131章 新しい呼ばれ方
ミサキ、シノブ、マイ、アオイ、ツカサ、ホノカ、ナナ、ユタカの8人で、焼き肉店に入った。
「いらっしゃいませ」
20くらいの女性店員は、さわやかな声を発する。
「ただいま、満席となっております。30分くらいは待つことになりますけど、よろしいでしょうか?」
ミサキのおなかに余裕はなかった。30分以上の待機は、かなり厳しいと思われる。
シノブは困っている女性に、救いの手を差し伸べようとしていた。
「ミサキさん、おなかは持ちそうですか」
アオイ、ツカサなどは焼き肉を楽しみにしている。個人のおなかの事情だけで、焼き肉店を出るわけにはいかなかった。
「30分くらいなら、ここで待っているよ」
「ミサキさんのために、おにぎりを10個ほど用意しています。どうしてもダメなときは、私に伝えてください」
ミサキの空腹を常に考える、シノブという女性は気配りのできる女性だ。
20くらいの女性は、こちらに近づいてきた。
「当店内では飲食禁止です。お守りいただけない場合については、退店していただくことになります」
シノブは完食できないとわかると、別の案を提案する。
「焼き肉は次回にしましょう。ミサキさんのおなかを考えると、長期間の待機は危険です」
アオイ、ツカサは焼き肉を楽しみにしていたのか、大いに不満を漏らす。
「焼き肉を食べたいよ」
「焼き肉を食べるために、朝食から何も食べていないんだよ」
ホノカも同じだった。普段は真反対なのに、肉を食べたい気持ちは重なっていた。
「私は焼き肉を食べたい」
ナナも同じだった。
「焼き肉を食べたい」
4人も食べたい人がいるなら、焼き肉店を退出するのは難しい。30分間だけは、店の中で待とうと思った。それ以上になったときは、待つ保証はできない。
20くらいの女性定員は、こちらの顔を覗き込んできた。
「アヤメさんとCM出演した、ミサキさんですか?」
「はい、そうです」
「ミサキさんに会えて、とっても光栄です。あ・・・・・・」」
女性店員が手を差し出そうとすると、40くらいの男性に注意されていた。
「アスカさん。お客様に握手を求めないように・・・・・・」
アスカはしぶしぶ手をひっこめる。
「は~い」
40くらいの男性は、深々と頭を下げる。
「当社の従業員の失礼を、深くお詫びさせていただきます」
「いいえ、気にしないでください」
焼きそば店で働いているときに、いろいろな人と握手をする。数え切れないほどしてきたからか、握手に対する抵抗感はなかった。
「ミサキさんの来店を、PRしてみるのはどう。来客を一気に増やすチャンスだよ」
アスカの言葉に対して、店長は何度も頷いていた。
「ミサキさん、PRさせてもらってもいいですか」
「それはちょっと・・・・・・」
PRに利用されると知って、別の店に行きたいという気持ちは強くなった。
席を立とうとしていると、18歳くらいの女性が近づいてきた。
「大食いCMガールだ」
大食いとガールの間に、CMをつけられるようになった。何かをするたびに、呼び方は変わっていくことになりそうだ。
「焼き肉店で顔を合わせたことを、友達に知らせないと・・・・・・」
PRをするまでもなく、来店情報は拡散することになる。ミサキは手の施しようがなかった。