65章 仲間
ミサキは空を見上げる。先ほどまでは青かった空は、鼠色の雲がかかっている。鼠色の雲は、自分の心境を表しているかのようだった。
転生した街では、大金を持っている、豪華な家に住んでいる、好きなもの好きなだけ食べられている。わずかなコメだけを与えられていた、現実世界からは信じられないような世界である。ほんのちょっとでいいので、あちらの世界におすそわけしたい。おすそわけできていたなら、幸せな生活を送っていたと思われる。
恵まれた生活を送っているのに、心には巨大な壁があった。世界一といわれたエベレストよりも、ずっとずっと高い壁。どんなに頑張ったとしても、乗り越えることはできないのかな。
おなかをそっと見つめる。見た目はとっても細いのに、大量の食料を必要とする。おなかの大きさ、食べ物の必要量は完全に不一致だ。
おなかを軽くさすってみる。1日20000キロカロリーを摂取していても、骨と皮のみで構成されている。贅肉らしい贅肉は、どこからも感じることはなかった。から揚げ、スナック菓子、ラーメン、てんぷらなどを、食べているようには思えなかった。
ミサキが一人で過ごしていると、マイが近づいてきた。
「ミサキさん・・・・・・」
「マイさん、どうしたの・・・・・・」
「なかなか戻ってこないから・・・・・・・」
「気持ちを切り替えたら、あちらに戻ろうと思っている」
気持ちを切り替えるのは、どれくらい先になるのか。1分後、5分後、10分後、それとも1時間後。自分でもわからない答えは、誰にもわかるはずはない。
「ミサキさん、隣に座ってもいい?」
ミサキは言葉ではなく、ジェスチャーで返事する。マイはゆっくりと、隣に座った。
「マイさん、温泉に入ったほうがいいんじゃない」
「ミサキさんはとっても大切な仲間だよ。こちらとしては放っておくわけにはいかないの」
な・か・ま、な・か・ま。ミサキは3文字の言葉を繰り返す。
「マイさん・・・・・・」
「ミサキさんがいなくなったら、私はとっても悲しいよ」
「・・・・・・・」
「温泉に一緒に入ろうよ」
マイが手を差し伸べると、ミサキはゆっくりとつかんだ。
「マイさん、ありがとう」
マイと二人で、温泉に戻る。仲良く手をつないでいる様子は、デートをしているかのようだった。