53章 膝枕
230キロカロリーのおにぎりを、20個ほど口にする。4600キロカロリーを摂取すれば、3時間くらいは空腹を避けられる。3時間を自由に過ごせれば、いろいろなことができる。
20個のおにぎりを完食したことに対して、大きな拍手を送られることとなった。ミサキは拍手の音を聞いて、恥ずかしさを感じることとなった。
「すさまじい食欲だ・・・・・・」
「どんな胃袋なのかな?」
「おなかは痛くないのかな?」
おなかはまったく問題なかった。おにぎり20個くらいでは、びくともしない体をしている。
「ミサキさんはスーパーヒーローだ」
「ミサキさんは大食いの巨匠だ」
一部にはマイナスの表現も含まれていた。いずれの表現も、的確なものばかりだった。
「食費がとんでもないことになりそう」
「食べるのを楽しむというより、食べるのを強いられているみたい」
「あんなに食べたら、1日で肥満になるんじゃないかな」
ミサキの朝の体重は42キロ。こちらで生活を始めてから、1グラムたりとも増えていない。
「ミサキさん、すごい食べっぷりだね」
「食べないと生きられない体なので・・・・・・」
1日に必要とされるエネルギーは20000キロカロリー。成人女性の8~10人分の、エネルギーを摂る必要がある。
「31人前の焼きそばを食べたときの衝撃は、今でも忘れられないよ」
通常の体では、31人前の焼きそばを食べるのは無理。驚異の胃袋だからなしえる、力技といえるのではなかろうか。
シノブが大きな欠伸をする。
「ミサキさん、膝枕をしてください」
「ひ・・・ひざまくら・・・・・?」
「いろいろなことがあって、心身に疲れを感じています。ミサキさんの膝枕で癒されたいです」
同性であるとはいっても、膝枕をするのは恥ずかしい。脳みそをフル回転させて、断るための言葉を見つける。
「ミサキさん、横になりますね」
ミサキの膝の上に、シノブの頭がのせられた。恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤に染まった。
「ミサキさんの膝枕は天国だね」
シノブは右の太腿を、なぞるようにさすった。
「シノブさん、くすぐったい、くすぐったいよ」
「ミサキさんの体は、とっても細いね」
「シノブさん、触りすぎだよ・・・・・・」
シノブの掌がぴたりと止まった。
「ミサキさんみたいに細ければ、ダイエットせずにすんだのに」
アイドル=細いは絶対事項だ。これを達成できないものは、アイドルの道を切り開くことすら許されない。
「アイドルで売れるためには、体重は(身長-100)*0.7~0.75をキープしないといけないの」
160センチだと、42~45キロとなる。ミサキくらいの体でなければ、アイドルとして活動する権利を与えられない。
ミサキは周囲を見渡す。膝枕に対して、たくさんの人が注目していた。