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「隼くんのお話も一理あるわ。恋愛は、季節が変わるとその時候も変わっていくかのように……コロコロと気持ちが変化していくものだから。」

「……どう変化していくんですか?」

「そうね……例えば、昨日まではその人と巡り会えた運命に感謝してとても幸せな気持ちになっていたのに、次の日にはその人と自分の境遇や生活、感覚の違いを自覚して途端にその人を遠く感じたり。同じ空間に長くいて、沢山お話ができて、また距離が縮まったかと思えば、今度は相手の自分に対する気持ちがただの"友達"だと気づいて落胆したり。その日その日で変わってしまうものよ。」

「確かに、友情や家族同士の愛情ではそこまで不安定ではないかもしれないです。」

「うん。恋愛なんてのは決して幸せなだけじゃないの。相手の挙動に一喜一憂しながらも、自分の心の狭さや幼さを思い知って嫌になることもあるわ。
不釣り合いな相手を好きになった場合には、自分の魅力の低さに絶望する時すらある。
恋愛は、むしろそんな風に辛いことのほうが多いのかもしれない……。最も利己的で醜くて現実的で、だけどその現実から逃れんとばかり執着して夢を見て、また現実を知って……そんなもんだと思うんだ…。」

「…そう…なんですね。」

「ええ。小説の表現のように、決して美しくも無いし決して単純でもない。季節や情景と重ね合わせて理解するものでもない。人間と人間の、根本的な欲のぶつかり合いなんだから。」

「欲のぶつかり合い…?」

「そうよ。愛されたい、愛したい、手に入れたい、支配したい、認められたい……誰もがそんな欲を恋愛によって自覚するし、また恋愛によって達成しようともするのよ。」


菜摘さんの話は、菜摘さん自身が恋愛によって、気持ちの変化や自分の置かれている現実、そして自身が抱える欲望を全て経験したのだろうということが分かる。

そして話を聞いているとその理解はできるし想像もできるのだが、いざ自分のこれまでの心情を思い返してみても、菜摘さんの話に一致するような経験はなかった。

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