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299 作戦開始っ!

作戦は実は絹さんも巻き込んでいた。

『絹さん、このカゴに敷く、とびきり気持ちいい布を2種類色違い、質感違いで頼めるか?』
おいちゃんがインベントリから見慣れないカゴを出して、絹さんに見せると

きゅるる『おやすいごよう』
絹さんが快く引き受けてくれたので、具体的に説明をする。

『大きさはちょっと大きめで、一枚は外に少し垂らしてアクセントにして、一枚は中の物が落ちないように結べるようにしたらいいんじゃないかと思うんだよ。で、二枚違う角度に敷いたら、開いたとき綺麗だしな』

〖カゴに蓋をつけたらダメなんですか?〗
シア様が、わざわざ布を二重にしなくても蓋の方がいいのでは?と、聞くと

『ふふふふ。それはな、もうひとつ別に用意するんだよ。これは、このままテーブルに置けるように浅めに作ったしな。取手もこうやって動かせるから邪魔にならないだろ?』
そう言って取手を寝かせて見せる。このままお皿替わりになるわけだ。

〖なるほど、これならすっと取れるわね〗
〖このまま食べられますしね〗
〖見栄えもいいです。さすが、師匠です〗
ゲン信者のエルンスト様はすっかり師匠呼び定着。

『それでな、これを奥さんに解いて貰えば、いつもの布と違うことが分かるだろ?』ニヤリ
『なるほど、職人肌の奥さんが触ればすぐに分かりますわね』
『それにこのカゴの形にゃ、四角で底が平ら、しかも取手が動くとなるとにゃ』
『今までにない形ですわね。取手が動くのも初めて見ましたわ』
アイナ様もニャーニャにゃんも感心しながら触って、ニヤリ。

〖さすが師匠。更に中から見たこともないようなお菓子が出てきたら…〗くくくっ
やっぱり悪の組織?

『もうひとつはどうするのですか?』
『そうにゃ、こっちはわざと蓋付きにするんにゃよね?どうするにゃ?』
アイナ様とニャーニャが首を傾げると、おいちゃんは

『それはな?』ふっふっふ⋯
悪い顔です。


さて、先に親方に出していたもの、それはゲンが作ったドライフルーツと、フライパンで作ったナッツの燻製だ。
ゲンが妖精トリオに、
『香りのいい木はないか?』
『『『あるよ~』』』
と、聞いて持ってきてもらった木で作ったのだ。

そして、用意したカゴを奥さんの前に並べると、案の定、

『私も手伝うよ。解けばいいのかい?』
『ありがとうございますですわ。よろしくお願いいたしますわ』
『この位やらせておくれよ。⋯な、なんだいこりゃ?』

初めて触る布の感触。見たこともない形のカゴ。そして、中にはそれはそれは綺麗に並べられた数種類のクッキー。これも、フライパンでゲンが作ったものだ。

『それは、クッキーというものですわ。何も入っていない物と、親方が食べていらっしゃった燻製のナッツが入ったもの、それとドライフルーツが入ったもの。一番甘いのが、その硬めのジャムがのせてあるものですわね』
『お酒にも合うようにしてあるって言ってたにゃ。でもにゃ~、まだ、釜?オーブン?とかいうのがなくて、まだ数も種類も少しずつしか出来ないみたいなんだにゃ~』
『そうでしたわね。窯やオーブンがあればもっと色々できるのにと仰ってましたわね』
アイナ様たちが細かく説明。これも作戦だ。でも実は内心ひやひやしてます。だが

『『え?』』
『これより』
『色々?』
なんなく食いついてきた。親方夫婦。

ニヤリ。
ニャーニャ次ですわ!
はいにゃ!

『でも、ニャーニャはお酒飲まないから、もっともっと甘々がいいにゃ!』
そう言って蓋付きのカゴをごそごそし始めるニャーニャにゃん。中身は親方夫婦には見えない。これもゲンの作戦だ。

『あら、ずるいですわ。私も甘いものがいいですわ。お茶も頂いたこちらの渋めのお茶にしましょう。緑茶という、その名の通り緑色のお茶なのですのよ。初めてですわよね』
『ニャーニャは麦茶にゃ!飲みやすくておいしいにゃ!』
『そちらも香ばしくて美味しいですわよね。私も好きですわ。そうそう。その麦からもお酒が作れるのですって』
『そういえば、言ってたにゃ!風呂上がりの一杯はたまらないのに~とか残念がってたにゃ~』

ピクッ『酒?』
ピクッ『風呂?』

反応してますわ!もう一押しですわ!
はいにゃ!

『でも、やっぱり設備がなくてまだ作れないのですって。残念ですわね。私はフルーツで作るお酒の方が興味をそそられますけど』
『今は作れないものは仕方ないにゃ!それより甘々にゃ!』
『そうですわね!それよりお菓子ですわね!私は焼き芋のアイスのせにしますわ!』
『ニャーニャはプリンにゃ!このとろけるのがたまらないにゃ!』
『あら!焼き芋アイスだって最高ですわ!』
『プリンにゃ!』
『焼き芋アイスですわ!』
『プリンにゃ!』
だんだん白熱する二人。これも作戦だが、半分本気?それでも

『ちょ、ちょっとちょっと』
『落ち着け!な?』
『そうよ。落ち着いてみんなで食べたらいいじゃない?』
『そうだな』
『みんなで仲良く。ね?』

かかった!ですわ!
かかったにゃ!

『そ、そうですわね。お見苦しいところを…』
『ごめんにゃ!仲良くするにゃ!それじゃ、まずプリンにゃ!ご主人、親方たちにお茶にゃ!』
『はい。ええと、湯のみ?に一度入れた少し冷ましたお湯をこちらの急須?に静かに移して、静かに一分くらい蒸らすのでしたわね。ちょうど経ちましたかしら?』
『そうにゃね、いい頃じゃないかにゃ?』
『それで、少しずつ、湯のみに順番に注ぐ。…まあ!ニャーニャ!見てくださいませ!私が入れても緑になりましたわ!』
『ほんとにゃ!ニャーニャは入れてもらったこれを注ぐだけにゃ!ご主人!見てにゃ!まだ冷たいにゃ!』
『すごいですわね。ゲンさんは異世界の知識だから俺がすごいんじゃないとか謙遜されてましたけど』
『じゅうぶんすごいにゃよね?無自覚もあそこまでいくとすごいにゃ』
『ほんとですわね~』
『『はぁ~』』
これも作戦。でもこれは、演技ではない真面目なため息。

『異世界…』
『異世界の酒…』

はっ!そうでしたわ!
続きにゃ!

『ごめんなさいですわ。つい、話し込んでしまいまして』
『ごめんにゃ!はい!プリンにゃ!スプーンですくって食べるにゃよ!底に入ってるカラメルソースを混ぜると、またおいしいにゃ!』
ずいっと親方夫婦に渡すニャーニャ。

『これがプリン…』
『おう。じゃあ、まず一口』
ぷるぷるのプリンをスプーンで慎重にすくって、おそるおそる、ぱくっと…

『『な、なんじゃこりゃーっ?』』
『とけたよ!』
『とけたな!』
『今度はこの茶色いのも』
『お、俺もだ』
ぱくっと…未知なる物に固まる二人…
それをじーっと見つめる二人…

『どうですの?』
『どうかにゃ?どうかにゃ?』

『『な、なんじゃこりゃ~っ!』』
『甘い中にもほのかな苦味!』
『何より体験したことのないこの食感!』

ニヤリ
ハマりましたわね
ハマったにゃね

『それは一番スタンダードなものだそうですわ』
『そうにゃ!ニャーニャは3種類食べたにゃ。どれも美味しかったにゃ~』
『そういえば、お茶を使って新しいプリンも作ると仰ってましたわね』
『スイーツに終わりはない!スイーツの世界は無限だ!とか言ってたにゃ~』
『すごいですわね~』くぴっ
『すごいにゃ~』ごくごく
『お茶、落ち着きますわ~』
『麦茶、和むにゃ~』

ごくり。喉がなる。
『私らもお茶』
『いただこうか』
ごくっごくっごくっ
それ、淹れたてのお茶⋯熱くないの?

『は~ぁ 落ち着くね』
『ほ~ぉ この渋みがなんとも』
やっぱり熱くないの?

『あ、熱くないですか?』
『だ、大丈夫かにゃ?こ、これ飲むにゃ?』
おそるおそる麦茶を入れたコップを渡すニャーニャにゃん。

『『飲む』』
ごっごっごっ!
『『ぷはーっ』』
『『もう一杯!!』』
ドンッ!

『は、はいにゃ』
『や、やっぱり熱かったのでしょうか?』

しおり