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IFルート『もしも時久がイザスタと一緒に行くことを選ばなかったら』その四(終)


「は~いもうちょっと離れて。……もう良いかな? それじゃあ金よ、弾けろっ!」

 午後の仕事は昨日に続いて町の復興作業の手伝い。

 俺は景気よく経費で渡された銀貨を放り投げ、周囲の人が十分距離を取ったのを確認して起爆させる。ボンっと音を立てて爆発した銀貨の衝撃で、今にも倒壊しそうだった家は轟音を立てて完全に倒壊した。

 放っておいていつ崩れるか分からないより、都合の良いタイミングでわざと崩した方が安全だ。

 こういう瓦礫撤去は本来土属性持ちが呼ばれるのだけど、今は仮住居の作成等に回っていて動けない。

 火属性や水属性は延焼や水没の危険があるし、風属性は壊すより吹き飛ばすといった感じで周囲が危ない。光属性は怪我人の治療に回っている。

 それに術者が建物に近すぎると巻き込まれる危険があるし、距離が離れれば離れる程精度や威力に影響する。それで困っている所に俺が派遣されたって訳だ。幸い金属性は一定以上の金さえあれば威力は申し分ないしな。

 こうして俺は作業終了まで、魔法の練習も兼ねて経費の金を投げまくった。そこの役人さんに明日も来てくれと頼まれたが、そこに関してはウィーガスさんの指示次第なので約束は出来なかった。

 今日の仕事はこれでおしまい。ただ大分時間が押しちゃったけどどうするか? 月村が夕食を先に食べてると良いんだが。




 コンコンコン。

「お~い。時久だけど、入って良いか?」
「……はい。どうぞ」

 鍵の開く音がしたので、俺はゆっくりと中に入る。中では月村が手付かずの食事をテーブルに広げて待っていた。やっぱりまだ食べてなかったか。

「こんばんは。……遅かったですね」
「ホントゴメン。仕事が押しちゃって。先に食べていてくれても良かったんだぞ」
「まだ怖いから待ってたんじゃないですか」

 月村がどことなくジト~っとした視線をぶつけてくる。女性を怒らせると碌な事にならないのは世の真理なので、拝み倒して何とか許してもらう。

「じゃあ早速毒見をお願いします。ちゃんと量も増やしてもらいましたから。……変な顔をされましたけど」
「そりゃ昨日まで食欲なかった人が、急に多く催促したら不思議がるだろうよ。俺の事はちゃんと説明したのか?」
「それはその、何となく言いづらくて」

 確かにいきなり毒見役に食事させるから量を増やせとは言いづらいよな。……あと何故月村はもじもじしているのだろうか?

 まあ今は食事の方が優先だ。目の前の月村から早くしろと催促の視線が突き刺さる。

「ゴホン。じゃあ気を取り直して、頂きま~す!」
「はい。どうぞ」

 わざわざ用意してくれたのか、俺用の食器に食事を適当によそう。今日のメインは何かの魚のムニエル。時間が経てば経つほど月村の分が冷めてしまうので急いで頂かねば。

「どうですか?」
「ああ。めちゃ美味いよこのムニエル! 皮もパリッとしてるし身も引き締まってて」
「いや、味も大切ですけどそうではなくて」
「へっ!? ああ毒見の方ね。勿論忘れてないともさ。……特に変な味もしないし、身体が痺れたり気持ち悪くなったりもない」

 さらに他の種類を少しずつ食べていき、念の為少し時間をおいたが体調の変化もない。そうして毒見役を全うし、ようやく月村も食事に手を付け始めた。

「どうだ? 美味しいだろ?」
「はい……って、何で時久さんが自慢げなんですか?」
「そりゃあ俺の同僚が作った品だからさ」

 何ですかそれと月村がクスリと笑い、俺もそれを見てつられて笑う。やはり食事時は誰かと一緒が良いもんだ。そうして二人で食事をしながらのんびりと雑談を交えていく。

 それにしても、昼間に比べて月村の感じがちょっと変わったか? 昼間はどこか無理している感じだったが今は少し落ち着いている。やはりちゃんと食事をしたのが効いたかな?

「そう言えば……これ」

 食事中、急に思い立ったように月村が何か差し出してくる。これは、

「うん? 昼間渡したブ〇ックサンダーじゃないか。結局食べなかったのか?」
「はい。それで聞きたいんですけど、時久さんって……もしかして日本人なんですか?」
「そうだけど。言ってなかったっけ?」
「聞いてないですよっ!」

 いや言ってなかったというか。言わなくても気付くと思っていたんだよ。だってここらで黒髪黒目って珍しいし、名前だってもろ日本風だろ?

 そう反論すると、名字を名乗らなかったからこっちの人かと思ったらしい。まあ月村がフルネームを名乗ったのに対し、俺はウィーガスさんに言われていて名前だけ名乗った。だから名字が無いと判断したのかもしれない。

「じゃあ時久さんも『勇者』なんですか? だけど私達が最初に来た時は居なかったような」
「それは……なんて言えば良いか」

 どこまで言うべきだろうか? あんまりアンリエッタの事を言いふらすのはマズいし、『勇者』とも名乗りづらい。俺はあくまでスペアだもの。

 それになんとなく今の月村に『勇者』の話はマズい気がする。なので誤魔化すべく口を開きかけ、

 コンコンコン。

 突如扉をノックする音が聞こえてきた。誰だか知らないがナイスタイミング!

「誰か来たな。俺以外にも約束とか?」
「いいえ。片付けにしては早いし、まだ本調子ではないって数日分の用事もキャンセルしてもらってます。……誰でしょう?」

 突然の訪問か。まさか月村を誰かが狙ってきたって事はないだろうけど、少しだけ気を引き締める。

「はい。どちら様ですか?」
「ボクだよ。明だけど……もう夕食は済ませちゃったかな?」

 月村が扉に近づいて声をかけると、扉越しに男とも女とも取れない声が返ってきた。

「ううん。まだ途中だけど」
「良かった。じゃあボクも一緒に食べて良いかな? 少し話したい事もあって」
「え~っとその……どうしましょうか? 明は私と同じ『勇者』の一人で、私が怪我してからは色々あって話も出来なかったですけど……でも悪い人じゃないんですよ」

 月村は声を潜めて俺に尋ねる。

 色々って所が気にかかるけど、月村の反応から見るに信用してないって感じじゃなさそうだ。月村以外の『勇者』にも会ってみたいと思っていたし、食事をしながらで話が弾むかもな。

「俺は別に構わないけど?」
「私が気にするんですっ! 考えてみたらこんな時間に異性と二人っきりで食事とか、誰かに見られたら誤解されるって言うか」
「誤解って……ただの毒見役ですって言えば良いんだ」
「お~い。どうしたんだい?」

 その内に扉越しにどこか訝しむような声が聞こえてくる。そりゃあ急に声が聞こえなくなったら気になるよな。

「開けちゃえ開けちゃえ。俺の事は適当に言ってくれれば良いから」
「適当って……もう分かりましたよ。は~い。今開けるからちょっと待ってね」

 内側から月村が扉を開けると、そこにはどこか中性的な雰囲気を持った美少年……いや美少女? とにかくそういう人が立っていた。あれが明らしい。

 明は部屋の様子をチラリと見て、

「……どうやらお邪魔だったみたいだね。どうぞごゆっくり」

 そのまま静かに扉を閉めた。

「いや待って明っ!? それ誤解っ! 誤解だからぁっ!」

 何とも締まらない初対面になってしまったな。




『……ププッ。ダメ……もう無理。あ~っはっはっは!!』
「笑い事じゃないってのっ! まさか普通に逢引きと勘違いされるとか」

 その日の夜中、自室でアンリエッタに今日の事を報告したらこの通りの大爆笑。いやそこまで人の不幸を笑うことないだろうに。

『まあすぐに誤解が解けたから良いじゃないの。結局その後どうなったの?』
「見てたなら知ってるだろ。自己紹介の後明も含めて皆で夕食会だよ。まあ明はどちらかというと、()()()()()()()()()()()がメインだったみたいだけどな」

 初対面で少し話しただけだが、明は実に気の良い奴だった。物腰は穏やかで、きちんと説明すれば話が分かるタイプだ。そもそも月村を訪ねてきたのも食事も摂らずに引きこもっているのを心配してだったし。

「まあ月村が食事していたのを見て安心したんだろうな。すぐに自分の分を食べ終わって、少し雑談したらそのまま引き上げていったよ」
『そのようね。それで……アナタは何てユイから紹介されたんだったかしらねぇ?』
「だからニヤニヤしながら言うの止めろって。ただの雑用係……()()()()()()()()()()()

 なんでまたあんな風に説明しちゃったかな月村め。ただの毒見役か雑用係って言ってくれればよかったのに。明が複雑な顔をしてたぞ。

「しかもその適当に言った事が普通に通りそうなんだよっ! あの爺ちゃんも余計な事を」
『というより、()()()()()()()()()()()()可能性が高いのよね。やけに段取りがスムーズだったし』

 その後のウィーガスさんへの報告の時、なんと向こうからその事に言及してきたのだ。多分監視か何かしていたらしい。

 おまけに「付き人の件はこちらで手を打っておく。欠員に一人ねじ込む等造作もない。……なに。君は何も心配する事はない」なんて顔色一つ変えずに言ってたもんな。

 考えてみればあの場所で掃除するようウィーガスさんから指示を受けたし、俺が『勇者』に興味を持っているのは当然向こうも知っていたから食いつく可能性は充分だ。

『ユイは精神的にまいっていた。このままじゃ『勇者』として使い物にならないから、ウィーガスは何か刺激を与えるためにトキヒサと会うよう仕組んだ。そんな所かしらね?』
「俺はカウンセラーじゃないってのに。最悪もっと悪化する事もあり得たんだぞ」
『それならそれで良いと考えたんじゃない? もし月村が本当にどうにもならなくなったら代わりにアナタを据えれば良いもの。アナタなら責任を感じて少しは協力しようとするだろうしね』

 あの爺様ならやりそうだな。そんなのが一応の上司かと思うと嫌になる。

「まあなったらなったでやれるだけの事はやるさ」
『そういう所は律義よねぇ。あくまで雑用係と兼任という所もアナタらしいわ。寧ろ相手側から雑用係を辞めさせに来るかもよ』
「そりゃあ向こうから辞めろと言うなら仕方がないけど、そうじゃないなら続けさせてもらうだけだ。どこもかしこも手が足りないんだから」

 と言ったものの仕事の配置はウィーガスさん次第なんだよな。付き人に専念しろと言われたらそれまでだ。

『まあ前向きに考えたら? 雑用係から『勇者』の付き人に出世で給料も上がるかもしれないわよ?』
「その分しがらみが増えて身動きとりづらくなるっての。……だけど、月村を放っておく訳にもいかないな」

 爺ちゃんの思惑に乗るのは癪だが、このまま放っておいたら月村にどんな影響があるか分からない。明も気にかけてはいるようだが、何だかんだ今日まで話せなかったみたいだしな。

 俺はカウンセリングは門外漢だけど、こういう時誰でも良いから話し相手が多い方が良いと思う。少なくとも一人で溜め込むよりはマシだろうから。

「復興はまだ手が足りないし、他の『勇者』も知っておきたいしとやる事が多すぎる。おまけに月村の付き人もとなると大忙しだ」
『でも投げ出すつもりは無いんでしょ?』
「自分の中で納得がいくまではな。“相棒”が聞いたら呆れそうだけど、俺は関わった人が嫌な目に遭うのはなんか嫌なんだ」

 たった一日手伝っただけの関係もある。少し一緒に食事をしただけの人もいるな。月村なんかまさにそれだろう。こっちとの共通点といったら同郷って事ぐらい。だけど、助ける理由はそれだけで十分だ。

「それに、またイザスタさんに会った時に言いたいじゃないか。あの時一緒に行けなかったけど、俺はこれだけの事をやりました。イザスタさんのおかげですって。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってさ!」

 イザスタさんは多分無駄とかそんな事は思っていないだろうけど、()()()()()()()()()()()。このままじゃただ一千万を恵んでもらっただけだ。

 そんなままじゃいられない。例えイザスタさんが認めても、他ならぬ俺が認められない。

『……はあ。アナタも面倒な性格よね』
「男は美女や美少女の前だとカッコつけたがるもんなんだ。これもまた」
『ロマンって言うんでしょ? 分かってるわよ。……まあそれだけ寄り道してなお課題を達成出来れば、それだけ評価が高くなるか。こうなったらきちっとやり遂げなさいトキヒサ』
「分かってるって。きっちりアンリエッタの分も稼いでやるよ」
『ワタシの手駒なら当然ね』

 そうして俺達の通信は終了した。

 やる事は多く前途多難。だけどそんなのは異世界じゃなくても普通だ。今自分に出来る事を一つ一つやっていこう。いつかまた、イザスタさんに会った時に胸を張れるように。











「そう言えば、一つ聞き忘れた事があったんだ」
『何よ改まって』

 俺は二度目の通信でちょっと尋ねたい事があった。

「この世界に跳ぶ直前、見せてくれた映像があったろ? あれって起こる可能性の高い未来って話だったよな?」
『そうね。絶対じゃないけど邪魔が入らなければこんな感じになるという未来。実際はあの中に割り込ませる予定だったのに惜しかったわ』
「だよな。……となると俺が来る直前に未来が変わったのか」

 俺が来たからとか、行く時の誰かの妨害の余波でなら分かるんだけどな。実に不思議だ。

『ちょっと待って。いったい何の話?』
「夕食の時からどうにも違和感があったんだけど、今にして気付いたんだ。()()()()()()()ってな」
『メンバー?』

 アンリエッタが首を傾げる。そうしていると普通に外見通りの女の子みたいだ。中身は守銭奴だが。

「そう。だって今日初めて会ったけど、()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。少なくとも『勇者』達の中にはな」

 悪い奴ではないのだろう。それは話をして俺が感じたイメージだ。だけど……それじゃあアイツはいったい誰なんだろうな?



 ◇◆◇◆◇◆

 男女が二人っきりでディナー。……これってデートじゃないかしら? 月村はそう考えてしまってちょっとテンパってます。時久は普通に知り合いの部屋にタダ飯を食いに来た認識ですが。

 ひとまずですが、これでこのIFルートは終了となります。あくまでIFなので続きを書くかどうかは未定ですが、もしこのルートの続きが読みたいという反応が来たら書くかもしれません。

 ここまで付き合っていただいた読者の皆様に感謝を。



 この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。完結していないからと評価を保留されている読者様。

 読者様の反応は作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!

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