210章 シノブの風格
焼きそば店がオープンすると、あっという間に満席になった。
「いらっしゃいませ」
サイン、握手の要望ではなく、焼きそばの要望を出された。
「ミサキさん、焼きそばを食べたい」
「びっくり箱焼きそば、びっくり箱焼きそば・・・・・・」
ミサキの聴覚は、ある言葉に敏感に反応する。
「びっくり箱焼きそば?」
「ミサキさんの焼きそばは、ランダム(気分)で作られている。どんな味なのかわからないことを、びっくり箱に例えているの」
具材、味付けなどをいろいろと試した。味にムラが出るのは、やむをえないことといえる。
「焼きそばの味については、高レベルでまとまっていると評判だった。一部には火を通し過ぎ、味が明らかに濃い、薄すぎるというのもあったけど、食べられないほどでなかったみたいだね」
焼きそばの精度を高めて、全員においしいものを食べられるようにしなければ。焼きそばのスキルをあげるために、家で練習しようかなと思った。
「ミサキちゃんの焼きそばを、限界突破するまで食べてみたい」
焼きそばを食べ過ぎると、おなかを壊すことになる。腹痛を避けるためにも、ほどほどにしたほうがいい。
「ミサキちゃんは焼きそばを作らないの?」
「今日はいつものポジションです。期待に沿えずに、申し訳ありません」
20くらいの女性から、思いもよらないことを提案された。
「女性客限定で膝枕サービスを、やってみるのはどう?女性客は大いに喜ぶと思う」
「ミサキちゃんの膝枕で、大いに癒されたい」
「膝枕をされているときに、耳掃除のサービスもあるといいな」
ミサキは思いもよらない展開に、素っ頓狂な声を発していた。
「ひぇ~~~~~~~」
身近な人物のサービスとしてはいいけど、一般客に対するサービスとしては厳しいといえる。
「店内で膝枕サービスは難しいです。期待に沿えずに申し訳ありません」
ミサキが必死に頭を下げようとする前に、シノブはこちらにやってきた。
「店内における、過度な接触は禁止です。お守りいただけない場合は、通報を視野に入れさせていただきます」
シノブの威圧感はすさまじかったのか、女性客は言葉を失うこととなった。