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魔王様と旦那様と最後の魔王国

戦後処理もほぼ完了し、バハマディアの復興もある程度落ち着いてきた。
こちらも戦後のどさくさに国内の体制の見直しや国民への救済を掲げながらの配置換えなどをして、変化を嫌う人間の習性を麻痺させている間に繁栄させやすい国作りを行った。
元ファラガリス、現南ゴルデン魔王軍が力仕事を引き受け、壊した城の修復などが驚くべき速さで進んでいる。

南ゴルデンの国民は、ゴルデン同様弱肉強食主義なので、シィーバ・ファラガリスが倒された今、倒したルクセルを魔王として崇めている。

強さこそ正義。

南ゴルデンには、ゴルデンから何人かの幹部が代行のような形で魔王の指示や会議の結果で出された指針に従って行動させている。
南ゴルデンからも元幹部がゴルデンを学ぶために来ている。

おかげで先日の村同様、人間に危害を加える事は禁止されているからではなく、共存を望む魔族・魔物が増えてきた。
人間も危害を加えてこない魔物が、率先して力仕事や難しい高い場所での作業をしてくれるのをありがたく思いつつ、他の場所でも仕事をして欲しいと考え始め、いずれ実行されるのを知った時喜ぶだろう。

さらにデンエン同様に交流や交易が始まれば、最初のうちは戦中支援してくれた国々へのお礼に使い、その後は輸出で活用できる。その売り上げを使って国民の生活を豊かにする事でさらに魔国への心象もあげれる。

全てデンエン王国からの入れ知恵ではあるが、国家としては今後損のない計画なので参考にさせて貰うと言いつつ感謝している。



「そうですか」
バハマディアの復興状況の資料を見ながら、思惑通りに進んでいる事に満足して、高橋は確認済みの判を押す。

少し早いが、今日の城内での仕事は終わったので城下に向かった。何かあれば腕輪の魔具に連絡が来るようになっている。
いくつかの商店で注文し、後日取りに行けるよう手配した。
仕事柄家に来てもらおうとすると貴重な休日を潰すしかないので、行ける時に見に行った方が楽となる。
まだ時間の余裕があるので、ゲートで魔国に移動した。
「魔王様か幹部の方とお話ししたいのですが、どなたか空いている方はいませんか?」
門番は高橋を見ると、少々お待ち下さい、と言って慌てて城内へ連絡を取った。
「このまま城門の方へ行って頂ければ、案内の者が出てきます」
さぁどうぞ、と門を開けた。
本当なら城内には簡単に行けるのだが、いきなり城内から現れるのも仕事中は避けるべきだと思って避けた。
王国内での仕事は終わっている。
今回はジグロードの情報に関する事なので、仕事として訪れている。
帰宅したルクセルに直接伝える方法もあったが、思う事があって魔国に来たのだ。

案内されたのは魔王軍の会議室。
既に魔王、幹部が勢ぞろいしていた。
「来客とは新《あらた》の事だったのか」
「会議中でしたか?前触れもなくお邪魔して申し訳ありません」
「今日は大体終わっているから問題ないぞ。帰ろうかと思っていたから入れ違いにならずに済んで良かった」
「そうですか、ではさっそく本題に入ります。ジグロードの件ですが…バハマディアの方から少し情報を頂きまして。やはりシグニールと繋がりがあるようです。どのようなのかはまだ不明ですが、シグニールには多少負傷者はいるが死者が出ていない。各国から支援された兵士が主な負傷者であった事も判明しました。恐らくシグニールとジグロードは同盟・協力関係にあり、各国を騙して支援を利用している模様です」

「あら、ルーちゃんの旦那様。やーっと気が付いたの?」
ルクセルのそばに、突然現れる魔族。
ルクセルは視線だけ動かして「ジグロードの公爵、アスタロトだ。時々ゴルデンにも服の仕立てで来ることがある」
新《あらた》に紹介した。
「初めまして。ルクセル魔王陛下の王配様。あたしあなたの事嫌いだから。よろしくね」
ニコっと笑顔で敵意を告げる。
女言葉だが、すらりとした筋肉質のオスである。
「新《あらた》に罪はないと言っただろうが」
「それでも許せない物は許せないの♪」
「……何か問題でもあったのでしょうか?」
「あったわよ!結婚式が急すぎんのよ!!おかげであたしが楽しみにしてたルーちゃんの結婚式のドレスを仕立てられなかったのよ!!!ルーちゃんの子供の頃からずーーーーーーーーーーーっと楽しみにしてたのに!!!!」
「それは申し訳ありません。こちらも急すぎるとは思ったのですが、終戦した以上早く挙式して色々アピールする政治的な思惑もありましたので」
「同意した以上私にも怒るべきであろう」
「ルーちゃんは良いの!!今度色々ドレス作って着てもらうから」
「それ私も見に来て良いですか?」
「あんたには見せてやんないわよ!!」
「せめて侍女の方に水晶持たすので」
「見ーせーなーいー!!」
「アスタロト、ドレス着るなら新《あらた》にも見せたいぞ」
「る~ちゃん!あたしの恨みを晴らさせてよぉ!!!」

幹部たちは会議室で繰り広げられるなんだかよく分からない攻防を眺めるしかできなかった。


「アスタロト、ジグロードがお前に私の暗殺だの命じたところでお主は実行せんのは分かっている」
「る~ちゃん♪」
突然、声のトーンが下がってルクセルがアスタロトをちゃんと見た。
「だが、新《あらた》が標的の場合、お前は自分が手を下さないのなら傍観を決めるだろ」
パチン、と指を鳴らすと、ルクセルの隣に新《あらた》が転移させられた。
「もう私はお前の知る幼い魔族ではない。新《あらた》を傷つける事があれば許さんし、死なせば私も死ぬ。ゴルデンは父上が戻れば良いが、私の世界に新《あらた》がおらねばならんのだ」
ルクセルは新《あらた》に抱き着く。新《あらた》も無言でルクセルを抱きしめた。

「はぁ~~~~~……分かったわよ。さっきも言ったけど、ジグはシグと協力関係は正解。ジグから戦争しているふりをして世界から届く物資をシグが貯めこみつつ、消耗した事にしている戦争道具をも貯めこませる。ある程度溜まったところでシグとジグの同盟で世界を支配下にする予定だったの。ルーちゃんがデンエンと国交を結んじゃうし、ファラガリスも吸収しちゃったから、作戦を練り直してたけど、結局ジグロードは世界征服が目的なのよね。魔界の門を開いてさらに魔族の強化と増加も狙っているわ」

「そこまでぶっちゃけてしまって良いんですか?」
「できるとは思わないもの。今ゴルデンに総攻撃しても人間側からも攻撃してくるでしょ?シグが出てきても世界とゴル対シグとジグ。そもそもゴルデンが戦火にさらされたら魔王竜様が飛んでくるわ。それに対抗できるジグの魔族はいないしね」
「そこまで分かっていながらジグロードが兵を引かぬ理由があるんだな」
「そうね。ジグロードはいかに悪だくみできるか。そーゆー奴が魔王をお飾りに置いてるしね。あたしも聞いてない事がきっとあるわ」
「父上からジグロードだけには手を出すなと厳命されている。同じ魔族だからとかじゃない。私では手に余るからだ。こちらからは手出ししない。まだな」
「その方が良いわ。もう少し悪だくみの内容が判明して対処できる策ができるまで、ルーちゃんは近づかない方が良いわ。協力はできないけどね」
寂しそうに忠告だけして、アスタロトは去った。

「妄信はしていないようですね」
「アスタロトとは付き合いは長いが、散々ジグロードの者を信じてはいけないと教えてもらっている。当然自分も、と必ず言われてる」
「世界征服と魔界の門の開放ですか…」
「今のゴルデンでは望まぬ選択肢だ。だが妨害もできない」
「何故シグニールを巻き込んでいるのか。その辺さえ判明すればもう少し考えれそうなんですが」
ゴルデン幹部達も沈黙する。
魔族による世界征服は反対だが、だからと言って誰もジグロードがどう征服するのか予想ができない。
「ネクロマンサーの方から接触してみましょうか?」
幹部の一人が案を出すが、即却下された。
「ジグロードがそれを考えていないはずがない。ダークプリーストが出ると厄介だ」
やはり案は浮かばない。
悩んでいても仕方がない。人間側の情報網ならいざしらず、魔族の計画など簡単に探れるわけがないのだ。


「今日は解散にする。各自持ち帰ってくれ」
魔族側からジグロードの情報を引き出す方法を探してこいと同義の閉会宣言を受け、幹部たちはうやうやしくかしづいた。

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