105章 犠牲の上に成り立つ
夜の11時を迎えた。ミサキ、アヤメはまだ眠っていなかった。
「ミサキちゃん、おなかはどんな感じなの?」
「まったく問題ないよ」
アヤメは右手を、ミサキのおなかにくっつける。
「おなかの中はどうなっているんだろうね」
「私にもわからないよ」
アヤメの右手の人差し指は、へその緒の中に入ることとなった。
「アヤメちゃん、おへその中に指を入れないで」
「ミサキちゃん、ごめんね」
アヤメの手から解放されると、心は落ち着きを取り戻すこととなった。
「アヤメちゃんは体によく触るね。人の体に触るのは、そんなに楽しいの?」
「通常は触りたいと思わないけど、ミサキちゃんの体には触りたい」
「私の体?」
「うん。ミサキちゃんの体が大好きだよ」
「アヤメちゃんは同性を好きになる女性なのかな?」
ごくごく少数だけど、同性を好きになる人もいる。社会においては○○○○、○○、○○○○○などで表現される。
ミサキの質問に対し、アヤメは静かに首を振った。
「私の恋愛対象は男性だよ。女性に対して、恋愛感情を抱くことないよ」
恋愛の話をしたからか、とんでもない質問を飛ばされた。
「ミサキちゃんは好きな男性はいるの?」
「私はいないよ」
異性を好きになったことはないので、恋愛感情はわからない。異性を好きになったとき、どのような感情が芽生えるのか。
「アヤメちゃんは好きな男性はいるの?」
「私は13歳のときに、男性を好きになったことがあるよ」
「どんな相手なの?」
「人間というよりは、ゴリラのような男かな。男らしさ、豪快さ、力こぶの強さなどに心を惹かれていくのを感じた」
大食い大会に参加していた、ある男の顔が脳裏に浮かんだ。あの人ではなかったとしても、かなり近い人物であると思われる。
アヤメは目尻を触った。
「今となっては、とってもいい思い出だね。アイドルに没頭してからは、他のことを考える余裕はなかった」
アヤメは小さな吐息をつく。彼女の苦労、ストレス、苦悩などが凝縮されているように感じられた。