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「隼くんは、どこか行きたいところある?」
「僕は…菜摘さんがいるなら、どこでも楽しいです。」
「……隼くん……」
「菜摘さんは、行きたいところはないんですか?」
「私は……」
左隣に座る菜摘さんの汗が小さく光る。
陽炎に浮かぶ菜摘さんの姿は、いつもより顔を赤くしていたような気がした。
菜摘さんは僕の質問に答える途中でうつむいて、しばらく次の言葉を発しなかった。
「隼くん……私の家に来てみない……?」
「えっ……!?」
「前から気になってたのよね…。私と隼くんが、二人きりで遊んでるところを他の子たちに見られたら、隼くんが何か言われちゃうんじゃないかなって。」
「…今の所は、何も言われてないですよ。」
「だけど、これからは分からないでしょ?……私はね、隼くんとの時間を壊されたくない。これからも隼くんと二人で沢山遊びたい。だから……誰にも見られない場所で、思う存分遊びたいな……。」
菜摘さんがここまで僕と遊ぼうとしてくれていることに、驚いたと同時にとても嬉しかった。
僕にとって菜摘さんは今唯一の友達。
だけど、菜摘さんにとっての僕は、数いる自分を慕ってくる小学生のうちの一人に過ぎないと思っていたのに……。
「隼くんが嫌じゃなければ……私は隼くんと二人きりで遊びたい。」
いつも以上に真剣な目を向けてくる菜摘さんの声は、少し震えている気がした。
僕はどうして菜摘さんの声が震えているのか、全く分からなかった。
そして、誰にも見られないところで二人で遊ぼうとしてくれていることに、僕もなぜか今までは感じていなかった緊張を感じた。
「僕も、菜摘さんと二人きりで遊べるなら、とても幸せです。」
たった一つ、本心を言うだけなのに、菜摘さんが作り出した妙な緊張感で、僕まで声が震えていたような気がした。