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5話 家族友人を巻き込まないため、僕は決断した

その後も、マグヌスさんは必死に僕に訪れるであろう命の危機について説明してくれた。赤く点滅している項目は、それに関わる不幸が起こることを示唆している。僕の場合は、称号[不運な祝福者]だ。これ自体が司祭の一言で付いたようなものだから、不幸は教会絡みということになるのだけど、僕に教会関係者の友人はいないし、僕自身もお世話になっていない。今の時点で関わり合いがあるとすれば、それは今日出会った司祭様だけだ。でも、あれは自分のポカだし、僕は悪くない。

「クロード、今の点滅の間隔は?」
「5秒ですね」

「その点滅間隔は、日を追うごとに短くなる。100%の予知である以上、今後何処にいようとも気を抜くな。迫り来る不幸に対抗できるよう、ギフトやスキル、魔法をしっかり磨いていけ。もし、青く点灯する項目が生じた場合、それこそが不幸を乗り越えるための鍵だ」

ここから更に教えてもらうと、点滅が始まってから不幸が訪れるまでの期間というのは、全員バラバラらしい。これまでの調査の結果、最短で1日、最長1ヶ月で不幸が訪れる。その内容が、[魔法暴走][魔法誤爆][模擬戦][喧嘩][勘違いによる殺傷事件][建物倒壊][冤罪死刑][呪い]など多種多様あり、乗り越えた者もいれば、最悪死亡した人もいる。

最も気の毒なのは、その人物が死んだ後に起こる家族の悲劇だ。ギフトの中には、死んだ者から情報を読み取る効果のものもあり、それを使われると、[神の死らせ]が届いていたこともわかってしまう。仮に、他人の魔法誤爆で亡くなったとすると、当然自分だけでなく、周囲も大勢巻き込まれてしまう。こういった場合、魔法を誤爆させた人が訴えられるけど、これが発覚すると、それを持つ所持者が犯人と同程度の責任を負わされてしまう。『予め言っておけば、大事故を防げた』が、世間の言い分だ。

マグヌスさんから色々と聞いた僕は、どんどん暗い気分になっていく。

「マーニャ様、クロードの不幸が過ぎるまで、彼と会うのを最小限にした方がいい」

え!?

「マグヌス、それってクロードを見捨てるってこと!!」

悲壮な顔を浮かべるマーニャ、彼女には悪いけど、僕もマグヌスさんの意見に賛成だ。どんな不幸が訪れるのかわからない以上、僕と行動を共にしていたら巻き込まれる可能性が高い。

「100%の予知である以上、彼自身が1人でその身に降りかかる不幸を乗り越えないといけません」

「そ…そんな」

マーニャは悲しげな顔を浮かべ、僕を見つめる。

「マグヌスさん、家族と相談して、今後の行動を決めます。マーニャ、神の死らせが消えるまでは、極力会うのを控えよう。明後日、訓練学校に行って、担任の先生たちにも言っておくよ。多分、不幸が終わるまで、学校に行くのも控えると思う」

「学校まで休むの!? ……わかった」

彼女は僕に降りかかるものの危険度の高さを理解してくれたのか、悲しみの表情を浮かべ、嫌々ながら頷いてくれた。まるで、これが今生の別れであるかのように。

「クロード、気になることわからないことがあれば、俺に連絡するんだ。俺が単独で迷惑にならないよう動けば、誰も文句を言わない」

マグヌスさんは、危険が自分の身に降りかかることを覚悟して、僕に協力してくれるのか。

「助かります」
「クロード、絶対不幸に打ち勝ってね!! 絶対に死なないでね!!」
「勿論、死ぬつもりはないさ!!」

僕は2人と別れ、邸内の自分の部屋へ入り、ベッドに寝転がり、今後のことを考える。自分の死んだ後でも、家族に迷惑を掛ける可能性がある以上、何とかして対抗策を立てないといけない。教会関係者が、僕とどう絡んでくるのかが問題だ。100%で起こる以上、どこに逃げても無駄だ。

どうする? どうすれば、最小限に被害を抑えられる? 
一層の事、山にでも引き篭もるか? 

この事を家族に話すためにも、まずは資料室へ行き、色々と調査しよう。

○○○

資料室には、様々な本が棚に並べられていたから、僕はギフトに関わる本と国語辞典を取り出し、机に向かい調査を開始する。

「まずは、女神様の贈り物とされる【ギフト】についてだな」

え~と、『ギフトは千差万別あり、存命中の者たちの中で同じギフトを持つ者はいない』、これは僕でも知っていることだ。千差万別あるからこそ、これまで効果が明らかにされてきたギフトに関しては、教会内で辞典としてまとめられているし、一部は世間に公開されている。

他に、どんな事が書かれているのかな?

『ギフトを扱う上で共通していること、それは所持者の心の強さにある。本人の想いが強ければ強いほど、強い効果を及ぼす。戦闘時、全てにおいて負けている場合であっても、ギフトだけは本人の意志次第で、強者を上回る事が可能である。ただし、少しでも弱気になっている場合、ストレートに影響を与えるので、ギフトを疑ってはならない』

[ギフトを疑うな]だって!? 

そういえば、昼間に壁を出現させた時、余計な事を思ったような気がする。まさか、それが影響して、あんな脆弱な壁が出来たのか? 国語辞典だと、【壁】はどう記載されているのだろう?

「【壁】、建物の外周の部分。部屋などを仕切るもの。前進を阻むもの。進展の妨げとなるもの。例としては、[記録の―を破る][開発が―にぶつかる]か。なるほど、物理的な意味合いでの壁だけでなく、こういった意味でも使用されるのか」

目に見えない壁を僕のギフトでどうにかできるのだろうか? 仮に、その壁を破壊できたとしても、記録を破りたい本人がどうにかしないと、壁なんて乗り越えられないだろ? 開発にしてもそうだ。僕のギフトは、こういった壁にどんな効果を及ぼすんだ?

でも、何か光明が見えたような気がする。

あとは家族に[神の死らせ]を伝え、どういった対処を行うのかだけど、学校には通えないし、この邸に滞在し続けるのも危険だ。不幸自体が僕に襲いかかってくる以上、何処にいても危険が付き纏う。誰かが巻き込まれ、僕が死んだら、家族がその責任を問わされる。

待てよ!!

もしかしたら、マグヌスさんに教わったことを逆手に取れば、僕も普通に生活できるかもしれないし、家族にも責任が追及されることもないかもしれない。

よし、家族が帰ってきたら、早速相談してみよう!!

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