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224章 来客

 マツリが来たことで、食欲を失った。食べる必要のない体なので、昼食を無理に食べる必要性は皆無である。

 横になろうとしていると、玄関をノックされる音がする。

 マツリかなと思っていると、別の人物が立っていた。

「アカネさん、こんにちは・・・・・・」

「ココアさん、シオリさん、いらっしゃい」

 ココア、シオリの顔を見るだけで、先ほどのことを忘れられるような気がした。自分でいうの
もなんだけど、単純な女である。

「アカネさん、頭をなでなでしてください」

 優しく、柔らかく、温かくの3つをモットーに、ココアの頭をなでる。

「これでいいかな?」

 ココアの頬は、マシュマロみたいにふやける。

「はい。柔らかい感触が最高です」

 ココアの様子を見ていると、年下の女性と接しているように感じられた。

「アカネさん、ハグをしてください」

「ココアさん・・・・・・」

「アカネさんの優しい体温を、私に分けてください」

 普段は妥協することが多いけど、今回は自分の思いに正直になった。

「ごめん。同性であっても、ハグはしたくない」

 重い空気になるかなと思っていたけど、そういう展開にはならなかった。ココアは実現しな
い、と考えていたのかもしれない。

「アカネさん、失礼しました」

 シオリが話題を変える。話を変えることによって、フォローしようとしているのを感じ取れ
た。 

「コハルさんはいないんですか?」

「夜の仕事を始めたので、ミライさんのところに引っ越したの」

「夜の仕事ですか?」

「バンナナトウという場所で、幽霊退治を始めたの」

 シオリは幽霊の2文字に、敏感に反応する。

「幽霊ですか?」

「うん。幽霊だよ」

 シオリは幽霊が怖いのか、顔が真っ青になった。

「アカネさんは、幽霊は怖くないんですか?」

「幽霊については平気かな」

 得意というわけではないけど、苦手にしているわけでもない。

 顔が真っ青になった女性は、体を震わせていた。

「幽霊と聞くだけで、身震いがします」

 普段はしっかりとしている女性も、幽霊を苦手としている。欠点があることを知って、アカネは親近感を覚える。

 シオリとは対照的に、ココアはやる気でみなぎっていた。

「幽霊退治なら、お手伝いできるような気がします」

 張り切っている女性に、冷たい現実を突きつける。 

「幽霊退治をするところは、空気がないんだ」

 ココアは空気がないことを知って、大きく落胆していた。

「アカネさんの仕事は、空気のないところが多いですね」

 水探索は酸素量が極端に少なく、裏世界探索、魔物退治、幽霊退治は空気が存在していなかった。通常の人間なら、仕事にならない場所が多数を占める。

「空気のないところで仕事しないと、大金はもらえないのかもしれません」

 ミライも大金を得ているものの、幽霊退治のおこづかいレベルにとどまる。真のお金持ちになるためには、特別な才能を必要とする。

 ココアにさらなる情報を伝える。

「幽霊の能力は高めみたいだから、通常の人間はすぐにやられるよ」

 テオスがかくまろうとしていたことから、かなりのレベルであるのは確かだ。通常の人間が攻撃を受けたら、100パーセント近い確率で瞬殺される。

「アカネさんと、一緒に仕事したいです」

 ココアの願いは、5年後、10年後も叶わないかもしれない。そのように思ったものの、口にすることはしなかった。

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