115章 それぞれの思惑
4時間勤務が終了する。
シノブにねぎらいの言葉をかけられる。
「ミサキちゃん、おつかれさま。今日もたくさん食べたね」
仕事終了後に、よく食べたといわれる。仕事をしているというよりも、焼きそばを食べに来ているみたいだ。
「ミサキさんの食欲はすごいですね」
ユタカは1回目こそ驚いたものの、2回目からは気にしなくなっていた。
マイは右の薬指を、ミサキのおなかにあてる。くすぐったさのあまり、体をそらした。
「マイさん、突然の攻撃はやめてほしい」
「ごめんね。そういうつもりはなかったんだけど・・・・・・」
ミサキ、マイのやり取りを見ていた、ユタカはおなかに興味を示す。
「ミサキさん、おなかを触ってみてもいいですか」
「ちょっとだけなら・・・・・・」
「ありがとうございます。ミサキさんのおなかに、失礼させていただきます」
ユタカはおそるおそる、ミサキのおなかに手を当てた。
「あんなに食べているのに、引き締まった体をしている」
食事の大量摂取、運動不足であるにもかかわらず、理想の体を維持している。通常の世界で
は、絶対にありえない。
ユタカは手を離した。
「ミサキさんのような体を手に入れたい」
こんな体を手に入れたら、空腹で苦しみ続けることになるよ。ミサキは心の中で、そのように呟いていた。
シノブはサイン色紙を用意する。
「ミサキちゃん、サインもたくさん書いたね」
「そうだね」
焼きそば店は焼きそばを売るところであって、サインをする場所ではない。店の利益につながっているとしても、腑に落ちない部分もあった。
シノブから思いがけない提案をされた。
「ミサキちゃん、1日の仕事をやってみない」
「1日の仕事?」
「朝の10時から、夜の6時くらいまで働くの」
マイは賛成した。
「ミサキちゃんと1日勤務をしたい」
ユタカも前向きだった。
「私もいいと思う」
ナナは反対意見を出す。
「ミサキちゃんに1日勤務をされたら、体を壊してしまうよ。ゆったりとする時間は必要だよ」
ホノカも反対意見だった。
「あまりに忙しすぎて、脳内パニックを起こすこともある」
ミサキの勤務時間に、シノブ、マイ、ホノカ、ナナ、ユタカは休みをとれない。シノブ、マ
イ、ユタカは問題なくとも、ナナ、ホノカの体は悲鳴を上げている。
シノブは顎に手を当てて、ゆっくりと考え込んだ。
「わかりました。当分については、このままでいくことにします」
マイ、ユタカは大いに残念がり、ナナ、ホノカは胸をなでおろしていた。それぞれの思惑が、はっきりと読み取れた。