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プロローグ

「え? ここどにょ?」

 今僕、『え? ここ何処?』って言ったと思うんだけど。うん、もう1度言ってみよう。

「ここ、どにょ?」

 …やっぱりちゃんと発音出来てない。何で? 色々な事に不安になりながら、僕は周りを見渡しました。ここは何処なんだろう?

 僕は今まで、施設の僕の部屋に居たはず。いつもみたいに言われた事をやって、やっと終わったのが22時過ぎ。もうこの時間だとちびっ子達が寝ているはずだから静かに自分の部屋に戻って。それで自分の部屋に戻ったら、宿題をやる前に1度ゆっくりしたくて、寝巻きに着替える前にそのままベッドにダイブして。

 それから何があったんだっけ? ベッドに寝た瞬間、僕の周りを明るい光が包んだんだよね。明るいっていうか、凄く眩しい光。目を開けていられないくらいに。だから僕は両腕で目を隠して目をつぶって。光が消えるのを待ったんだ。

 どのくらい経ったんだろう。目を瞑っていても眩しいくらいだったのに、それが少し落ち着いてきて。もうそろそろ大丈夫かなぁって思ってから、そっと目を開けました。最初目を開けた時、目がしょぼしょぼして周りがよく分からなくて。何度か瞬きをして頭を振って。この時にも体にちょっと違和感を感じたんだけど…。やっと目が慣れてきて見えたものは、僕の部屋、ううん。ベッドの上じゃなく。

 周りは木ばっかりで、地面も草と花が生い茂ってて。これって森だよねって感じの場所でした。空を見上げたら明るかったから、朝かお昼だとは思うんだけど。ちょっと目を細めて見てたら、太陽? それが2つ見えたんだ。思わず見かえしちゃいました。
 
 それからもう1度周りを見渡した僕。その後に。

「え? ここどにょ?」

 って言いました。言えてなかったけど。

「にゃんでここにいるのかにゃ? …かにゃ?』

 うん、とりあえずしゃべるのは後にしよう。他にも気になる事があるし。僕はそっと自分の手を見てみます。その後は足。うん、良し! ちょっと色々問題があるけど良し! 
 次は体かな。僕は立ちあがろうとします。そうしたらちょっとふらついちゃって。すぐに尻餅をついちゃいました。もう1回挑戦して、次はなんとか立てたんだけど、体のバランスを取るのが難しくて。

「かりゃだ、ちいちゃい」

 手も足も体も、僕の物じゃないみたいでした。僕のなんだけど僕のじゃないみたいな。だって僕の体、中学生の体からとっても小さい子供、何歳位かな? 本当に小さい子供の体になってたんだ。施設の子達で言うと、多分2歳か3歳。
 一生懸命、何とか体を動かして体をチェックして、僕はゆっくり座りました。まだバランスがよく分かんなくて、立ってると危ないと思ったから。
 
 はぁ、それにしてもここは何処で、僕はどうして小さくなっちゃったんだろう? もしかして夢? でも風も感じるし、草の感覚もあるし。感覚があるって事は夢じゃないよね。
 どっちにしろ夢でも夢じゃなくても、僕はこれからどうしたら良いんだろう。こんな森の中で小さな子供が1人。絶対にまずいよ。森に何が居るか分からないし、ご飯だってどうなるか。大体僕の知ってる森と同じとは限らない。太陽みたいなものが2つも見えたんだよ。まるで本の中の架空の世界みたい。異世界ってやつ。本当これからどうしよう。

 僕がそう考えている時でした。風と、風が揺らす、木や草や花の音以外の音が、急に聞こえてきました。

『ぴゅいぃぃぃ~。ぴゅぴぴぃぃぃ~』

 鳥の声? 

『ぴゅいぃぃぃ~…』

 元気な声って感じじゃない。なんかとっても弱々しくて、またすぐに聞こえなくなっちゃうんじゃないかっていうくらい、とっても小さい鳴き声で。
 う~ん、どうしよう。声の聞こえる方に行っても良いんだけど。近寄って大丈夫なのかな? もしこれが僕を誘き寄せる罠だったら? 鳴き声は鳥だけど、全然違う生き物だったら?

 考えている間にも、どんどん声が弱くなってって、後少ししたら、本当に聞こえなくなっちゃうくらいに、鳴き声が弱って行きました。

「あ~、もう!! まっちぇ、いまいくかりゃ!」

 相変わらずちゃんと話せてないけど、気にしててもしょうがないや。それよりもこの聞こえなくなりそうな声の方が気になるし、放っておけないよ。

 僕は立ち上がって、鳴き声が聞こえる方へ歩き始めました。と、歩き始めてすぐに転んで。立つのはさっきよりも上手くいったんだけど、歩いたらふらふらしちゃって転んじゃったんだ。もう、何で体が小さくなってるんだろう。いつもの体なら、すぐに鳴き声の所に行けるのに。

『ぴゅいぃぃぃ~…』

「まっちぇ!!」

 よし、もう1回!! 立ち上がってそっとそっと1歩ずつ確実に。少し歩いて、木の間を抜けて。うん、ゆっくりなら何とか行けそう! 待っててね、ゆっくりだけどすぐに行くからね。

 何とか歩いて、どんどん声の聞こえる場所に近づいて行きます。どのくらい歩いたかな? ゆっくりだし、体が小さいからどのくらい歩いたのかいまいち分からなかったけど。前の方の背の高い草むらの向こう、その向こうから声が聞こえてきました。あと少し、転ばないようにっと。

 そして草むらの前で止まった僕。僕が草むらの前で止まると、今まで鳴いていた声が止まりました。もしかして僕に気がついた? そっちに行っても良い? 僕は小さく深呼吸をします。小さな小鳥だと良いんだけど、全然違うなんか知らない生き物だったら嫌だな。でもあんなに苦しそうに悲しそうに鳴いてる声を放って置けないし。

 僕は草むらの中に突撃しました。僕の背よりも全然高い草。草に押し戻されそうになりながら、何とか草むらを抜けて。抜けたそこは花畑でした。そんなに大きくはなくて、そこだけ花がいっぱい咲いてるって感じだけどね。

 僕は花畑を見渡します。良く確認しないと。良し、取り敢えずは変な生き物はいないみたい。僕は花畑の中心に。と、その中心の所に何かあるのに気がつきました。僕は今よりももっと、そっとそっと歩いてそれを確認します。そして…。

「こちょり!!」

 そこにはとってもとっても小さい、小鳥が横たわっていました。これが僕の新しい世界での生活の始まりだったよ。

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