116章 シノブとお話し
ミサキは帰宅しようとしていると、シノブから声をかけられた。
「ミサキさん、ちょっとだけいいですか?」
「うん。いいよ」
「専用の部屋で、話をしましょう」
焼きそば店には、会話をする場所を設けられている。重要な話をするときは、こちらの部屋を使用する。
シノブ、ミサキは専用の部屋に腰掛けた。
「握手にストレスは感じていませんか?」
シノブはアイドル活動中に、男と握手をしている確率は高い。そのときの自分と照らし合わせているのかもしれない。
「嫌だと思うときもあるけど、嬉しいと思うこともある。マイナスばかりではないよ」
好みのタイプの男性と手をつなげるのは、大きなメリットになりうる。ミサキとしては、権利を手放すつもりはなかった。
「精神的にきついのであれば、すぐに相談してください」
「わかった。すぐに相談する」
席を立とうとすると、もう一度声をかけられた。
「ミサキさん、勤務日数を増やすことはできますか?」
ミサキの勤務は、1カ月で17日程度。40パーセント程度は、お休みを取っている。
「週5日くらいの勤務をしていただけると、こちらとしてはとっても助かります」
週5勤務になると、月に22日くらいの出勤となる。現実世界の社会人と、ほとんど変わらない。
「ミサキさんと仕事をしているだけで、たっぷりのやる気をもらえます。私としては、1日でも多く会いたいです」
「体が特殊なので、これ以上はきついと思う」
ミサキは座っていても、莫大なエネルギーを消耗する。立ち続けていると、消費エネルギーはさらに増え、食べる量の調節が厳しくなる。
「わかりました。仕事の日数は、これまでどおりとします」
「シノブちゃん、家を訪ねるのはどう?」
「ミサキちゃんの家を訪ねてもいいの?」
「毎日は厳しいけど、たまにならいいんじゃない」
「ありがとう。ミサキちゃんの家を訪ねる」
シノブは多忙であるため、家を訪ねる機会は限られる。ミサキは早くても、1カ月後、2カ月後かなと思った。