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給食とか その1

 死人大魔術師(エルダーリッチ)のドリンドリンドルンさんが訪ねてきて以降、スアはしばらく研究室にこもってあれこれ研究を続けていました。
 魔法に関しては、この世界最高の知識を持ち合わせているスアですけど、魔導船の建造となると木造建築の知識などのように魔法以外の知識も必要になってくるわけです。
 そのため、そういった方面のエキスパートであるルア工房のルアのところに行って相談する姿も結構な頻度で見受けられるようになっているんです。

 僕と結婚する以前のスアでしたら、超絶対人恐怖症が邪魔をして絶対にそんなことは出来なかったと思うのですが……僕との新婚生活や、出産子育てを経てスアも成長しているのかなぁ、なんてことを思ってしまう僕だったりするんですよね。

 ただ、ルアとも相談した結果、

「やっぱり竜骨として使用出来る巨木がなぁ……」

 スアに頼まれて作成した魔導船の設計図を見つめながらルアは頭を抱えていました。
 スアも、首をひねっています。

 竜骨っていうのは、船首から船尾にかけて船底を通っている太い木のことでして、魔導船を製作する上で二番目に大事な材料なんだそうです。
 一番は魔導船を宙に浮かせて移動させることが出来るだけの魔力を秘めた魔石なんですけど、

「……魔石なら、いくらでも精製出来るから」

 と、スアのすっごく頼もしい一言があるので心配はないのですが……
 ちなみに、スアの魔法で数本の木をまとめで太くする……という手も考えたのですが、

「……魔導船の魔力に影響されて、木々を融合している魔法が無効化される危険性がある、の」

 とのことでして……なかなか上手くいかないわけです、はい。
 スアの研究室で、一緒に腕組して悩んでいると、

「?」

 ミンスが姿を現しまして、小首をかしげながら僕とスアの元に歩み寄ってきました。

 ミンスが、世界樹であるスアの新巨木の家の精霊です。
 いつもは世界樹の中にいるのですが、気が向いた時にこうして姿を現すんです。
 緑の髪の少女の姿なもんですから、我が家の子供達、パラナミオやリョータなんかとよく一緒に遊んでいるんですよね。

 そんなミンスに、スアが視線を向けています

「……うん、そう……木がね……うん」
 
 ミンスは言葉を話せません。
 基本的に思念波でのみ会話を行います。
 で、今はスアと思念波で会話をしているようなのですが……

「……なら、使い魔の森で出来るかも」

 そう言うと、ミンスを連れてコンビニおもてなし本店の方へトテトテと駆けていきました。
 お店と厨房をつないでいる廊下の壁一面に設置されている転移ドア。
 その1つをスアがあけると、その向こうはスアが個人的に管理している異世界へとつながっています。
 ここは「スアの使い魔の森」と言われていまして、スアが保護している稀少な魔獣や亜人種族達が暮らしています。
 出来たてで、発達途上の世界なもんですから、僕の世界の四国か九州くらいの大きさしかないそうなのですが、日に日に成長を続けていますので、日本くらいの大きさになるのもそう遠くないんじゃないかと思っています。

 スアの使い魔の森に到着すると、

「♪」

 ミンスは笑顔で森へ向かって駆けて行きました。
 どうやら、この世界が気に入ったみたいですね。

 で

 森の中にある数本の木に向かって自分の額を合わせるミンス。
 すると……その木がまばゆいばかりに光りまして……気のせいか、少し大きくなったような……

「……ミンスがね、この木の生長をはやめてくれた、の……数週間で、樹齢数百年並の大きさになる」
「へぇ、そうなんだ」

 スアの説明に感嘆の声をあげた僕。

「ミンス、ありがとう。おかげで助かったよ。これで新しい魔導船が造れそうだ」

 僕は、ミンスの前でしゃがみこむと、笑顔を浮かべながらミンスの頭を撫でました。
 ミンスも嬉しそうに微笑んでいます。
 その後、僕に笑顔で抱きついてきたミンス。
 そんなミンスを肩車してあげまして、僕達はしばらく森の中を散策していきました。

◇◇

 そんなわけで……

 スアの使い魔の森の樹木が十分生長したら新しい魔導船の開発をはじめる段取りになりました。
 大まかな作りはスアが魔法でやってしまって、船内の細かな作業をルア工房にお願いすることにしています。

「久々の大物だし、今から腕がなるよ」

 ルアも満面の笑顔です。
 ちなみに、ルアの長女のビニーも、最近はルア工房のお手伝いをしています。
 学校に通いながら、帰宅すると工房で作業の手伝いをしているビニー。
 我が家の子供達と一緒に登下校しているのですが……
 
 右腕にアルカちゃん、左腕にビニーに抱きつかれて登下校しているリョータ……僕には微塵もなかったモテスキルを存分に発揮しているんですよね……我が息子ながら、末恐ろしいといいますか……

 ちなみに、みんなが通っている教会の学校ですが、この春から給食のお世話もコンビニおもてなしでさせてもらうことになっているんです。
 さすがに弁当というわけにはいきませんので、樽のような容器の中にスープ類を入れて、大きなケースの中にご飯やおかずを入れて、それをお昼前に教会に配達しているんです。
 配達に使用しているのは、電気自動車のコンビニおもてなし1号です。
 いつもはテトテ集落への移動販売でのみ使用していたおもてなし1号ですけど、最近では毎日コンビニおもてなし本店と教会を往復しています。

 で、その運転なのですが……

 最初は僕がやる予定にしていたのですが……最近はコンビニおもてなし7号店が賑わってきていまして、とくにお昼前後はお客さんが殺到しているため、抜けるのが難しくなってきているんです。

 そんなわけで、本店の店員の誰かにこの役目を担ってもらおうと思った次第なんです。
 最初は、毎朝コンビニおもてなし各本支店ならびに出張所へ弁当などの商品を配達してくれているヴィヴィランテスにお願いしようかと思っていたのですが……

「あらン駄目よぉ、お昼前はファファランと遊んであげてるからぁ」
 
 と、おもてなし商会ティーケー海岸店兼コンビニおもてなしティーケー海岸出張所の管理人ファニーとの間に産まれた女の子ファファランのお相手で忙しいらしく……ちなみに、ヴィヴィランテスは今でこそハニワ馬の姿をしていますが、本来は水晶一角獣(クリスタルユニコーン)っていうかなり格好いい馬なんです。
 で、奥さんであるファニーさんも、いつもやる気がなさそうな表情をしていますけど、かなり美形なもんですから……その両方の遺伝子を引き継いでいるファファランってば、かなりの美少女なんですよね。
 パパであるヴィヴィランテスと一緒に毎朝荷物運びのお手伝いをしている時は馬の姿をしていますけど、ヴィヴィランテスと遊んでいる時なんかは人の姿に変化しているんです。

「こりゃ、将来モテるだろうねぇ……いや、今ももててるんじゃないかな?」
「そうねぇ、森の中を一緒に走っているとね、野生の馬魔獣なんかが求愛してくることがあるわねぇ」
「そういうときはどうしてるんだい?」
「そんなの、決まってるじゃなぁい」
 
 そう言うと、ヴィヴィランテスは、蹄を器用に自分の喉元に当てまして、首をかっきるポーズを……

 ……でも、そうですね……同じ女の子をもつ父親として、その気持ちよくわかります。

 気がつくと、僕の背後にオデン6世さんと、パラランサくんの姿がありまして……二人ともうんうんと頷いていました。

 ルアの旦那さんで、ビニーの父親であるオデン6世さん。
 ヤルメキスの旦那さんで、15人の男女の子供の父親であるパラランサくん。

 ともに、娘をもつ親同士、共感した僕達はその場で何度も頷きあっていた次第です、はい。

 えっと、脱線が長くなりましたね……

 そんなわけで、おもてなし1号の運転を誰にお願いするか……ってことだったのですが……

「それなら、ルービアスが適任ですわぁ」

 と、現在コンビニおもてなし本店の店長をしてくれています魔王ビナスさんが推薦してくれました。

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