけど、自分だけがギフトを使い勝っていることに納得していなかった。そう考えると、彼の言う通り、今回が初めてのギフト戦になる。

「ああ、必ず勝つよ。12歳で、死んでたまるか」
「約束だからな」

次に会う時までに、ロブスも礼儀正しさを身につけてほしいものだ。僕はロブスやクラスメイトたちと別れの挨拶を済ませると、何故かマグヌスさんが正門入口に佇んでいた。

「クロード、家まで送ろう」
「え!?」

 彼はマーニャの専属護衛なのに良いのか? 彼女の帰宅時間がまだまだ先とはいえ、室外訓練場での授業もあるから、もしもの時のために敷地内での待機命令が下りていたはずだ。

「マーニャ様も、適当な理由を付けて早退する。ほら、言ってるそばから、こっちに向かって来ている」

僕が振り向くと、笑顔でこちらへ駆けてくるマーニャがいた。

「クロード、私たちが護衛するわ。帰りましょう!!」

どんな早退理由を言ったのか気になるけど、笑顔ということは皆に納得してもらえたのだろう。僕は二人に護衛されながら、学校の正門を出て、家路に向かう。


○○○


「今日のクロードは、凄くカッコよかったわ!!」

僕とマーニャは訓練学校での模擬戦を終え、徒歩で自宅へ向かっている。自宅から訓練学校まで徒歩20分、馬車を使ってもいいけど、少しでも体力をつけたいから、僕は毎回徒歩で帰っている。マーニャの方は護衛のマグヌスさんを連れている時に限り、徒歩への帰途を許されている。

「ありがとう」

「空中に作り出した半透明な[薄氷壁]、使った魔力を囮として扱うスキル[囮]も、どちらも初めての行使なのに上手く扱えたわよね。特に、薄氷壁の形成には誰も気づいていなかったから、みんなが感心していたわ!!」

僕は模擬戦をしている間、ずっと自分の魔力を周囲に微量ながら放出させていた。その放出した魔力とギフトの力を使い、空気中の水分を凍らせて、薄い半透明の氷壁を作り、ロブスと木刀の進行方向に設置させていた。

模擬戦後、発動方法を担任や周囲の皆に説明したけど、僕の発想自体がかなり奇抜のようで、皆とても驚いていた。魔法は、[生活魔法][演術魔法][補助魔法][戦術魔法]の4つの系統に区分されており、それらの中に火や水といった各属性の魔法がその効果に合わせて入ってくる。

結局、あれは補助系氷魔法[氷壁]に属しているということに落ち着いた。僕自身も、その意見に賛成だ。[生活系氷魔法]の場合、文字通り生活にも使用できるものを指すので、今回の使い方は補助に該当するだろう。

昨日の休みのうちに実験して、一つの仮説が生まれた。僕のギフトは、魔法属性に関係なく、無生物であれば、形状を変化させて、なんでも壁にできるかもしれないというものだ。ただ、模擬戦に勝つためには、その時の着想をステータスに表示させたくなかったから、その場で留めておいたんだ。ぶっつけ本番で、僕の仮説通りに事が進んだおかげで、勝負には勝てた。

「マーニャ、これからは、ギフト[壁]についてもっと調査してみるよ。僕の思った以上に、使えるスキルかもしれない」

「クロード、絶対に死なないでね。[神の死らせ]が終わったら、今までのように過ごそうね」

家が近いこともあり、もうすぐお別れの時のせいか、彼女は物語のような死亡フラグを言い放つ。本屋で販売されている書籍にも、こういった状況があったけど、大抵死ぬフラグなんだよな。マーニャにそんな事を言えるわけがないし、ここは普通に返そう。

「僕だって、死ぬつもりはないよ。昨日調査した限り、生き残る確率は平均20%ほど、希望は持てる。君は、僕の帰還を待っていて」

「わかった、待ってる」

物語のようなハッピーエンドを迎えたいところだけど、現実問題どう転ぶのか不明な状況だ。今後、冒険者として活動しつつ、両親たちとも情報交換をしながら生きていくことになる。皆を、悲しませない結末を迎えたい。

マーニャの家に到着し、彼女とお別れの挨拶を告げ、僕は自分の家へと帰り、旅支度を整える。兄2人との別れは、早朝に済ませている。2人は僕の勝利を信じている上で、前向きなアドバイスを贈ってくれた。

フレッド兄さん「気楽に生きろ。終始、緊張していては不幸に打ち勝てない」
レイダム兄さん「まあ、始めは目立つだろうけど、適当に生きていけばいいよ」

2人の言葉通り、変に気負わず、普通に生活していこう。身支度も終わり、僕は家を出て行くことをメイドに伝えると、両親を含めた全員がやって来て、僕たちは敷地の玄関となる場所で立ち止まる。

「クロードには、騎士としての素質がある。その年齢で平均の倍以上の魔力量を持ち、スキルも目を見張るものがある。必ず不幸に打ち勝ち、元気な姿でこの家に戻ってこい。教会に何か動きがあれば、真っ先に教えよう」

「クロード、絶対に死なないでね。あなたの居場所は、この家よ。【神の死らせ】の表示方法は、一見呪いのように見えるけど、それは女神シスターナ様があなたを見守っている証なの。不幸に打ち勝ってね」

父さんと母さんだけでなく、使用人たちからも激励の言葉を贈られる。こういった事態に陥って初めて理解したけど、僕は家族から愛されていたんだなと痛感する。

「必ず、不幸に打ち勝ってみせます!!」

僕は右手を天空へと振り上げ、皆に見守られながらフィルドリア家を出て行った。

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