バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

269章 テオスの衰え

 ソラは30秒ほどで、貯蔵庫から戻ってきた。

「水の量はどうでしたか?」

「きっちりと増えていました。アカネさん、ありがとうございます」

「ソラさんは確認が早いですね」

「そうですか。自分ではそのように思わないです」

 超能力を持っていたとしても、当人に自覚のないことも多い。アカネもスキルに対して、すごいと思うことは稀だ。

 テオスの様子を確認すると、はっきりとした疲れが見られた。先ほどまでは元気だっただけに、他の誰かと体を入れ替えたのかと思った。

「テオス様」

 ソラが手を差し伸べると、テオスはゆっくりとつかんだ。

「体が限界みたいです」

 上司が部下の前で、堂々と弱音を吐くのは珍しい。自分の弱みを握られないよう、無理に強がっているところを見せがちである。

 長時間睡眠をとったにもかかわらず、疲れるスピードは早くなっている。テオスの体は、急スピードで衰えている。

「最後までやりとげたいけど、体は無理のサインを発しています。私は街に戻るので、続きをお願いします」

 最後まで仕事をやりたいという意思が、はっきりと伝わってきた。テオスは水をきれいにする仕事に、魂を注いでいる。

「テオス様・・・・・・」

 テオスは弱々しい声で、

「アカネさん、ソラのことをよろしくお願いします」

 といった。無念、後悔、懺悔などの思いが詰まっていた。

 テオスが瞬間移動しようとする前に、ソラは声をかける。

「テオス様の安全を確認するために、私もついていきます」

「ソラ・・・・・・」

「テオス様を守り抜きます」

「ソラ、ありがとう」

「テオス様、一緒に街に戻りましょう」

「はい。わかりました」

 テオス、ソラは一緒に瞬間移動をする。アカネはその様子を、二つの黒い瞳で見守っていた。

しおり