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もふもふ~


 俺とひなたはエレベーターに乗り込む。
 彼女は鼻歌交じりで、一番上のボタンを押した。
 つまり、このマンションの最上階という事だ。
 それだけ値段もお高いんでしょうねぇ……。

 ポンッ! と音を立てて、目的地である階に着く。

 驚いたことに、このフロアは一軒しか存在しない。
 エレベーターの扉が開いたら、すぐに表札が見えた。
 開いた口が塞がらない俺を放って、ひなたは玄関の前に立つ。
 ドアの持ち手を、人差し指で軽く触れてみる。
 すると、あら不思議。簡単にドアの鍵が開いた。

「な、なにが起きたんだ!?」
「え? 玄関ってこうして開けるでしょ」
「そんなわけあるか!? 鍵を使って開けるだろ!」
 俺がそう指摘すると、ひなたは少し考えこんだ後。
 手のひらを叩いて、何かを思い出す。
「ああ、これのことですか?」
 そう言って、俺の前に差し出したのは、小さな端末だ。
「なんだ……これは」
「うち、ハンズフリーなんで、これさえあれば。家に入れるんですよ♪」
「……」

 圧倒的な格差!
 俺もこの家に住みたいよぉ……。

  ※

 ひなたの家は、予想以上に広かった。
 玄関から廊下を抜けると、異常なほどにだだっ広いリビングがお出迎え。
 キッチンも最新のシステムキッチンだし、ふかふかのソファーがあるし。
 本当にお嬢様なのね。

 俺が自身の貧困レベルを再度確認できたところで、部屋の奥からタタッと足音が近づいてきた。

「ワンワンッ!」

 大きな犬種だ。
 ゴルーデンレトリバーか?

 飼い主であるひなたへ、猛突進。
 ちょうど、彼女の股間あたりに顔を埋める。

「ハハハッ! ピエール、元気にしてた?」

 嬉しそうに、犬の頭を撫でるひなた。
 このピエールってのが、彼女の言うペットか……。
 なるほど、確かに見ていて、可愛いな。

 だが、次の瞬間。
 更に部屋の奥から、無数の鳴き声と共に、フローリングを激しく蹴る音が聞こえてきた。

「うおっ!」

 現れたのは、10匹ほどの様々な犬種。
 大型犬から小型犬まで。
 あっという間に、リビングは犬で埋め尽くされてしまう。

 ひなたを中心にして、皆おすわりする。
「へっへっ」
 と舌を出して、飼い主の帰宅を喜んでいた。

 なんか俺は、疎外感を感じて、数歩後退りする。

「ジャン、ミシェル。ロバートにジョン。トミーとケヴィン。アンソニーもビルもショーン。ただいま~!」

 よくそれだけ、名前をつけたな。
 てか、オスしかいないのか。
 メスがいなくて、発情期が大変そう。
 ん……でも、最後の一匹は?

「それに、|敏郎《としろう》!」

 俺は思わず、その場でずっこけてしまった。
 なんで、最後の子だけ渋い日本名なんだよ……。

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