174章 お風呂に入る
*話の一部に性的な内容を含みます。
ミサキ、ホノカは二人でお風呂に入った。裸の状態で他人と入浴するのは、社員旅行以来である。アヤメとお湯につかったときは、水着を着用していた。
ユタカは一緒に入らなかった。同性であったとしても、裸を見られることに抵抗を持っているようだ。彼女の考え方について、深いところまで立ち入るつもりはない。
ミサキの脳裏に、アオイ、ツカサが浮かんできた。懲戒免職を言い渡された二人は、どのように生活しているのだろうか。他人事とはいっても、ほんのちょっとだけ気になった。
ホノカは気持ちよさから、顔はとろけていた。彼女を観察しているだけで、おおいに癒されることとなった。
「ホノカちゃん、すっごく気持ちよさそうだね」
「うん。温泉に入ったときよりも、とっても気持ちいいよ」
ミサキは眠いのか、大きな欠伸をする。
「ミサキちゃん、完全には回復していないみたいだね」
「3時間も眠ったのに、疲れは取れていないみたい」
「ミサキちゃんの体は、通常の人よりも疲れやすいかもしれないね」
「それはあるかもね」
ミサキは19歳。体力の全盛期を迎えているため、往復14時間の移動をしても、ここまでは疲れないと思われる。
「通常の人よりも、仕事をセーブしないといけないね」
「そうだね。今後はしっかりと調整する」
一秒も仕事をしなくても、100万ペソを支給される。食べる、寝るだけの生活を送るためな
ら、十分すぎる金額といえる。
「ミサキちゃん、体の流しっこしようよ」
「ちょっと恥ずかしい」
「次回に持ち越ししようか」
「うん。次にお風呂に入るときは、体の流しっこをしようね」
「ミサキちゃん、指切りげんまんをしよう」
幼稚園、小学生の記憶がよみがえってくる。どんな小さな約束をするときも、指切りげんまんをしていた。
「うそついたら、ハリセンボンのますからね」
「うん。わかった」
ミサキは疲れからか、体のバランスを崩してしまった。体勢を立て直した直後、ホノカの胸に触っていることに気づいた。
ホノカに胸を触らないようにいっていたのに、自分は胸に触ってしまった。不慮の事故とはいえ、取り返しのつかない失態を犯してしまった。
ミサキはどのように切り出そうかなと思っていると、ホノカは満面の笑みを浮かべていた。胸を触られたあとには、まったく見えなかった。
「ミサキちゃん、とってもおちゃめさんだね」
「ホノカちゃん、本当にごめんなさい」
「本気で許しを請うなら、胸を触らせてほしい」
ミサキは自分の胸を差し出す。ホノカはすぐさま、二つの胸を触ってくる。恥ずかしさ、悲し
さ、切なさといった感情が交錯することとなった。嬉しい、気持ちいい、喜ばしいという感情は
芽生えなかった。
ホノカは感情に気づいたのか、十秒ほどで手を離す。そのあと、ゆっくりと体を包み込む。こちらについては、最高に気持ちよかった。
「ミサキちゃん、ごめんね・・・・・・」
ホノカの優しさに触れたことで、ショックは罪悪感に変わることとなった。
「ホノカちゃんは、胸を触られるのは平気?」
「彼氏と交際していたときに、胸を揉まれていた。そのこともあって、免疫はついていると思うよ」
「ホノカちゃん、彼氏と交際していたの?」
「アイドルに挑戦するまでは、交際していたよ」
ホノカは体を離したあと、いきさつを簡単に説明する。
「アイドルに挑戦するといったとき、彼氏と大喧嘩になった。お互いに一歩も引かなくて、最終的には破局した」
夢を追いかけたい女性を、素直に応援できない男。こんな人と一緒にいても、メンタルを消耗
するだけだ。
ホノカは嫌なことを思い出したのか、眉間にしわを寄せていた。
「お前には絶対無理、現実を見ろ、やるだけ時間の無駄、アイドルの素質0とかいわれて、頭に血をのぼらせてしまった。私はどうしても許せなくて、交際にピリオドを打った」
仮に事実だとしても、何をいってもいいわけではない。他人を傷つけないような、立ち回りを求められる。
「彼氏を見返すために、アイドルに挑戦した。すぐに終わってしまったけど、夢を追ったことは後悔していないよ」
夢を追わずに諦めるよりも、夢を追って諦めたほうがいい。人生を無駄にしたとしても、貴重な財産になりうる。
ミサキは励ますために、ホノカの髪の毛をなでなでする。とっても気持ちいいらしく、餅さながらに表情はふやけていた。