71章 初めてのサイン
30人分の焼きそばを、45分で完食する。タイムについては、前回とほぼ同じだった。
「ミサキちゃん、すごい食べっぷりだね」
「私にとっては、通常運転だよ」
ミサキはのどを潤すために、水を口に含んだ。
「アヤメさんは、焼きそばを注文しないの?」
アヤメは小さな瞬きをする。
「アイドルを引退するまでは、食事にこだわっていきたいの。私の写真集を買ってくれる、お客様を裏切ることはできない」
アヤメからは、真のプロ意識を感じられた。成功を収めるためには、ストイックを貫き続ける
必要がある。
「ミサキちゃん、焼きそばを追加注文する?」
「これ以上食べたら、腹痛になるよ」
30人前の焼きそばは、おなかに重くのしかかっている。3~5時間は断食でいい。
アヤメはカバンの中から、サイン色紙を取り出す。彼女のサイン色紙を、プレゼントされるのかなと思った。
「ミサキちゃん、サインをちょうだい・・・・・・」
ミサキは自分を指さす。
「私がサインするの?」
「うん。サインをお願い・・・・・・」
「私のサインには、一銭の価値もないよ」
トップアイドルのサインはお宝だけど、一般人のサインはゴミ同然。家の中においても、邪魔になるだけだ。
ミサキがサインに戸惑っていると、シノブがこちらにやってきた。
「ミサキさん、お客様を喜ばせてくださいね」
「わかりました」
ミサキはサイン色紙に、サインらしきものを書き込んだ。
「これでいいかな?」
アヤメは満面の笑みを浮かべる。
「ミサキさんのサインを、私の秘蔵にするね」
アヤメは保管ケースに、ミサキのサインを保管する。世界に一枚のサインを、とっても大切にしているのが伝わってきた。