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20.伝言と騒がしい屋敷の中(バディー視点)

『ローレンス、帰ったぞ』

「バディー無事だったか! 良かった。ケビン食事を用意してやってくれ。いや、その前に体を綺麗にしてくるか?」

『体は途中で水浴びをしてきたから問題ない』

「そうか。じゃあ食事だな」

『それも話が終わってからで良い』

「…彼に会えたのか? そして何か問題が?』

 オレが帰ってきてニコニコしていたローレンスの表情が、真剣なものへと変わる。それは執事のケビンも一緒で。

『問題といえば問題だな』

「そうか。では今すぐ騎士達を集め…」

『あ~、確かにその方が良いな。なにしろ奴がいる場所まで行かなければいけないからな』

「は? 私達が彼の所へ行くのか? まさか、彼に何かあったのか!?」

『奴からの伝言を預かっている。だがそうだな、簡単に言えば、奴の所に人間がいる。しかもかなり小さい、確か2歳だと言っていたな。2歳の人間の子供がいて、奴と一緒に暮らしている』

 オレの言葉に再び『は?』と言ったローレンスは、口を開けたまま固まった。いつもは驚く事など滅多にない、いや見た事なかったか? ケビンまでもが一瞬目を見開いたのをオレは見た。奴でも驚く事があるのか? あれだけいつも無表情で何でもこなす奴が? …ふむ、何となくだが見なかったことにしよう。
 
 オレが声をかけると復活するローレンス。

「え? あ、いや。どう言う事だ。どうして彼が人間と? いや、何故そんな小さな子供が森に? しかもあんな危険な森に。いや、彼といるから危険ではないのか?」

 軽く混乱しているローレンス。まぁ仕方ないだろう。森の周りや、少し中に入ったくらいなら、今回のように調査をする事はあるが、危険すぎて奥までは行かないからな。しかもそんな森の中心に住んでいる奴の元に、小さな人間の子供がいるなど誰が考える。

 ローレンスは深呼吸をすると、フィオーナやスチュアート、他にもスチュアートの部隊から何人かを呼ぶように言い、またお茶の用意も指示する。まぁ長い話になるだろうし、皆に話し聞いてもらわなければ。おそらく、いや絶対に彼の所へ行くことになると思うが、しっかり話をしなければな。と、考えていたのだがな。

 皆が集まり、まずは彼からの伝言を伝える。皆かなり驚いていたが、それは当たり前だから良いのだが。さらに詳しい話をしようとした時、フィオーナが立ち上がりすぐに森へ行くと、森へ行く準備をしに行こうとした。そんなフィオーナをローレンス達が止める。ちなみにフィオーナはローレンスの妻だ。

「落ち着け! いや俺も君の事は言えないが。もう少し詳しく話を…」

「落ち着いていられるものですか!! 2歳だなんて、そんな小さい子が森にいるなんて! あの方の元にいるから危険はないでしょうけど、それでも早く迎えに行ってあげなければ。バディー。彼の伝言は今聞いた物で全てなのよね」

『あ、ああ』

 あまりの迫力に、オレは思わず後ずさってしまう。

「なら、詳しい話は移動しながら聞けば良いわ。それよりも準備よ! 森に行くための準備とその小さな子にも準備が必要よ。今から用意して…」

 ブツブツと独り言を言うフィオーナ。それからバッと顔を上げローレンスを見る。ローレンスの肩がビクッと揺れた。

「あなた、私は自分の準備とその子の準備をしてきますから、後の事は任せるわね。急いで準備しても最低でも2日はかかるわ。時間を無駄にしないで!」

 そう言い残し、フィオーナは話も途中に部屋から出て行ってしまった。出て行く時にメイドのアンジェを呼ぶ声が。騒いでいたフィオーナがいなくなった事で、部屋の中が静まりかえった。

「あ~、そのなんだ」

 ローレンスが頭を掻きながら、これからの事について指示を出す。1番大切な伝言は伝えたからな。あとは確かにフィオーナの言う通り森に行くまでに話せば良い。ローレンスもそう考えたのだろう。森へ行くための準備をするように言うと、スチュアート達が足早に部屋から出て行く。

「彼の元へ行くには、かなりの兵力が必要だな」

「はい。ですがバディー様の話からすると」

「最低限で力を示せといったところか」

『奴は子供を守れるだけの力が今の我々にあるのか、それを確かめたいようだ』

「だったらスチュアートの部隊ともう2部隊だな。ケビンお前も用意を。それと私は自分の準備が終わったらフィオーナの様子を見てくる。暴走して荷物が必要以上に多くなっても困るからな」

「かしこまりました」

 こうしてすぐ、スノーラ達の元へ向かう事が決定した。オレは帰ってきたばかりで、しかも人間のように準備するような物はないからな。ローレンス達の準備が終わるまでの間ゆっくりする事に。

 それにしても奴がローレンス達のことを認めて、レン達がここへ来たら、屋敷の中はかなり騒がしくなるだろうな。特にフィオーナが。レン達にとっても良い事だろうが。それにここに来れば兄達もいる。年は離れているが、レン達の遊び相手になるはずだ。そういえば兄達は今ここにいないようだが? まぁ兄達はおそらく留守番だから、帰って来たら簡単に説明してやれば良いだろう。

 良し、まずは奴の伝言をしっかり伝えられた。フィオーナのおかげで詳しい話はまだだが。ローレンス達ならば準備をしっかりし、予想外の事が起こらなければ、奴の所まで行く事ができるだろう。だがそれにはオレがしっかりとサポートしなければ。怪我などさせるものか。

 それにはしっかり休み体を万全に。良し、ご飯を食べたらゆっくり昼寝をしよう。オレはケビンが用意してくれたご飯を全て食べ、それから自分の部屋へと向かう。そして廊下で騒ぐフィオーナの声を聞き、煩いなと思いながら眠りについた。

「アンジェ、アレも必要だわ!!」

「はい奥様!!」

 …煩い。

「きゃあぁぁぁ!!」

「奥様!?」

 ガッシャアァァァンッ!!

 煩いぞ!!

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