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44章 ミサキの間食

 おにぎりを10個ほど食べようかなと思った。これくらいは食べておかないと、電車に乗っている間に空腹状態に陥る。空腹地獄の旅になると、悪い思い出を残すことになる。

 ミサキはカバンからおにぎりを取り出す。選り好みをする時間はないので、ランダムに選ぶことにした。適当に選んでいるため、同じ味ばかりになる可能性は残されている。

 ミサキは味を確かめることなく、一つ目のおにぎりを口に入れた。ロシアンルーレットの要素が含まれていることに、スリルを感じていた。

 おにぎりを噛みすすめていくうちに、鮭であることが分かった。大好物なので、とってもラッキーだと思った。

 1個目のおにぎりは、30秒ほどで完食する。時間をかけていると、電車の乗り合わせに遅れることになる。

「ミサキさん、喉はどう?」

 1個だけならいいけど、10個だとどうなるのかわからない。

「水分が欲しいかな」

 ミサキの話を聞くと、マイはゆっくりと立ち上がった。

「自販機で飲み物を買ってくるね」

「3本くらいあると嬉しいな」

 10個のおにぎりに対して、ペットボトル1本は少なすぎる。3本くらいあれば、余裕を持たせることができる。

「わかった。3本の水を買ってくるね」

「マイさん、ありがとう」

 マイは自販機に向かっていく。ミサキはその様子を確認すると、2個目のおにぎりを手に取った。

 おにぎりのパッケージには、いくらが映し出されている。最初を合わせると、親子おにぎりとなる。

 2つ目のおにぎりも、30秒ほどで完食。スピードが同じであることから、おなかにまだまだ余裕があると思われる。

 3つ目、4つ目のおにぎりを食べ進めていく。エンジンが入ってきたのか、食べるスピードは早くなっていた。

 8個目のおにぎりを食べていると、マイが水を持ってきた。

「ミサキさん、水だよ」

 おにぎりを食べている間は、会話をするのは厳しい。おにぎりを食べ終えてから、マイの相手をしようと思った。

 ミサキはおにぎりを食べ終えると、財布に手を伸ばした。

「マイさん、ありがとう。代金を払うね」

「水の代金は、4ペソだよ」

 マイに水の代金を渡す。その後、200ミリリットルの水を一気飲みする。

「ミサキさん、落ち着こう」

 ミサキは通常運転のつもりだったけど、マイにはそのように見えなかったようだ。

 20000キロカロリー生活を始めてから、早食いが目立つようになっていた。時間をかけていると、食事だけで1日が終わりかねない。食べる、寝るだけの生活だけでは、メリハリを感じるのは難しい。 

 ミサキは9個目のおにぎりを取り出す。

「ミサキさん、どれだけのおにぎりを食べるの?」

「10個~15個くらいを食べようと思っている」

「10個~15個?」

「うん。これくらいは食べないと、乗車中におなかペコペコになる」 

 1日に必要となる20000キロカロリーを、ご飯を食べられる14時間で割る。1時間あたりで、1429キロカロリーのカロリーを取る必要がある。おにぎりを10個食べても、余裕を持たせるのは難しい。

「大量食事生活は楽しい?」

「うん。それなりに楽しいよ」

 最初は戸惑いもあったものの、最近は当たり前と思うようになった。20000キロカロリー生活に慣れると、違和感はなくなる。

 10個のおにぎりの次は、ポテトチップスを取り出す。高カロリー食の塊を食べておくことで、おなかに余裕を持たせたい。

「ミサキさん、まだ食べるの?」

「うん。これを食べることで、おなかに余裕を持たせるの」

 マイはポテトチップスを取り出した女性を、唖然と見つめるだけだった。

「ミサキさんのように食べたら、ブクブクと太っていくね」

 どんなに痩せている人であっても、1週間以内に豚になる。ミサキの食生活は、通常の人間ではありえないレベルだ。

 ポテトチップスを食べ終えると、ベンチから立ち上がる。

「マイさん、待ってくれてありがとう。みんなのところに行こう」

「うん。そうだね」

 時刻を確認すると、発車時刻の10分前だった。電車に乗る時間を考慮すると、のんびりとしている余裕はなかった。

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