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183章 マイの度胸

 マイはバンジージャンプ台に立っていた。ガラスのハートの女性とは異なり、堂々としたふるまいをしている。

「命綱などを確認しますので、しばらくお待ちください」

 安全装備の不確認による、死亡事故は稀に起こりうる。遊戯者の安全確保のためにも、装着ミスは許されない。

 バンジージャンプの点検作業を終えたあと、

「マイさん、とんでください」

 という声が聞こえた。マイはそれを聞くと、一ミリの迷いもなく、ジャンプ台から勢いよく飛び出す。初めてとは思えないほどの、強心臓をしている。ミサキは心臓に大量の毛が、生えているのかなと思った。

 バンジージャンプを終えた女性に、遊園地の関係者は大きな拍手を送っていた。

「マイさん、グレイトです」

 遊園地関係者の視線は、こちらに向けられた。言葉にはしないものの、ああいうふうにしてほ
しいと伝わってきた。アヤメの行動を咎めはしたけど、本心ではやってほしいと考えているようだ。

「シノブさんもお願いします」

「わ・わかり・・まし・・・・」

 シノブは未体験のアトラクションに、大きな不安を抱いていた。先ほどまでの元気は、完全に消えている。

 バンジージャンプの前に立つと、体をがくがくと震わせていた。

「シノブさん、無理しないでください」

「いいえ、やります。やらせてください」 

 遊園地関係者は、ストップをかけた。

「恐怖心を引きずると、事故率はアップします。こちらとしては、事故だけは絶対に避けなくてはなりません」 

 一度の事故=閉園につながりかねない。慎重になる気持ちは、痛いほど伝わってきた。

「マイさんのジャンプは、楽しさ、面白さ、スリルなどを伝えており、パーフェクトです。シノブさんの映像はなくても、問題ないでしょう」

 シノブは足を滑らせてしまい、空中に旅立つこととなった。想定外の事態に、すべての人は大慌てとなった。

 幸いにも大惨事にはならなかった。大切な命を守ったことに対して、ミサキ、マイ、遊園地関係者は安堵の息をついていた。

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