119章 アヤメの多忙さ
アヤメから、CM出演の話をされた。
「ミサキちゃん、コマーシャルデビューしたみたいだね」
「最初はやめようと思ったけど・・・・・・」
CM出演をすると、いろいろな人に顔を覚えられる。ごくごく普通の一般人としては、おおいなる違和感があった。
「映像は見ていないけど、とってもいいみたいだね」
「アヤメちゃん、コマーシャルを見ていないの?」
「うん。アイドルの仕事に手一杯で、コマーシャルを見る余裕はないの。気持ちを落ち着けることができたら、見ようかなと思っている」
15~30秒のコマーシャルを見る余裕もない。トップアイドルの生活は、想像以上に過酷さを伴っている。
「ミサキちゃんのCMに限らず、他を見る余裕はないの。私が知っているのは、アイドル活動に必要なことだけ」
「私の名前はどうやって覚えたの?」
「ミサキちゃんの存在は、住民の会話で知った。最初は聞き流していたけど、たくさんの人の噂になっていたので、さすがに覚えたよ」
「そんなに噂になっていたの?」
「少ないときで1日1000回、多いときで1日に10000回くらい聞いたからね。認知症、記憶障害にかかっていない限りは、頭に残るレベルだよ」
1日に1000回も耳にするとは。ミサキは抜群の知名度を誇っている。
「名前を聞いていたとしても、顔は覚えられないんじゃないの?」
「車に乗っていたときに、マネージャーに教えてもらったの」
アヤメは小さく瞬きする。
「巨漢を想像していたので、ガリガリと知ったときのギャップは大きかった」
大食い少女と聞けば、ふっくらとしたイメージを持つ。ガリガリに痩せた女性は、1ミリたりとも想像しない。