バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

2.大・大衝撃波

「ハンターの呼称はショックダイル。
 衝撃のショックと、ワニを英語でいうクロコダイルを合わせました」
 映像は一時停止。
「上アゴと下アゴから震動波を放ち、任意の距離で合わせる事で強力な震動波に変えます」
 ショックダイルの3Dモデルに切り替わる。
 となりには全高53,1メートルの巨人ウイークエンダー・ラビットと、全長17メートルのキツネ、北辰のモデルが立つ。
 私たちのモデルと比べると、ショックダイルの高さは40メートルほど。
 ウイークエンダーの肩ぐらいある。
 長さは80 メートルぐらいね。
 なんとも四角い姿だね。
 巨大な箱型の胴体とトゲだらけのアゴについては、もう話したね。
 シッポも四角い。
 胴体よりわずかに細いだけの、まるで動くダムだね。
「エサは火山のエネルギーです。
 ただし、地熱などではありません。
 霊山としての、いわゆる神の力です」
 20年以上前なら、ここで笑い声が起こったかもしれないね。
 昔のファンタジーアニメではそうだった。
 でも私は生まれてから、そんな光景にあった事はないね。
 映像が、山の地図に変わる。
 本当に山しかない、広大な山地の地図。
 さっきの映像での戦闘場所から、ショックダイルの歩いた跡が線として表示されるの。
 線の最初、地図ではそこに池がある。
 山頂の、昔の噴火口跡が。
 ショックダイルによって破壊された、懐かしい光景がね。
「ショックダイルの出現地点はここ、霊山の山頂です、
 ここから地下へ巨大な穴を開けました。
 およそ30分かけて、マグマが見えるほどの垂直の穴です。
 あの山は活火山です。
 山頂の岩の押さえがなくなれば、噴火の恐れもありました。
 そのため、九尾 九尾さんたち瑞獣たちは、穴をふさぐために残ったのです」

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 狩場の映像に戻る。
 山が、黒い欠片となって巻き上がる。
 岩を切り、並べた階段が、巻き添えになって砕けた。
 人がいなかったのは、本当に幸運だよ。

 ショックダイルの振動波は、本当にすさまじい。
 それに巻き込まれた味方がいなかったのは良かった。
 ホクシン・フォクシスは2機づつ左右に分かれて、私はそのうちの2機と一緒に走った。
 あっという間に置いていかれたよ。
 振動波の破壊は、私たちを追い立てるために急激に方向を変える。
 まるで機関銃のSの字掃射だね。
 私はもう一度、ウイークエンダーをジャンプさせた。
 準備しておいた背中のコンテナ。120ミリ連装滑空砲を今度こそ放つ!
 爆炎はショックダイルのアゴに2つ、たじろがせる!
 岩が砕けるのが、止まる。
『よっしゃ。ここからは任せて! 』
 朱墨が言った。
『全機、接近戦、開始! 』
『『『了解! 』』』
 そして、ここからが見せ場だ。

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

「4機の北辰が加速します。
 その足に、ご注目ください」
 加速が始まる。
 足は青い光が炎のように揺らめいて宿る。
 その走りは、足で踏みだす走りじゃない。
 上下の振動がなくなった。
 スキーやスノーボードのように、滑る動き。
「通称、鬼火。化学元素調整装置です。
 空気の元素、この場合はもっとも多い成分のチッ素、の形づくる力を調整しています。
 今は空気の靴をはいて、地面から浮いて滑っているような状態です」
 鬼火は、その際に発生する青い力場から、異星人のメーカーが付けた商品名。
 ちょっと怖いわね。
 北極星の呼び名の1つ北辰といい、日本の文化に合わせたんだろうけど。

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 私はこの時、ショックダイルの正面に陣取ったの。
 ウイークエンダー・ラビットと言えば重装甲と高パワー。
 ショックダイルが震動波を放とうと向く。
 私が相手の注目の的になって、味方への注目を減らそうと思ったの。
 その隙にホクシン・フォクシスが四方から襲いかかる。
 あの滑る動きの中で、青い炎が、刃に変わる。
 そして、ショックダイルの黒いウロコを上から下まで切り裂いた。
 宇宙からもたらされた力が、空気のクッションを、元素1個分の厚みしかない切っ先に変えたんだ。
 ウロコの間に見える、小さくキラリと光るモノ。
 その目の近くを切り裂かれ、4本の足も傷ついて、ついにショックダイルはへたり込む。
 傷から勢いよく飛びだしたのは、赤い血などではなく、白い火花だった。
 ショックダイルが、どう言うエネルギーで動いているのかは、今も研究中なの。
 へたり込みながらも、あのダムのような尾と、震動波はまだ使える。
 2つのアゴが、震えはじめた。
 狙われるのは、私!
 私は、逃げるか進むか、すぐに決めなければいけなくなった!
 決めなければ、待っているのは、死!

 その時に、私の母艦の雷切から通信が入った。
『ホクシン・フォクシスは撤退しなさい。うさぎ、5秒後に突撃しなさい』
 お母さんの声だ。
 うちのお母さんはアンドロイド。
 人間に似せて作られた機械なの。
 純然たる戦闘用で、今は作戦を考えてくれている。
 そのお母さんの指示に従うと、ショックダイルの振動波が放たれるまでここにいなきゃならない。
 でも私には、従うことへの迷いはなかった。
 得意のパンチをいつでも打てるよう、構えるだけだ。
 ショックダイルのアゴが震える。
 ウイークエンダーの装甲が揺れだしてきた。
 一瞬で砕かれた山の岩が、怖さとともに思いだされる。
 その時、ショックダイルの後ろに巨大な茶と緑のまだら模様が滑り込んだ。
 全長100メートル。低速での大気圏航空に有利な、真横に伸びた主翼。
 急襲揚陸艦、雷切はエンジンを切って音もなく飛べるの。
 その直後、光が生まれた。
 暴風だね。
 ショックダイルのあの巨体が、シッポからあおられる!
 その後ろから、煙になった砕けた岩がビュンビュン飛んでくる!
 雷切が、ジェットエンジンを地面に向けて噴射したんだ。
 ショックダイルの後ろで起こったことは、大爆発なんだ。

 私は走りだす。
 ショックダイルに向かって。
 振動波はジェットに流される。私は近づくから、振動波は焦点を合わせれない。
 ウイークエンダーの2つのこぶしに、腕からせり出した装甲が重ねる。
 シンプルだけど必殺の、全体重を最高まで加速した、パンチ!
 狙うのは、震えてぼやけて見えるショックダイルのアゴ、二つ!
 当たった瞬間、この戦いで最も大きな衝撃が起こった。
 アゴは、もうぼやけていない。
 少し体にめり込んで、ひしゃげたかもしれない。
 ショックダイルが、後づさる。
 その先には、崖があった。
 踏み外す、後ろ脚。
 そこから這い上がる力は、もう残っていなかった。
 黒い巨体は、岩を砕き、低い木や草花をはぎ取りながら落ちていく。
 
 こうして、戦いは終わったの。
 こんなときは、「うれしい! 」みたいな感情は浮かばない。
 ただ、「もう考えなくていい、耐えなくていい」という感情が浮かぶだけだよ。

しおり