バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

209章 男運のなさ

「アキヒトは付与金をもらってから、ギャンブルにのめりこむようになったんです」

 せっかくの付与金を、ギャンブルで使い果たす。本来の趣旨にそぐっているとは、いいがたい行動である。

 付与金をもらえるようになってから、50人くらいの男女が借金罪で逮捕された。アキヒト同様、ギャンブルにのめりこんだと推測される。

「ギャンブルで負け続け、付与金はあっという間になくなります」

 400万ゴールドを稼ぐのは大変だけど、一瞬で使い果たすことはできる。

「ギャンブルを我慢できないのか、私のお金を渡すようにいってきました」

 タバコ、酒、ギャンブルなどは依存しやすい。のめりこんでしまったら、元の世界に戻るのは難しい。

「コハルさんはどうしたの?」

「少しくらいならいいかなと思い、お金を渡しました」

 先の展開を聞かなくとも、未来の話は分かるような気がした。

「要求する金額は膨れ上がっていき、生活は一気に苦しくなりました」

 お金をもらったことで、貧困生活を加速する。ありえない話ではなさそうだ。

「放火していなかったとしても、借金罪で逮捕されていました。地上で生きることはなかったでしょう」

 ギャンブルをする男と交際を続けたのは、子供を授かっていたから。それがなかったら、破局を選択していた。

「子供を失ったのはつらいけど、リセットしようと思うこともできました。そのことについては、プラスに考えています」

 涙を流していた女性は、前に進もうとしている。心変わりは得意なのかもしれない。

 コハルの頬に陰りが生じる。 

「どういうわけか、とんでもない男ばかりを引いてしまうんです。男運がないのかもしれません」

 男運だけがない人、女運だけがない人、金運だけがない人といった具合に、特定の運に偏った人間は存在する。

「アキヒトの前に交際していた男は、性に対する執着がすごかったです。女性=性欲を満たすた
めの道具という感覚でした」

 性欲を満たすための道具と考える、男は一定数いる。100年、200年がたったとしても、変わることはないと思われる。

「こちらについては、最終的に通報しました。交際していたとしても、道具のように扱う男はあ
りえないです」

 犯罪の少ない町で、交際した2人の男が逮捕される。男運のなさは、一流の域に達している。

「6歳のときに交際していた男は、監禁するような男でした。こちらについても、周囲によって通報されました」

 3連続で逮捕される男を引くなんて。ここまでくると、宿命といわざるを得ない。

「今後は恋愛しないでしょう」

 逮捕される男と交際しても、貴重な時間を失うだけである。コハルにとって、メリットは一ミリもない。

「時給アップ、固定費免除なので、一人でやっていけるようになりました。男と無理に生活する
必要はありません」

 土地代免除なので、100万ゴールドで生活できる。仕事のできる人間なら、簡単に稼げる金額である。

「アカネさん、ハグしてもらえませんか」

「うん。いいよ」

 体を重ねると、柔らかさを伴っていた。

「アカネさん、ありがとうございます」

 コハルの爪に力が入った。心の中にたまった負の遺産を、必死に吐き出そうとしているように感じられた。

しおり