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222章 アヤメからの手紙

 アヤメは引っ越しを終えて、ミサキのところからいなくなった。満足な収入を得た以上、他人の家に住み続けてはいけないと判断したようだ。

 ほとんどのお金を没収された状態で社長から捨てられ、ミサキのところにやってきた。トップとして活躍してきた女性は、一瞬で地獄に落ちた。

 V字回復したかのように、生活水準は持ち直していく。アヤメは水着撮影の仕事をはじめ、たくさんの業務を引き受けた。一回当たりの報酬は良いものが多く、懐はすぐに潤うこととなった。アヤメ曰く、アイドル時代の全収入を上回ったらしい。アイドル会社は報酬の大半を、社長の豪遊費、育成費として天引きしていた。

 ミサキはアイドルではないこと、体重を維持するために、写真撮影に協力する機会は少なかった。依頼を断るごとに、体力の重要性を思い知らされた。どんな才能を持ち合わせていたとしても、体の弱い人間はダメだ。

 ミサキの家に、アヤメから手紙が届けられた。

「短い間でしたけど、本当にお世話になりました。ミサキちゃんと出会えていなかったら、私の人生は終わっていたと思います。

 アイドルを引退したにもかかわらず、水着撮影の依頼は増えてしまいました。いつまでかはわかりませんけど、アイドルと全く同じ生活を送ることになりそうです。アイドルから退こうと思っていたので、戸惑っている部分もあります。

 いろいろな会社から入社を進められましたけど、すべてを断っています。テレビ出演をする会社に所属するのはこりごりなので、フリーランスとしてやっていくつもりです。己の力を磨き続ければ、フリーランスで十分にやっていけると思います。ミサキちゃんと一緒に仕事をしていたら、そのように思えるようになりました。

 アイドルの社長は、刑務所の中で絶望死したみたいです。人のことをぞんざいに扱っていたので、当然の報いだと思っています。社長の死によって、傷はちょっとずつ、ちょっとずつ癒えていくのではないでしょうか。

 ミサキちゃん、体に気を付けて、楽しく生きてくださいね」

 手紙を読み終えると、封筒の中にしまった。そのあと、タンスの中に入れた。

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