19章 朝を迎える
ミサキが起床すると、朝の6時30分だった。
空腹になるまで、30分間の猶予がある。この時間を利用して、本を読もうかなと思った。
手に取ったのは、「人間の奇跡」という本である。内容からすると、人間が奇跡を起こすのかなと思った。
ページをめくると、平凡な日常生活を描かれていた。これだけを見ると、「人間の奇跡」というタイトルに似つかない。
2ページ目についても、同じような内容である。4人家族が、一家団欒をしていた。
3ページ目についても、内容を引き継いでいた。おかしなことが起こる気配は、一ミリも感じられなかった。
10ページを読み進めたところで、時刻は6時59分になった。あと1分で、ご飯を食べられるようになる。
時間は一秒ずつ過ぎていき、朝の7時を迎えた。
平和な時間が嘘だったかのように、お腹が食べ物を求めるようになった。早く何かを食べないと、意識を失いかねない。
スーパーで買いだめした、ロールパンを口にする。何度も食べることになるため、手間のかかる料理は作りたくない。
ロールパン10個を口にふくんだあと、総菜の唐揚げを口に詰め込んでいく。肉の香りを感じたことで、幸せな気分になれた。
「とってもおいしい」
1日に必要なエネルギーは、20000キロカロリー。これくらいの量では、すぐに空腹になる。腹ペコにならないために、大量のエネルギーを摂取しておこう。
ケトルに大量の水を入れたのち、スイッチをオンにする。5分くらい放置しておけば、水はお湯に姿を変える。
ミサキが用意したのは、とんこつ味のカップラーメン。両親が一緒に住んでいたときに、愛用していた食材の一つだ。
一つだけでは足りないので、四つのカップラーメンを準備する。一つで500キロカロリーなので、四つで2000キロカロリーを摂取できる。必要となるエネルギーの、10分の1に該当する。
ケトルのお湯が沸騰したあと、カップラーメンにお湯を注いでいく。あとは待つだけで、カップラーメンを食べることができる。
テレビをつけると、「小学一年生の勉強」という番組が映し出された。まともなタイトルだったことに、そっと胸をなでおろした。朝から水着姿を見せられたら、意気消沈することになる。
教養番組の司会者は、40くらいの男性だった。見た目も普通で、イケメンからは程遠かった。
イケメンではなかったものの、おとうさんさながらの優しさを感じさせる。教師役としては、最適だと思えた。
40くらいの男性は、5~6歳くらいの子供たちに、簡単な計算問題を出す。
「3+5はいくつですか?」
男性の問いに対して、子供たちは「8」と、元気に答える。問題を楽しんでいるのが、はっきりと伝わってきた。
「よくできました」
子供たちを褒めることによって、勉強に対する意欲を高めようとしている。
「これは何と読みますか?」
男性は「三」という漢字を上げる。漢字を習う子供なら、絶対にわかるレベルである。
子供たちは大きな声で、
「さん」
と答える。男性は答えを当てた子供たちに、
「よくできました」
と褒めていた。
男性は「山」という漢字をあげたあと、
「これは何と読みますか?」
と質問する。子供たちは元気な声で、
「やま」
と答えた。
小学生レベルの問題は、19歳には退屈すぎる。ミサキはチャンネルを、別のものに変更した。