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能力のおさらいと試食会


 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 こうして俺と大葉が異世界人である事は受け入れられたのだが、ジューネは大葉の能力について詳しく聞きたがった。

「さあさあお聞かせください! 異世界の物を取り寄せるなんて商人からしたら垂涎物ですからね」
「期待しているトコ悪いっすけど、あたしの『どこでもショッピング』はそこまで使い勝手が良くないっすよ」
「制限って奴だな? それも含めて能力についておさらいしてもらえるか?」

 初めて会った時にざっと教えてもらったけど、良い機会だからじっくり聞かせてもらおう。

「了解っすセンパイ! そんじゃ基礎から説明してくっすよ! セプトちゃんやエプリさんもバッチシついてきてくださいっすね!」
「大丈夫。任せて」
「……努力はするわ。内容よりも口ぶりで疲れそうだけど」

 セプトは行儀よく座り、エプリも壁に背を預けたままぶっきらぼうに返す。どうでも良いけどいつも壁とかに背を預けてるな。ダンジョンの中でもそうだったし癖なのかね?

「じゃあいくっすよ! まず能力を使う時はこのタブレットを使うっす」

 そう言いながら大葉は俺の貯金箱と同じく、どこからともなくタブレット端末を取り出してテーブルに置く。

「合言葉は『ショッピングスタート』。まず最初にカテゴリ、大まかな種類を言うっすよ。例えば……カテゴリはお菓子っす」

 キーワードで起動すると共に、画面にスナック菓子やちょっとした和菓子、簡単なケーキ等が表示される。……微妙に種類が偏っているな。コンビニとかで買えるような菓子ばっかりだ。

「こうして品物を絵で実際に見られる訳ですか! それにしても鮮明な絵ですね」
「まあ画質は結構良くて助かってるっす。次に欲しい品をペンでタッチすると隅に金額が表示されるっすよ! 品物を選んだら『会計』っす」

 そうしてポンポンと画面をタッチし、会計と告げる大葉。するとタブレットから光が放たれ、光が収まるとテーブルの上に菓子の小袋が置かれていた。

 しっかりブ〇ックサンダーが業務用の箱ごと出されていたのはご愛敬だ。少し分けてもらおう。

「まあこんな感じっす。さあさあ皆様遠慮せずにどうぞっす!」

 こうして商談相手にアピールすべく、唐突に大葉プレゼンツの商品試食会が開催されたのだった。




「え~っと、これはどうやって食べるのですか?」
「ああなるほど。包装は分かりづらいよな。ほらっ! こうやって袋を破くんだ」

 ジューネに見えるように袋のギザギザの部分を破り、俺は中のブ〇ックサンダーを大口を開けて放り込む。……コレだよコレ! ブ〇ックサンダーはやはり美味いっ!

「トキヒサ。食べて良い?」
「ああ。大葉もどうぞって言ってるし、俺の許可なんて要らないからセプトも貰っておきな。エプリなんか誰よりも早く手を伸ばしてたぞ」

 あの言われなきゃ食べようとしなかったセプトが、()()()()食べて良いかと聞くだけで大きな進歩だ。

 それと俺は見たぞ。どうぞと言われた瞬間、目にも止まらぬ速さで食べ始めたエプリの姿を。食うなとは言わないが少しはセプトみたいに遠慮してほしい。

「……これは毒見。護衛として必要だからしたまでよ」
「毒なんか入ってないっすよ~! いやまあ美味しい物は女の子にとって甘い毒って言葉はあるっすけどね。カロリー的な意味で」

 エプリは素知らぬ顔で口を動かしながらそんなことを言い、大葉も冗談っぽく返す。そしてセプトが菓子を口いっぱいに頬張る愛らしい姿を見て、ジューネも意を決したのかブ〇ックサンダーを一口。

「……っ!?」

 その途端目が見開かれ、今度はもう一口大きく齧ると目を閉じてゆっくりと味わう。ふっふっふ。お気に召したみたいだな。流石ブ〇ックサンダー! 異世界でも美味さは健在だ。

「驚きました。こんな菓子食べたことありません。砂糖が大量に練り込まれているようですが、甘味だけのごり押しではなくどこか香ばしさや繊細さを感じさせます。それに何か別の穀物のような物を加えることで、ポリポリとした食感もさりげなく追加されていますね。飽きさせない味という奴です」

 突如としてどこぞの審査員よろしく解説をし出したジューネ。だが分かるよその気持ち。エプリ達が何だかぽか~んとした顔で見てるけど分かるとも。

「……これはかなり高級な菓子とお見受けしました。材料費に職人の腕も考え、私の見立てでは一つ……そうですね。八十デンといった所でしょうか? 如何ですか?」
「もうちょっと安いっすよ。手数料抜きで六十四デンっす。種類によっては八十デンくらいの物もあるっすが」

 ブラックサンダーが一つ三十二円として、一箱二十袋だから六百四十円か。手数料というのは知らないけど、この口ぶりからするとそこまで大した額という事はなさそうだ。

「なんと! これが六十四デンなら十分安いですよ! それに他の種類まであるとは。是非ともうちの商品として扱わせてほしいほどです」
「扱うってこれをっすか? 売れるかどうか見てもらうために試食をお願いしたんだから、売れるんなら大助かりっす!」
「おぉ! それはありがとうございます!」

 中々良い感じだ。これを取り扱おうとするとはやはり目の付け所が良いなジューネは。だけどあんまり渡しすぎると分けてもらえる分が減りそうで少し不安だ。

「……確かに美味しいわね」

 現に今もエプリがパクついているし、セプトも無言で頷きながら顔を少しほころばせている。……無表情な人形みたいだったセプトがここまで笑えるとは。お菓子はやはり良い物だ。

「ちなみにこの箱には今の品がいかほど入っているのですか?」
「中身っすか? これは一箱二十個入りっすけど」
「二十個ですか。とすると一箱千二百八十デンですね」
「……へっ? 何がっすか?」

 気のせいか? 今とんでもない額が聞こえた気がしたんだけど。

「ですから、一つ六十四デンが二十個で千二百八十デン……ああ! 無論まずこちらで買い取る際にはお代を上乗せしますとも」
「いや、そうじゃなくってっすね。これ一袋で六十四デンじゃなくて、()()で六十四デンなんすけど」

 その言葉にジューネが目を丸くしたのは言うまでもない。




「じゃあ皆さん。食べながらで良いんで説明の続きを聞いてくださいっす。ざっと食べてもらったんすけど……売れそうっすかねジューネちゃん?」
「売れそうかですって? そんなもんじゃありません。これは間違いなくバカ売れしますよっ!!」

 大葉のどこか自信なさげな言葉に、ジューネは食いつくように力強く断言する。というか半ば叫びだ。

「このブ〇ックサンダーにも驚かされましたが、他のどれも逸品ばかりです! この味、この品質、菓子にうるさい貴族でも十分黙らせられるほどの品ですよっ!」
「ジューネがそこまで言うとなると……ホントに結構売れそうだな」
「それがどれもこれも一つ数デン。いっても十デンくらいって……一体価格設定はどうなっているんですかっ!?」

 そんな事言われても、そこらのコンビニとかで売ってる駄菓子とかばっかりだしな。ブ〇ックサンダーなんかまさにそれだ。庶民の強い味方だぞ。

「こっちだと同じような物を売るとしたらどれくらいの値段になるんだ?」
「誰に売るかで多少変わりますが……例えばこのブ〇ックサンダーを売るとして、美食家の貴族ならさっき私が推測したように一つ数十デン。場合によっては百デン出しても欲しがるヒトは居るでしょうね」

 一つ下手すりゃ千円近くって、元値の約三十倍になってるじゃないか! 他の品も高評価みたいだし、上手くすれば濡れ手に粟の大儲けだ。……大葉の様子からすると無理そうだけど。

「どうでしょうかオオバさん! 異世界の品を大量入荷して、私の伝手で販売するというのは? これなら大儲け間違いなしですよ! 無論オオバさんの意向は最大限配慮しましょう。……どうですか?」
「う~ん。ジューネちゃんに任せてぼろ儲けってのも魅力的な話なんすけど……そもそも能力の制限に引っかかって上手くいかないと思うっすよ」

 そこで一拍おいて、大葉はポツリポツリと『どこでもショッピング』の制限について話し始めた。




「一つ目、一日に買い物できる最大上限は合計三千円分までっす」

 ちなみに合計額だから仮に地球の品を千五百円、こちらの品を百五十デン買ったとしてもやはり制限に引っかかるという。

「二つ目、あたしがこれまでに買ったことのある物しか買えないっす」

 道理でタブレットで見た一覧が偏っていると思った。完全に趣味嗜好買い物履歴が反映されている訳だ。あと値段に関しては、どうやらその世界での平均的な額をどういう訳か算出しているらしい。

 試しにジューネからこっちの世界の菓子をわざと安値で売ってもらったら、タブレットの一覧に()()()()()で追加されていた。

「三つ目、同じ商品は一日一つまでっす」

 これは正確に言うと、大葉が一つの商品として買った物は一つずつしか買えないが正しいらしい。例えば大葉は以前ブ〇ックサンダーを箱買いしたらしいが、その場合一袋と一箱は別物だ。なので別々の品として一つずつ買える。

「四つ目、一日一回のカウントは、夜中の十二時にリセットされるっす」

 これは俺の通信機のタイミングと同じらしい。つまり一日が終わるギリギリで買い物をしたとして、そのまま十二時過ぎたらまた買い物が出来るみたいだ。

「う~ん。まあ大体()()()()()()()こんな所っすかね。という訳で大量販売ってのは無理だと思うっすよ。毎日同じ物をジューネちゃんが買い続けるんならいけるかもっすけど、それだと新しく別のを仕入れられないっす」
「むむむっ! 悩ましい所ですね。ブ〇ックサンダーは魅力的な商品ですが、同じ品ばかりも困りもの。かと言ってそれぞれ少しずつでは継続した販売は難しい。しかし時間を掛ければ可能なら……もしくは珍しい鉱石などでも」

 大葉が説明し終わるのを聞いて、ジューネはどこかにやけた顔をして悩み始める。今頭の中では数多くの売り込む相手とその手順、それによって生じるリスクとリターン、まわりに起きる影響がグルグルと渦巻いているのだろう。

 あの顔からすると大儲けした未来でも想像しているのかもしれない。幸せな悩みという奴だ。……ここは引き締める為に言っとかないとマズいかな。

「なあジューネ。ちょっと良いか?」
「むむ……む!? どうかしましたかトキヒサさん?」
「これは俺の意見だけど、異世界の物は大量に売り出すのはどうかと思うんだ。都市長さんにアルミニウムを売り込んだ時もアレだったしさ」

 まさか一円玉を大量に渡したら実験で被害が出るとは思わなかったしな。地球では何でもない品でも、こっちでは危険物になるという事がまた起きないとも限らない。

 ジューネもそれに思い至ったのか、ハッとした様子で表情が引き締まる。

「……確かにその点を失念していました。食べ物くらいならまだしも、いちいち販売する品を検査していたら時間が掛かりすぎますね」

 まあ極論すれば食べ物も世界が違うから影響が出る可能性はあるんだけどな。……そこは流石に何かあったらアンリエッタが言ってくると思うので心配してなかったけど。

「それに一日三千円分、三百デンだったわよね? それぐらいでは何かあったらすぐ無くなってしまうわ。……いざ何か必要な時に使えないのではマズいし、オオバの出せる品に何があるのかも把握できていないのに、今から焦って決めなくても良いんじゃない?」

 加えてエプリの掩護射撃にセプトがこくこくと頷く。食べ物なら安いから良いけど、それにしたって買い過ぎたらすぐ上限に引っかかる。ここら辺を何とかしないと大量販売は無理だな。

 その後もジューネは悩んでいたが、結局定期的に今試食した品を大葉から買い取るという話で決着がついた。もちろん上限も考えて少しずつだ。

 菓子類は日持ちするから保存食としても使えるし、毎日少しずつ貯めていけば大量販売も不可能ではない。もしくは美食家の貴族に売りに出してパイプを作るのにも使える。ジューネ的にはそう考えているようだ。

 そこで一度能力の説明及び試食会は終了し、それぞれ自分の部屋に戻ることになった。

 と言っても大葉はジューネに引き留められて、もうしばらく説明を続けることになったが。……商人モードになったジューネは大変だからがんばれよ大葉。




 ◇◆◇◆◇◆

 異世界ファンタジーあるあるですが、砂糖を練り込んだ菓子は大概高いです。なので一般的には、果物に味付けをした菓子などが普及したりします。

 ちなみにジューネは頭の中で、いくつかの販売ルートを思いついていました。大葉に制限がなければ一年で一億円も普通に稼げていたでしょうね。

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