123章 アイドルの闇
マイは大きく背伸びをする。
「20年前と比べると、アイドルの仕事は穏やかになったよね」
裸同然の水着をさらけ出しているのに、穏やかになっているのか。ミサキの脳裏にクエッションマークがついた。
「20年前はどんな感じだったの?」
ミサキの質問に、マイが答える。
「テレビの生放送で、○○とか○○をしていたと聞いた。常軌を逸脱した仕事内容に、アイドルから抗議の声が続出したの」
ミサキは大声を出しそうになったものの、かろうじてこらえることができた。
○○、○○を日本の地上波で放送したら、テレビのチャンネルそのものをBANされる。2022年の日本では、絶対にありえないやり方だ。
「アイドルはどうして、そんなことをしなければならなかったの?」
シノブは小さく頷いた。
「発足当時はアイドルの権利は非常に弱く、プロデューサーの権限は以上に強かった。ロボットみたいに働かないと、写真集を売ることも許されなかった」
権力集中型になると、こういうことは起こりうる。独裁にならないためには、力の分散化を求められる。
「ファンの男性と○○、○○をする案もあったみたい。写真集を売りたいとはいっても、アイドルには耐えがたい苦痛だった」
男性と○○するのであれば、○○女優とそっくりだ。アイドルの仕事の範囲を、明らかに逸脱している。
シノブは続きを話す。
「テレビですぐに問題になって、プロデューサー、関係者の300人弱は一斉逮捕。悪質というこ
ともあって、関係者全員に終身刑を言い渡された」
被告が終身刑になったとしても、アイドルの傷は残り続ける。彼女たちの心のケアは、きっちりと行われたのだろうか。
マイは唾を飲み込む。
「アイドルグループは一度解散し、5年後に再結成した。再結成直後の希望者は少なかったけ
ど、徐々に人数は増えていった」
喉元過ぎれば熱さを忘れる、人間の脳はいつも単純だ。
シノブはアイドルの実態を話す。
「プロデューサーは訴えられないように、細かい指示を出すことはなくなった。水着の露出などは個々の裁量に任されている。それにもかかわらず、過激な格好で誘惑しようとするアイドルは後を絶たない。売れたい、売りたい、認められたい、チャンピョンになりたいという本能は、止められないみたいだね」
人間は承認欲求の強い生き物だ。写真集に見向きもされないのは、一人の人間のプライドが許さないようだ。
マイは小さな瞬きをする。
「過激な格好をしたとしても、他の人もコピーすれば同じ状態になる。他人にはコピーできない
ものを持っていないと、アイドルで勝ち残るのは難しい」
アヤメ、ココロは心を引き付ける、強烈なカリスマ性を持っている。アイドルで勝ち抜くために、必須スキルといえる。
シノブは大きく息を吐いた。
「アヤメちゃんは声もいいけど、肌の色もずば抜けている。雑穀米、野菜、大豆などの栄養食を
貫き通したからこそ、ライバルと差をつけることができた」
マイはアイドル時代の食事を口にする。
「アイドルの食事は健康食、自由食の2つが準備されている。どちらを食べるのかは、アイドルの裁量にゆだねられている」
「自由食はどんなものがあるの?」
「から揚げ、ハンバーグ、アイスクリームなどだよ。人間の食べたいものを、ふんだんに準備している」
アイドル活動は、かなりの疲労がたまる。ハンバーグ、アイスクリームなどを見せられたら、誘惑に負ける確率は高い。
「から揚げ、ハンバーグ、アイスクリームはトラップだよ。こちらにはまってしまったら、体のハリで差をつけられる。目の肥えた視聴者には、一瞬で見抜かれる」
水着はおなか、太腿などを人前で見せる。だらしないところを見せたら、一貫の終わりである。
シノブは小さく息を吸ったあと、アヤメの食事を話した。
「アヤメちゃんは一度も、から揚げ、ハンバーグ、アイスクリームなどに手をつけなかった。プロデューサーにお願いして、体にいいものだけを取り入れていた」
写真集を買ってもらうファンを裏切れない。ミサキの脳裏に、アヤメの言葉が浮かんだ