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身分証明は異世界でも大事


 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「センパ~イ。あたし……もう我慢できないんすよ」
「ま、待てって大葉」

 大葉がじりじりとにじり寄ってくる。息は荒く、まるで飢えたケダモノの如し。

「もう……わりと限界っていうか、辛抱たまらんっていうか、だから……だから、センパ~イっ!」

 そして大葉は俺に向かって飛びかかり……そのままズザザッとスライディング土下座を決めつつ伏し拝むように両手を合わせる。

「そこの屋台のプリップリのお肉ちゃんを奢ってくださいっす~っ! この通りっすよ~っ」
「いやもっと普通に頼めよっ!? そんな事しなくても奢るって」
「ホントっすか!? ありがとうっすセンパイ! ゴチになるっす! 今日はこれに備えて朝食抜いてきたんでもう腹ペコで……待っててねお肉ちゃん。今行くっすよ~!」

 そう言って屋台に突撃していく大葉。そこまで気合入れてこなくても。

 エプリはその様子を一歩引いて見守り、セプトは相変わらず無表情だ。始まりでこれだとこれから先どうなっちゃうんだろうか。




 異世界生活二十三日目。

 約束通り、昼頃俺達は大葉を誘って市場へ資源回収(食べ歩き)に。と言っても大葉が突撃した串焼きの屋台は以前も行ったのでもう回収する物はなさそうだが。

「むっふ~! この串焼きメッチャ美味しいっす!! 噛む度にじゅわっと肉汁が溢れ出て、これまで食べた中でも相当美味しいっすよこれ!」
「美味しいという所は同感ね。……店主、もう十本追加で」
「あいよっ! 相変わらず良い食いっぷりだ」

 大葉が目を輝かせて舌鼓を打つ中、いつの間にかエプリまで混ざっているのは見ないフリがしたい。おのれあいつら人の金だと思ってバクバク食いやがって。

「……はぁ。こうなったら俺達も食うぞ。セプトもボジョも遠慮しないで良いからな。どうせエプリはその分も買ってるだろうから」
「うん。食べる」

 セプトはそう言ってこくりと頷き、ボジョも服から触手を出して反応する。じゃあ行くとするか。

「おっ!? 坊主じゃないか! 何やらまた女の子が増えて隅に置けねえな」
「茶化すなよおっちゃん。俺にも串焼き三つね」

 軽く手を振ってくる串焼き屋のおっちゃんに串焼きを注文し、エプリは頼んでおいた分をセプトとボジョに二本ずつ手渡す。残りは自分の物とばかりに指に挟んでいるが、俺の分も取っておいてくれても良いのに。

「おっちゃん。今回は食べ歩きがてら話を聞きに来たんだ。前に教えてもらった人は大体あたったから、他にそういう人はいないかな?」
「他かぁ。坊主達は上客だし力になってやりたいが……あっ! そう言えば居たな。丁度良い奴が」

 おっちゃんが教えてくれた場所を簡単にメモし、串焼きを食い終わると俺達は早速そこに向かう事にした。と言っても食べ歩きも目的なので、時折他の店に寄ったりとのんびりしたものだが。

 う~ん。やはり金に余裕が有るとつい財布の紐が緩む。うっかり散財しすぎないようにしないと。

「ふぃ~。久しぶりに腹いっぱい食ったっす! やっぱり美味しい物をたらふく食うっていうのは幸せになるっすよね!」
「そうだよな。特に()()()だと尚良いだろうなぁ」
「ゴチになりました♪ こういう時は器の大きい所を見せるもんっすよセンパイ! それに……エプリさんに比べれば控えめっすよ。なんすかあの食べっぷり?」
「俺もよく分からない。胃袋どうなっているんだろうな?」

 腹ごなしも兼ねてぶらりと歩きながら、俺と大葉はチラッとエプリの方を見る。雇う時に食費はこっち持ちにしちゃったからな。その内食費だけでえらいことになりそうだ。

ご主人様(トキヒサ)。私、やっぱり我慢しようか?」
「あっ!? セプトは大丈夫だからな。むしろ育ち盛りだから遠慮せずに食べろよ。……だけど大葉。久しぶりって言ったけど金とか無かったのか? 『どこでもショッピング』があるなら幾つか手もあっただろ? 日本の品を取り寄せて異世界で売るなんて結構王道だと思うけど」
「あ~……初めはそう考えたっす。だけどスマホの事もあったし、ここらじゃ売る伝手が無いんすよ。そもそも真っ当な店じゃあたし買い物出来ないし」
「買い物出来ない? どうして?」
「……証明書」

 妙な話に悩んでいると、エプリが横からぼそりと話す。証明書? ノービスに入った時に作ったな。毎回店で買い物する時は見せてるけど……あっ!?

「センパイも分かったみたいっすね。あたし急にこの町に来たから持ってないっすよ。それがないと表通りでは買い物出来ないし、発行しようにも下手したら不法入国でお縄っすからね。なくても大丈夫な店は何かしらワケアリの店ばっかりで、これまでは食事の大半を『どこでもショッピング』でチビチビ食い繋いでたっす」

 予想以上に深刻な問題だったぁっ!? あっけらかんと言ってるけどそれ相当マズいからな。

「じゃあ色々終わったら発行してもらいに行こう。ここまできたらもうそれも奢りで良いよ」
「ホントっすか! いやもう神様仏様センパイ様って奴っすよ! ありがたやありがたやっす♪」

 だから拝まなくて良いっての。調子が良いんだからまったく。

「……能力的には有用だけど性格的にやや難があるかもね」
「ツグミ。変な子なの?」
「そんなっ!? お二人共ヒドイ。変じゃないっすよ~っ!」

 何だかんだ皆と打ち解けているようで何よりだ。だけど癖が強いんだよなぁ。




「ところでセンパイ。この町から遠出する面子で食べ歩きって話でしたけど、昨日家に来た人ばっかりっすよね? 他にはいないんすか?」
「それがもう二人来る筈だったんだけど用事が入っちゃったんだ。一人は後から来るって言ってたからその内追いつくんじゃないかな?」

 アシュさんはドレファス都市長と用事があって留守番。ジューネは来る筈だったのだが、急に商人ギルドのネッツさんから呼び出しを受けたのだ。

「儲け話に敏感だから、大葉の加護を知ったら絶対食いついてくる。顔も広いし商人として腕は確かだから仲良くして損はないと思うぞ」
「商人っすか……ここで最初に会った商人が奴隷商だったからイマイチ良いイメージが無いんすよね」
「それは最初が悪すぎな気もするけど……まあジューネなら大丈夫だ。後でじっくり話してみてくれ。……おっ!? あれじゃないか?」

 話している内に目的地らしい店に辿り着く。メモを確かめ……うん。間違いなさそうだ。

「しっかし異世界に来て三週間になるけど初めて来たな。だけど考えてみたら必要だよな」
「そうっすね。モンスターが普通にいる世界っすから。ファンタジーの世界だからこそ大真面目にあるっすよね」
「……私にとっては仕事柄見慣れたものだけどね」
「私、あんまり行かない」

 四者四様の言葉を並べつつも、俺達はその店を眺めていた。そう。中世風ファンタジーでは大抵の冒険者がお世話になる店。

 THE・武器屋である。




「すいませ~ん。誰かいますか?」

 剣と盾を模った飾りがついた扉を開けて店内を見渡す。そんなに広くはなさそうだが、壁のいたるところに武器と防具が飾られているのはいかにもファンタジーって奴だ。

 棚にはアクセサリー系も陳列されていて、武器屋兼雑貨屋と呼んでも良いかもしれない。

「お留守っすかね? うおっ!? スゴイっすねこれ! 漫画みたいっす!」

 俺の後ろから大葉が入り、一目見るなり感嘆の声を上げる。それに続いてエプリ達も店内へ。

 セプトはいつもと同じように無表情で俺についてくるのだが、エプリは飾られている武具を真剣に眺めている。時々「……使えそうね」なんてブツブツ言ってるのが微妙に近寄りづらい。プロは道具選びから全力らしい。

「なんじゃい。騒々しい。客か?」

 そうこうしていると、店の奥からのっそり誰かが出てくる。小柄で横にでっぷりと太い体型。しかし不健康と一言で断ずるには早く、その腕は常人など軽く捻れそうな筋肉が盛り上がっている。

 やや丸っこい顔の下半分はもじゃもじゃの髭で覆われ、所々に焦げ跡のようなもののついた前掛けを身に着けている。まさかこの人は!?

「センパイ。ドワーフっすよドワーフ! もろファンタジーって感じの人が出てきたっすよ!」
「ああ。俺も以前商人ギルドでチラッと見たけど、こうして目の前にすると感慨深いものがあるな」

 まさに絵に描いたようなドワーフだった。あとハンマーでも持たせれば完璧だ。ちょっと感動して呆けていると、この人は半ば呆れるような口ぶりで話しかけてきた。

「ワシはバムズという。お前さん達ドワーフを見るのは初めてかの? ヒュムス国寄りの町ならともかくここらじゃ珍しくもなかろうに。……で? 何の用じゃ?」
「実はルガンさんに話を聞いてきたんです。不要品等あれば買い取らせていただきたいんですが」

 ルガンとは串焼き屋のおっちゃんの本名。毎回おっちゃん呼びしているからどうにも慣れない。

「不要品……ああ! そう言えばルガンがこの前言っていたわい。不要品を高値で買い取ってくれる奴がいると。お前さん達じゃったか」
「はい。使い道が無くて置き場に困ってる物や、見るからに役に立たなそうな物でも出来る限り買い取らせていただきます。何かそういった物はありませんか?」
「おおっ! そういう事なら丁度良い。早速持ってくるが少々量があっての、しばし待っておれよ」

 そのまま奥へ引っ込もうとするバムズさん。時間が掛かるなら一つ聞いておくか。

「あっ!? 待ってる間店内の品を見て回っても良いですか?」
「そこに出ているのは全て商品じゃからのう。断りなぞ要らんから勝手に見るがよい。壊さなければそこで試し切りなんかも出来るからの」

 バムズさんが指さした店の隅には、確かに試し切り用と思われる傷だらけの丸太が置かれていた。

「ありがとうございます!」

 そうして奥に戻っていったバムズさんを待っている間、折角なので各自で店内の商品を見て回ることにした。実際の武器なんて触れる機会はあんまりないものな。中々に面白そうだ。



 ◇◆◇◆◇◆

 ちなみに大葉も結構食べる方です。エプリにはかないませんが。……このメンバーの食費を考えるとすぐ金が無くなりそうで怖いですね。


 この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。完結していないからと評価を保留されている読者様。

 読者様の反応は作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!

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