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(半ば捨て身の)同盟成立

「あのっ!? それで良いんですかっ!? まだダンジョンを踏破した場合のコ……マコアの処遇とか、色々と話す事がっ!?」

 俺から話を聞くなり走り出すゴッチ隊長。一瞬コアの呼び方をどうするかどもったジューネが止めようとするがそれは叶わない。俺達も追いかけて外へ出ると、既に調査隊の人達は整列を完了していた。

「驚いただろ? ゴッチの奴は一見落ち着いているが意外と行動派でな。一度やるって決めたら即実行って所があるんだ」
「それは大丈夫なんですかアシュ?」
「部下を束ねる隊長としては微妙だが、部下を引っ張っていくという意味では悪くはないな。それに本当に危険だったら行かないし行かせない。それぐらいは心得ている奴だ」

 そうこう言っている内にゴッチ隊長は調査隊の人達に何か指示を出し終わる。マズイ。ドンドン話が進んでいく。そして俺達はゴッチ隊長に追いついた時には、もう大半の人が動き始めていた。

「ああ皆さん。先ほどは急に走り出してしまって申し訳ありませんでした。どうにも私は思い立ったら即行動する悪癖があるみたいで、部下を預かる身としては直そうと思っているのですが……」

 ゴッチ隊長はどこか申し訳なさそうに頭を下げる。まだ自覚があるだけ良いと思うべきか、自覚しても直らないほど酷いと言うべきか。

「まあ前よりはマシになったと思うぜ。……それで? もう出発するのか?」
「はいっ! そろそろ予定の時間でしたし、皆様のお話を聞くにそのマコアさんは話せば分かる相手と見ました。先生方は如何しますか? お疲れでしたらここでお休みいただいても構いませんが」

 ゴッチ隊長はどこか期待するような目で俺達……特にアシュさんをチラチラと見ている。よくよく見ると周りの調査隊の人達も似たような感じだ。

 ……これはアレかな? 先生に成長した自分達の姿を見てもらいたい的なものかな? 何故だかアシュさんが学園漫画とかで時々出てくる凄腕教師みたいに見えてきた。

「そうだな。マコアに事情を説明する必要があるから、俺達の誰かは行く必要があるな。お前達の動きも見たいから俺が行きたい所だが……」

 アシュさんはそこでジューネの方に視線を向ける。アシュさんは立場上ジューネに雇われている用心棒だもんな。雇い主の傍を長く離れられない。

 ならジューネも一緒に行けば良いかというと、まだ疲れが取れていない状態でダンジョンには行かせられない。

「じゃあ俺が行きますよ! 最初にマコアと話したのも俺ですし」
「……なら私も。ダンジョンの外に出たから契約は完了だけど、最低限の安全を確保するまでは付き合いましょう」

 おう! アフターサービスもしっかりしてるよエプリ。……ホントなんでここまでしっかりした奴がクラウンみたいな悪党についたんだろうか?

「分かりました。一緒に行くのはトキヒサさんとエプリさんですね?」
「あっ!? あとボジョも一緒です。出て来いよボジョ」

 今までずっと服の中に潜んでいたボジョが、俺の言葉に反応してにょろりと触手を服の袖から出す。

「おや? トキヒサさんはテイマーでしたか? それは心強いですね」

 ボジョを見ても驚くこともなく、だけど何故かゴッチ隊長に感心されてしまった。テイマーってよくファンタジーだとモンスターの調教師がそう呼ばれるよな? 意味合いはなんとなく分かるけど、感心されるほど珍しいのだろうか?

「改めまして、一緒に行くのはトキヒサさんとエプリさん。そしてボジョ……くんですね」

 ウォールスライムの呼び方が分からなかったのか、一瞬言い淀んでからくんづけにするゴッチ隊長。実際スライムに雌雄はあるのだろうか?




「では各自手筈通りに。……出発っ!!」

 ゴッチ隊長の号令により、調査隊の人達が次々と隊列を組んで馬に跨り出発していく。その動きにはまるで乱れが無く、それだけでも相当高い練度があると分かる物だった。

「……そう言えば、俺達はどうやって追いかけるんだ? 歩いてだとダンジョンまで大分かかるぞ」

 俺がそう呟くと、残っていたゴッチ隊長と調査隊の人が馬を連れてきた。どうやらこれに乗っていくという事らしい。

「ちなみにお二人は騎乗経験は? 無理なら隊の誰かに同乗してもらいますが?」
「俺は無いです。エプリは?」
「……乗って走らせる程度なら。だけどそのまま戦闘は多分難しいわね」

 俺達はそれぞれ調査隊の人に同乗してもらう事に。……こっちの世界ではいずれ乗馬の練習もした方が良いかもしれない。




「という事があって戻ってきたんだ」
『そうなんだ……って早すぎるよ!? 予定は十日後の筈だったじゃないか』
「まあ予定は未定ってよく言うじゃないか。遅刻ならともかく早くなったんだから許してくれよ」

 マコアの少し焦ったような声が頭の中に響いてくる。まあそれもそうか。

 ここはダンジョンの一階の途中。入口から十分ほど歩いた所にある部屋の一つだ。俺達は入ってすぐ合印である白い布を頼りにマコアの制御下にあるスケルトンを見つけ、ここまで案内をしてもらったという訳だ。

 勿論こちらも合印の黒い布を忘れずに身に着けている。これで襲ってくるなら制御下にないスケルトンという事だから、安心して反撃が出来るわけだ。

『それに戦力を連れてくるっていう話だったけど……すぐに集まりすぎじゃない?』
「そうかな? それを言ったらそっちだってそうじゃないか?」

 この部屋は他の部屋に比べてやや広い。それでも尚部屋の半分近くはもう埋まっていた。なんせ俺達と調査隊の皆さん。そしてマコアが制御下に置いたスケルトン達。合わせて五十近くの大所帯だ。

 ちなみに内訳はまず俺とエプリとボジョ。ボジョは服の中に入り込んでいるのでそこまで場所はとっていないから実質二人だ。

 次にゴッチ隊長率いる調査隊の面々二十人。これは全てではなく、十数人は拠点防衛や非戦闘員で来ていない。話によると探索が一段落したら一度帰還し、拠点に残った人員と交代することで探索を継続するらしい。

 最後にマコアが従えているスケルトン達。それが最も数が多くなんと二十体以上の集団だ。ここを出る時は七体だけだったのに、何がどうしてこうなった?

「……別れた時よりもスケルトンが大分増えているわね」
『地道に増やしただけだよ。少しはボクの力も戻ってスケルトン達のいる大体の場所は分かるようになったから、あとは制御下のスケルトンに手分けして連れてこさせればいい。そうして増えたスケルトンにまた別のスケルトンをという風に繰り返したんだ」

 そうか。それでここまで……って!? 今マコアは制御下にあるスケルトンの一体が持っているのに、こちらに声が聞こえてきたぞ。俺だけでなくてエプリにも聞こえているようで、声に反応してうんうんと頷いている。これもマコアの力が戻ったからかな?

「事情は分かった。だけどあっちはどうにかならないか?」

 俺の視線の先には、

「スケルトンがこんなに!? 油断するなよ」
「分かってる。いつ襲い掛かってきても良いように備えてるぞ」
「隊長っ! 本当に大丈夫なんですか!?」

 調査隊の皆さんがスケルトン達と対峙する様に向かい合っている。スケルトン達は整列して身動き一つしていないものの、武器は持ったままだから急に動き出したらちょっと怖い。

『しょうがないじゃないか。最初に見た時は侵入者かと思って警戒していたんだから。合印が無かったら罠のある部屋に誘い込んで痛い目に合わせていたよ』

 言い方が柔らかいのは一応こちらを慮ってのことだろう。内部の事を知り尽くしているからどこをどうすれば罠のある部屋に誘導できるかも熟知しているという事か。……まあ()()()()()()()()であって殺傷目的ではなさそうなのは助かったが。

 しかし見るからに一触即発。下手をしたら共闘する前にここで戦闘が始まるんじゃないだろうか。

「失礼。少しよろしいですか」

 そんな状況でマコアに近づいていく影が。……ゴッチ隊長だ。スケルトン達が数体マコアを護るように前に出る。近づいてくる者に対しては自動で反応するように命令されているようだ。それに伴って他のスケルトン達も一斉にそちらの方に顔を向ける。

 当然調査隊の人達も黙ってはいない。各自武器を抜いてはいないものの、いつでも使えるように各自で構えている。マズイ。ここでゴッチ隊長なりマコアなりの動き次第でここが戦場と化しかねない。

「お初にお目にかかります。私はゴッチ・ブルーク。このダンジョンを調査する為の隊を若輩ながら任されたものです。貴方がダンジョンコアのマコア殿でよろしかったでしょうか?」
『マコア?』

 マコアはその名前を聞いてよく分からないというように繰り返す。そういえばまだ伝えてなかった。

「お前の呼び名だよ。ダンジョンコアだけだと乗っ取った方と区別しづらいからな。前のコアを縮めてマコア。嫌だったら別のを考えるけどどうする?」
『ボクの……名前? 今まではマスターと二人だけだったから要らなかったけど、確かに必要かもしれないね。……マコア、マコアか。……なんか新鮮だね』

 どうやら気に入らないっていう反応ではなさそうでホッとした。

「マコア殿。お話はアシュ先生方から伺いました。私共の目的とマコア殿の目的は途中までは交わっていると思われるのですが、如何でしょうか?」
『そうだね。そっちはボクがいれば調査が楽に進められる。こっちは戦力が増えるから奴らの所まで辿り着く可能性が上がる。()()()()()敵対するかもしれないけどね』

 その言葉に調査隊の人達がますます殺気立つ。マコア頼むからもうちょっと言葉を選んでくれ!

「こちらとしても、このダンジョンが最寄りの町からそれなりに近い距離にある以上今の状況は看過出来ません。すぐにどうこうとはならないでしょうが、放っておく訳にもいきません。どうかここはご助力を願えませんか?」

 ゴッチさんはそう言うとマコアに向かって深々と頭を下げる。それを見た調査隊の人達は口々に不満の声をあげるが、隊長はそれらを手で制する。

『……頭を上げてよ。本当ならこちらからお願いしたいことなんだから』

 ガシャリと音がしたのでそちらを向くと、それは整列していたスケルトン達が一斉に片膝をついた音だった。そのまま武器を床に置いて首を垂れる。ゴッチ隊長の前に立ち塞がっていたスケルトンもだ。

 マコアを持っているスケルトンだけは立ったままだが、首から下げていたマコアの入った袋を外すとそのままゴッチ隊長の前にやってきて差し出す。

「……これは、どういう?」
『そっちはボクをまだ信用できないのでしょう? 信用しきれないのはボクも同じだけど、互いにそれじゃあ困るしどっちかが妥協するしかない。だから……()()()()()()()()。この場合はダンジョンコア質かな?』
「なっ!?」

 ゴッチ隊長は驚いた顔でマコアと差し出しているスケルトンを交互に見る。それはそうだ。今マコアは非常に危険な状況にある。仮に一つ間違えば、マコアはそのまま砕かれる事もあり得るのだ。

 そうでなくてもこのまま袋ごとダンジョンの外に出るという手もある。それだけでゴッチ隊長は大金を得ることが出来るだろう。調査隊の人達と分けてもかなりの額になるはずだ。

『これからボクの身柄をゴッチに預ける。出来ればトキヒサが良いんだけどここは譲歩しようか。ボクが望みを果たしたその時は好きにしてくれて構わない。ボクが途中で裏切りそうだと思ったらそのまま砕いてしまえば良い。ただし、もし外に持ち出そうとすれば……』

 その瞬間、膝をついていたスケルトン達が一斉に武器を持って立ち上がる。調査隊の人達が攻撃しなかったのは、ひとえにマコアの声にそれなりの覚悟と凄みを感じ取ったためだった。

『ボクも出来る限り抵抗する。このダンジョンで死んだヒトはまだいないけど、その初めての誰かが出る事は覚悟してほしい』
「……肝に銘じます」

 ひりつくような雰囲気の中、ゴッチ隊長はそう言って恭しくマコアの入った袋を受け取った。表面上は何でもないように受け取っているが、その頬には一筋の汗が流れ落ちている。

 ゴッチ隊長もおそらく分かっているのだろう。今マコアが言った言葉に嘘はないと。下手に持ち出そうとすれば、この場のスケルトン達が確実に襲い掛かってくる。スケルトン一体一体はそこまで強くないが、こんな密集した場所での乱戦となれば何が起きてもおかしくはない。

『よろしい。……じゃあ今からボク達は同盟者だ。よろしく頼むよ』
「こちらこそ」

 その二人(?)の言葉と共にひりついていた雰囲気が霧散する。互いにまだ信用したわけではないけれど、歩み寄る為の第一歩って所か。このまま上手く行けば良いんだが。

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