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199章 ミライが手を差し伸べる

 ミライが住む家のない女性に対して、

「アカネさんがいなくなったら、一緒に住みませんか?」

 と声をかける。コハルは思いがけない提案に、目が点になっていた。

「ミライさん・・・・・・」

「豪華なおもてなしはできないですけど、ご飯をしっかりと食べられる環境ですよ」

 絵を描くことによって、十分な金額を稼いでいる。それゆえ、食事を提供する余裕がある。

「ミライさん、いいんですか?」

 ミライは満面の笑みになった。

「いいですよ。一緒に住みましょう」

 ミライが掌を差し出すと、コハルはがっちりとつかんだ。

「迷惑をかけるでしょうけど、お世話になります」

「アカネさんが仕事を始めたら、家に来てください」

「ありがとうございます」

 コハルはゆっくりを手を離した。

「弱者に温かい人もいるんですね」

 自分の生活でいっぱいいっぱいで、他人を助ける余裕はなかった。そのこともあって、冷たい社会が作られていた。

「生活に困っていたときに、アカネさんに助けてもらいました。今度は誰かを助けたいと思います」

 生活にゆとりができたことで、心に余裕が生まれたようだ。アカネはそのことを、喜ばしいと思った。

 ミライは生活をするにあたって、一つの条件をつける。 

「絵を描いている間は、声をかけないでくださいね」

 絵を描いているときに、他人に声をかけられると、集中力をそがれることになる。ミライにとっては、芳しくない状況といえる。

「わかりました。絵を描いている間については、仕事、外出をしようと思います」

「コハルさん、外に出ることはできるの?」

「すぐには無理でしょうけど、1ヵ月以内に解決してみせます」

 コハルの口調からは、強い意志を感じられた。

「アカネさん、ミライさん、一緒に散歩に行きたいです」

 ミライが返事をする。

「わかりました。行きましょう」

 アカネが続けて返事をする。

「うん。散歩に行こう」

 コハルが必死に前を向こうとしている。その姿を見ていると、こちらまで元気づけられているように感じられた。

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