51章 周囲が騒がしい
台風の目が通り過ぎたものの、周囲は静かになることはなかった。ミサキたちの周囲には、たくさんの人が集まっていた。
「アヤメさんに声をかけられたのはすごいですね」
「アヤメさんとの握手はどうでしたか?」
「アヤメさんに、どんな印象を持ちましたか?」
「アヤメさん・・・・・・」
「アヤメさんに・・・・・・」
アヤメが声をかけてこなければ、平穏な旅行を楽しめた確率は高い。有名人のちょっとした気まぐれに、振り回されることになってしまった。
シノブと視線を合わせる。アヤメの言葉が抜けていないのか、冴えない表情をしていた。
このままの状態が続くのかなと思っていると、アヤメはこちらに戻ってきた。10人くらいのボディガードはいなかった。
「ミサキさんが困惑しています。みなさん、やめていただけませんか?」
有名アイドルの勇気の一声によって、事態は沈静化することとなった。あまりに呆気なかったこともあって、拍子抜けしてしまった。
アヤメは頭を深々と下げる。
「私の軽はずみな行動で、ミサキさんに迷惑をかけてしまいました」
「・・・・・・・」
「今回のお詫びにつきましては、明日以降に必ずさせていただきます」
「・・・・・・・」
「仕事のスケジュールが詰まっているので、失礼させていただきます」
アヤメは一礼すると、豪華な車に乗り込んでいった。一般人には手の届きそうにない、高級車だった。