バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

パラナミオのお姉さん その1

 プテラ族のみんなによるコンビニおもてなしの移動販売がはじまって数日経ちました。
 一度に10数匹のプテラ族のみんなが一斉に出向いてくれるおかげで、今まで2,3日に1度しか回れていなかった集落全てに、毎日品物を届けることが出来るようになったもんですから、

「ホントに助かります」
「ありがとうございます」

 集落のみんなからそんな手紙をもらって帰ってくるチュ木人形達が続出しているんです。
 パラナミオ的には、

「みなさんに喜んでもらえて嬉しいですけど……パパと一緒に行くのが楽しかったので……」

 と、少し残念な様子でした、

「本店からテトテ集落への移動販売はまだやってるわけだしさ、そっちは一緒に行こうね」
「はい! すっごく楽しみです!」

 僕の言葉に、笑顔で頷くパラナミオ。
 この笑顔のおかげで、僕もさらに頑張れそうな気がします。

◇◇

 コンビニおもてなし7号店の方も、徐々にですがお客さんが増えています。
 これは、辺境都市ウリナコンベの人口が緩やかにですが増加していることを意味しています。

 かつて「闇の嬌声」っていう、この世界の闇世界を牛耳っていた組織に実質のっとられていたこのウリナコンベだけあり、その闇の嬌声が駆逐されたといってもなかなかそれを信じなくて、都市によりつこうとしない人が多かったんですけど、この都市の領主さんや役場のみんな、それに商店街組合のみんなや、組合に所属している商店や商会のみんなが一致団結して頑張っているもんですから、その成果が徐々にですが現れているのかもしれませんね。

「僕達も、もっと何か出来ることはないかな……」

 レジをこなしながら、そんな事を考えた僕。
 今の、コンビニおもてなし7号店の店員はというと、

 店長の僕
 副店長のクローコさんとブロンディさん
 店員のパラナミオ・ラミア族のラコネイルさん・ハーピー族のパリピポナさん

 以上の6名体制になっています。

 長い尻尾が邪魔になるかと思われたラコネイルさんですが、スアの魔法薬のおかげで勤務時間は尻尾を足に変化させることが出来るようになったもんですから、
「森の中はともかくぅ、街中をこの姿で歩ける日が来るなんて思ってもおりませんでしたわぁ」
 って、毎日感動しきりの様子で勤務してくれています。

 一方のパリピポナは、ハーピー族の特性で肘から先が羽根になっているんですけど、その羽根を巧みに駆使して品物を袋詰めしたりしてくれています。
 こういった鳥系の亜人さんって、辺境都市ルシクコンベに多く住んでいるって聞いたことがあるんですけど、
「ぴゃあ! パリピポナもルシクコンベの出身ぴゃあ!」
「あぁ、やっぱりそうなんだね」
 パリピポナの言葉に、思わず頷く僕。
 なんでも、街の生活に憧れてこのあたりの森にやってきたパリピポナらしいんだけど、4号店のツメバと動機が似ていますね。
 そういえば、ルシクコンベの長のグルマポッポから聞いたことがあるんですけど、
『最近の若い衆は、何かと街の生活に憧れてましてなぁ……ぷひぃ』
 そんな状況みたいですし、パリピポナもその1人なのかもしれませんね。

 そんな2人が、予想以上のスピードでコンビニおもてなしの業務になれているもんですから、7号店の営業はすごく楽に回せているんですよね。

 ……こんなことなら、ドンタコスゥコが話を持って来てくれた、王都のすぐ南に出来たばかりの商業都市ホープってところに出店する話を受けてもよかったかも……

 なんてことを考えてしまう僕なんですけど……

「いかんいかん……この7号店だって開店してまだそんなに時間が経っていないんだし……そんな時に次のことを考えていたら、足元をすくわれてしまうもんな」

 そう……コンビニおもてなしの創業者である僕の爺ちゃんは、宝くじで手に入れた賞金を元手にして当時は物珍しかったコンビニを地元で開店して、どんどん支店を増やしていったんだけど……立地とか、人口とか、そういったことを全く考慮しないでイケイケドンドンの精神で拡大していった結果、父さんの時代になり、他の全国コンビニチェーンが押し寄せてくると一気に押されまくってどんどん支店が減っていって、僕が店長を引き継いだ時には本店しか残っていなかったわけだしね……うん、あの二の舞だけは絶対に避けないと……

◇◇

 そんな感じで、元気に営業を続けているコンビニおもてなし7号店なのですが、

「……おや? この店は……」

 この日の閉店間際の店内に1人の女性が入ってきたのですが、その女性の姿を見るなりパラナミオがぱぁっと顔を明るくしました。

「サラお姉ちゃん!」
「む……お前は!?」

 元気に駆け寄っていくパラナミオ。
 そのパラナミオを抱き留めたのは……間違いありません、パラナミオと同じサラマンダーのサラさんです。

 この世界って、龍の種族がすごく少ないそうなんです。
 その数少ない同族の子供だったパラナミオのことを、サラさんってばことあるごとに気にかけてくださって、時々様子を見に辺境都市ガタコンベにまで出向いてくださっていたんですよね。

 ……ただ、サラさんってちょっと困った特徴がありまして……

 いえね、男っぽくて義理堅くて面倒見が良くて……ホント、すっごく素敵な方なのですが、方向音痴で忘れっぽいっていう……

 以前にも、辺境都市ガタコンベの場所をすっかり忘れてしまって1ヶ月近くあちこち彷徨ってようやくたどりついたとか、それでもたどり着けなくて途方に暮れているところを、たまたま通りかかったドンタコスゥコに拾われて……とまぁ、そんなことが何度もあったわけなんです、はい。

 ほら、今も……

「サラお姉ちゃん、会いたかったです!」
「あぁ、我もだ……えっと……その……」

 ほら……パラナミオのことを優しく抱きしめてくれているのですが、その顔が苦渋に満ちています。
 おそらくあれは、パラナミオの名前をど忘れしていて、必死に思い出そうとしているに違いありません。

 で

 それを察した僕は、パラナミオの後方からサラさんに向かって

『パ ラ ナ ミ オ』

 って、大きく口をあけながら教えてあげました。
 すると、サラさんは

「あぁ、そうそう!」

 どうやらパラナミオの名前を思い出してくれたらしく、

「久しぶりだなシオンガンタ」

 って……あ、あれぇ?……

「違いますよぉ、パラナミオですよ、私はぁ」
「あ、あぁ、そうだったなパラナミオ」

 苦笑しているパラナミオに対して、バツが悪そうに首をひねっているサラさん。
 なんと言いますか……ここまで来たら、もう芸の域に達してますね、サラさんの物忘れってば。

◇◇

「じゃあ、サラさんはウリナコンベの復興の手伝いをされているんですか」
「あぁ、骨人間を召喚してな、そいつらを指揮して建物を建設しているんだ」

 応接室でそう教えてくれたサラさん。

「骨人間は日の光に当たると消滅してしまうからな、いつも夕暮れ近くにやってきて夜通し作業をしているんだが……まさか、パラナミオの店が出来ていたとはな」
「はい、パラナミオもびっくりです!」
「そうですね、僕もびっくりですよ。じゃあ、サラさんはウリナコンベの近くにお住まいなんです?」
「あぁ、この都市の南にある辺境都市リバティという都市に住んでいる」

 そんな会話を交わしていた僕・パラナミオ・サラさんの3人。

 特に、サラさんの事を姉のように慕っているパラナミオはすっごく嬉しそうでして、その横に座って寄り添いまくっています。

 応接室の扉の隙間から、何やら歯ぎしりの音が聞こえてきているような気がするのですが……ひょっとしたらパラナミオの事が大好きなスアの使い魔、シオンガンタとユキメノームの2人が覗いているのかもしれませんね。

「そうだ、せっかくこうして再開出来たんだ、久しぶりに一緒に風呂にでも入るか」
「はい! じゃあパパと一緒に入りましょう」
「ちょ!? ぱ、パラナミオ!?」

 無邪気な笑顔のパラナミオに、僕は思わず苦笑してしまいました。
 だって、パラナミオはともかく、サラさんは立派な女性ですからね、僕と一緒になんて……

「あぁ、我は別に構わんぞ」

 そう言うと同時に、その場で服を脱ぎ始めたサラさん。

「あ、あのサラさん!? こ、ここはまだ応接室ですからぁ」
「む……あ、あぁ、そうであったな。すまぬ。パラナミオと一緒にお風呂に入れるとあって、気がはやってしまった」

 そう言うサラさんなんですけど、常にクールな表情を崩すことなく話しているもんですから、感情が読めないといいますか……と、とりあえず、前を隠すか、服を着てもらいたいといいますか……スアが転移魔法で駆けつけてくる前に……

しおり