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3話 幼馴染が僕の心をペキンと砕いた 

僕はギフト[壁]の力を知るべく、マーニャたちと急ぎ、自宅へと帰った。今、邸の主人である父と長兄は王城騎士団の業務で不在、母も婦人たちとのお茶会により不在、次兄は学生で、今は休日中というもあり、友達の家へ出掛けている。つまり、僕の誕生日を祝うべき家族は、今この邸に誰もいない。まあ、昨日の時点でこの時間帯に全員不在であることを聞いているから構わないのだけど、今の僕にとっては好都合だ。使用人たちも、夜に家族だけで開催される僕の誕生日パーティーの準備で忙しいようだから、今のうちに自分の力の一端を知っておこう。

「よし、この端っこなら、皆の邪魔にならないし、巻き込まないだろう。マグヌス先生、もしものこともあるので、マーニャを守ってください」

マグヌス先生は26歳、小さい頃からお世話になっていて、僕の師匠的存在だ。だから、邸内にいる時に限り、僕はマグヌス先生と呼んでいる。

「こちらは任せておけ。今は、自分のギフトに集中しろ。手始めに土の壁を形成してみるといい」

「はい!!」

ここに来るまで壁について少し考えてみたけど、やっぱり建物の外壁のようなものしか浮かばない。とりあえず、今はそれで良いからイメージしてみよう。魔法と違い、詠唱なんて知らないから、そのまま叫んでみよう。

「壁よ!!」

おお、イメージした通り、高さ1メートル、厚さ10センチほどの土の四角い壁が地面から盛り出てきた……けど、これって土魔法[ストーンウォール]とどう違うんだ? まさか、無詠唱で壁を出現させるギフト……なんてことはないよな? 物理的にも魔法的にも、全く耐久性能のない脆い壁だったら、正直傷つくんだけど?

「ただの土の壁なのかな?」

マーニャが、恐る恐る近づいていく。マグヌスさんも油断なく、即時に対応できるよう土壁を凝視している。

「一応、そうイメージしたからね」
「えい」

マーニャが壁に近づき、ツンと壁を小突く。
すると、土壁が横に真っ二つにペキンと割れて崩れ落ちた。

「ぐは!!」

僕は、プライドを粉々に打ち砕かれ、四つん這い状態となる。
今、僕の心はマーニャの手によって砕かれたのだ。

「ええ、どうしたの!? まさか、壁とクロードの身体がリンクしているの!?」

「違うよ。女の子が少し小突いただけで壊れるほどの脆い壁だと知った瞬間、僕は何とも言いようのない絶望に胸を苛まされたのさ」

ほんのちょっとツンとやっただけで、普通壊れないぞ? かなり頑丈にイメージしたし、魔力だってちゃんと通したんだ。それなのに、この脆弱性はないだろ? 物理が駄目なら、魔法耐性のある壁なのか?

「もう一度、壁よ!!」

僕は立ち上がり、1回目の時よりも強くイメージして、魔力もきちんと通し、壁を形成させた。

「マーニャ、弱い魔法を打ち込んでくれ」
「わかったわ……威力を1/4くらいに抑えて……[アイスパレット!!]」

頼むから、壁を貫くという悲惨な結末にならないでくれよ!!
直径2センチ程の20発の小さな氷の弾丸が壁に向かう。
さあ、どうなる!! 今度は、しっかりと見極めてやる!!

「ちょっと、止めて止めて!!」

無情にも、僕の嫌な予感が的中してしまう。

「なんで、全弾貫通するの!?」

これはないだろ? マーニャは言葉通り、通常よりもかなり控えめにして放ったんだぞ? しかも、厚さ10センチもある壁を貫通しているにも関わらず、威力が全く衰えていないような印象を受けた。

物理耐性も魔法耐性もない壁って、何の役に立つんだよ!!


○○○


あれから3回挑戦したけど、どれもこれもがペキンペキンと脆くも折れていったことで、僕の心は荒んでしまい、現在三角座り状態でいじけている。

「元気出してよ。まだ、ギフトが発現して間もないから、これから調査していけば、[壁]の意味がわかるはずだよ」

マーニャの言いたいこともわかるけど、出足を挫かれたせいで、僕は完全にやる気を無くした。

「クロード、どうやら招かれざる客の登場だ」

僕はマグヌスさんの言葉で立ち上がり、邸入口を見つめると、そこには伯爵令息ロブスとそのお供2人がいて、僕たちを認識すると、警備の制止を無視して、堂々とこちらへ向かってくる。2人の警備員とロブスたちとの諍いが起こる前に、僕は警備員にアイコンタクトを送ると、彼らも察してくれたのか、僕に一礼して自分達の立ち位置へと戻っていった。

本来、先触れを出すのが貴族としてのマナーなんだけど、彼らはそういった配慮が欠けているところがある。一応、同年代で同じ騎士を志す者として、今後とも仲を深めていきたいから、僕もその都度注意こそすれど、いちいち怒ったりはしない。

「ロブス、毎回言うけど、来るのなら先触れを出してくれ」

ロブスは、嫌味ったらしい笑みを浮かべる。彼は僕の通う訓練学校のクラスメイトで、剣術の腕も僕と互角だ。ただ、性格に難があるせいで、皆からの評判が良くない。僕とは頻繁に模擬戦をするせいか、しょっちゅう絡まれることもあり、僕も口調に敬語を入れていない。マーニャは彼らのことを嫌っているため、僕たちから距離を取る。

「そう固いことを言うなよ、クロード。それより聞いたぜ、お前のギフトは壁なんだってな」

「な!? まだ、2時間くらいしか経過していないのに、何で知っているんだ?」

司祭様が礼拝堂内で余計な一言を言ったけど、それが周囲に広まるまでは時間がかかるはずだ。

「今日の儀式には、俺の従兄弟も参加していたんだ。さっき電話連絡があって、それが本当なのか確認するために、ここへ来たのさ。その様子だと、本当のようだな」

あの中に、お前の従兄弟がいたのかよ!! そうなると、僕の情報が貴族中に出回るのも時間の問題だな。後ろに控えているロブスのお供共は馬鹿にした目で僕を見ており、下卑た笑みを浮かべている。どんなギフトなのかも判明していないのに、[壁]と聞いただけで、建物の壁しか思い浮かばないのだろう。

僕も、人のことは言えないけどね。

「それだけじゃないだろ?」
「察しがいいな。お前も、ギフトを授かったんだ。早速、今ここで俺と模擬戦しようぜ!!」

ロブスは僕を馬鹿にすることなく、堂々と模擬戦を申し込んできた。

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