22章 思いがけない事態
「お客様、水になります」
水を持っている手が、大きく震えていた。
「ミサキさん、ゆっくりでいいですよ」
温かい声をかけてもらったことで、手の震えは弱まることとなった。
女性グループに水を渡したあと、30くらいの男性に声をかけられた。
「ミサキさん、大食いするところをみせてほしい」
お客様の頼みであっても、受け入れることはできなかった。
「仕事中ですので、食べるわけにはいきません」
ミサキがNGを出すと、シノブに質問を投げかける。
「シノブちゃん、ミサキさんの大食いを見たい」
断るかなと思っていたけど、あっさりと了承していた。
「いいですよ」
男性はOKをもらうと、焼きそばを注文する。
「シノブちゃん、塩焼きそばを10人前」
シノブは丁寧にお辞儀をする。
「ありがとうございます。焼きそばはどうしますか?」
「10人分全部、ミサキちゃんにお願い」
「かしこまりました」
シノブは厨房に下がる前に、
「お客様を喜ばせるために、たっぷり食べてくださいね」
といった。自分は食べないからか、他人事のように感じられた。
「ミサキさん、焼きそばを作ってみませんか?」
「いいんですか?」
「ミサキさんが食べる分だから、好きなように作っていいですよ」
自分で食べる焼きそばなので、しっかりと作っていきたいところ。失敗しようものなら、地獄が待ち受けている。
「焼きそばは簡単に作れるので、すぐにできるようになりますよ」
焼きそばを作れるようになれば、できる仕事を増やせる。一人前になるためにも、できるようにならなければならない。