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魔王様と旦那様1

「あら?……あらあら!」
「む?」
「ルーちゃん、ちょっと胸が育ってきたわねぇ」
「…そういえば、下着がきつくなってきたな」
「もしかして、開花しちゃったり?」
「……大分前だぞ?」
「まぁ!良かったわぁ。ルーちゃん竜王様の血だけが育ってて、バランス大丈夫か気になっていたもの。しばらく成長期に入るから調整できる感じにするわねぇ」
アスタロトが久しぶり衣装合わせで来訪した。

ジグロードに対して宣戦布告をし、進軍をしている最中ではあるが、ルクセルは後に残る民の為に結界の増幅作業があり、今回は一度戻っている状態だ。
ゴルデン国民は南ゴルデン国民と合流し、軍を編成している。





「ただいま帰りました」
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ルクセル……は出陣中でしたね」
「いえ、それがお帰りになっているんですが…」
「え?」
新《あらた》は二階の寝室に向かった。
「ルクセル?」
「…ん?……おかえり」
「ただいま帰りました。具合が悪いと聞きましたが」
ルクセルは寝返りを打って新《あらた》を見る。
「城に戻ったついでに少し休みに来た。ちょっと吐き気がするぐらいなんだが……私は少し弱気になっているかもしれん」
「ジグロード相手に戦うからですか?」
「得体が知れない不気味さ。マキアの事を考えると、怒りと共に不安が出てくる。あれほどの猛者をどうやって殺したのか。常に警戒しながら動いてはいるものの、皆を守ってやれないかもしれん…」
ルクセルはぎゅっと枕をつかんだ。
「……それでも、あなただけは生きて帰って来て下さい」
「……うん………」
新《あらた》はルクセルの金の髪をなでた。




ジグロードがシグニールを急襲し、国家が全滅したとの知らせが入ったのは、誰もが眠っている未明の事だった。

当然そこに送られた全ての兵士達も殺された。
シグニールの後方にいた国家が、大慌てで他の国々に支援と兵士の増援を頼む。
むしろだらだらと続けられていた戦争のせいで、シグニールの後方国家、ディアスは準備をしていなかった。
まさに寝耳に水状態で、恐慌状態にまで陥っていた。


その情報が高橋家にもたらされたのは、明け方の事である。
「シグニールの犠牲者総数はおよそどのぐらいなんだ?」
「国民と支援兵合わせて…5万は越えます」
「……その数なら魔界の扉を開けれる」
「開いたらどうなるんですか?」
「まず扉近くの魔障の濃度が濃くなり、適応魔族が強化される。それと、ゴルデンにもおらんような強くて恐ろしい魔物達が出てくる。私でも…魔王クラスでも力が及ばないと言われている」
「そいつらがジグロードに協力する可能性は?」
「わからん。だが何か策があって開けようとしていたとは思う。新《あらた》、私は一度軍に戻る」
「わかりました。私も王宮に行きます」


「ディアスは今どうなっていますか」
緊急事態の為、城内の執務室に直接移動した新《あらた》は、現状の把握がどこまでできているか確認する。
「ジグロード軍はシグニールを滅亡させた後、自国へ引き返したそうです」
「……いつでも人間の国家を滅ぼせる余裕という事でしょうか」
「今ディアスを始め各国で斥候を出しております。ゴルデン魔国からも斥候が出ているそうです」



同時刻
「力の弱い兵士は魔国に帰らせる。この先魔障の影響を受けない者達で少数精鋭になってしまうが…行くしかない」
少しざわつく軍を引き締めるように続けた。
「ジグロード軍は総数で一気に攻めてくることはない。下級魔族を蹴散らして、中に隠れ潜む上級魔族を見つけ叩く。殺したらチリになって魔力が消失しているのを必ず確認せよ」
「「はっ!!」」
「行くぞ」
魔王ルクセルは、以前よりも大きくなった竜の翼を広げ、先陣を切った。



陽の光が影縮ませる頃
シグニールは死体の山から腐臭が漂い、斥候達は各国でグループを作って見まわる。
『夜にアンデッドとなって攻撃してくる可能性があります。まずは燃やし、その後浄化させて下さい』
かってシグニールだった王城を中心に火の手が上がる。
燃えていく死体が時々「お……おぁ………」と声の様な物をあげる。
新《あらた》の言う通り、既にアンデッド化しはじめており、約5万の死兵が出来上がる所だった。
火が広がり、やがて完全に消えるまで待っている頃には夕日が影を伸ばしていた。



ゴルデン魔王軍は進軍を続けていた。
南ゴルデンを出発して数時間、ジグロードの支配区域に入っているはずなのに魔物どころか魔族も出ない。
しかしやっと、それっぽい気配が現れた。
その気配のする方向へ進んでいくと
「全軍、止まれ!!」
罠に気が付いてルクセルが制止を命じる。
「……アスタロトか」
「そうよ、大体1日ぶりかしら?」
「お主、蜘蛛の魔族だったんじゃな」
罠…巨大な蜘蛛の巣が地から天空までを覆う。
「この蜘蛛の巣はやはりし」
「ルーちゃん!!違うから!!私昆虫じゃないのよ!!!!」
「でも蜘蛛って…」
「ルーちゃん…蜘蛛だけど、巣ぐらい魔力で張れるのよ」
「そうか。ところで道中まったくジグロードの軍が見えなかったが、お主が先鋒で良いんじゃな?」
「違うわよ♪私はルーちゃんを止めに来てあげたの」
「無駄じゃぞ?」
「あら、そう?でもお腹に手を当ててごらんなさい」
「お腹??胸とかじゃなく?」
「そう、お腹。あたしは昆虫じゃないから、ちゃーんと聞こえるの」
仕方がなく、ルクセルはお腹に手を当てる。
「特に何も……ん!?なんじゃこれ?……私とは全く違う魔力の波長が出ている……????」
「そりゃそうよぉ♪昨日衣装合わせの時、小さくて速い鼓動が聞こえたもの。ルーちゃん、おめでとう♪」

そのセリフと、今感じる魔力を理解した時、ルクセルは喜びや感動より先に恐怖、自身がかなり危険な状況にいる事を把握し、同時に冷や汗が垂れ落ちた。





シグニールの約5万人いたアンデッド化しかけた死体は、日が暮れる前に無事浄化が済まされた。
魔塔からの魔法使いが増援で各国から派遣され、新《あらた》も陣頭指揮を執る為にシグニールに来ていた。
万が一の為、新《あらた》専用の護衛騎士まで用意された。
ジグロードがシグニールを滅ぼして大人しく自領に帰った目的がこれだとは思う。
だが、本当にそれだけなのか。

一国の民、他国からの支援兵、全てをアンデッド化させて残った人間国家を蹂躙させつつ、アンデッドを増やす。

そんな簡単な方法をジグロードが策として使うか…。

アンデッドはただの時間稼ぎか、魔界の扉を開けたついでのものだろう。
ふと、新《あらた》は眼下に広がるシグニール王都を見た。
デンエンと異なり、円形でゆっくりと螺旋を描くような作りになっている。

天然の地形を利用したバハマディア、同じように地形を利用し、小高い丘の上に城を築いているデンエン。

そのような場所がない場合、領内の山から大きな岩を集めて土地を高くしながら城下町を作るしかない。
その分自由な形で城は作れる。
螺旋状の王都など別におかしい物ではない。

だがこの時(あらた)は嫌な予感を感じた。
それと同時に王都に魔法陣の様な物が浮かび上がった。

そして、王都付近にいたすべての生きている人間が姿を消した。

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