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ルアと鳥さん その3

 最近、時々ルアとその娘ビニーがスアの使い魔の森にちょくちょく顔を出しています。

 で、ルアがスア製の転移ドアをくぐってスアの使い魔の森へ出向くと、

「くぁ!」
「くあ!」
「くぁ!」

 プテラ族のみんなが嬉しそうな鳴き声をあげながらルア達の周囲に集まっていきます。
 みんな、ルアに助けてもらったことを覚えていて、そのことをとっても感謝しているみたいです。
 一方のルアも、みんなの事が気になるらしくて、

「あはは、みんなも元気そうで何よりだよ」

 満面笑顔で、頬をすり寄せてくるみんなを撫で返しているんです。
 なんとも微笑ましい光景で、見ているとこちらまでほっこりしてしまいます。

 そんなある日のこと……

「タクラ店長、ちょっといいかな?」
「どうかしたのかい、ルア?」
「それがさ、プテラ族のみんなが、何か恩返ししたいって言ってるみたいでさぁ」

 猫族のルアは、プテラ族のみんなの言葉が多少理解出来るみたいです。
 で、みんなの言葉を伝えてくれたわけなんですけど……

「恩返しとなると……タルトス爺に相談をしてみないと……」
「あぁ、それがこの使い魔の森には、すでにたくさんの鳥系の使い魔がいるとかで、新しい仕事はないって言われたらしいんだよ」
「あぁ、そうなんだ……」

 すでにタルトス爺に断られているとなると……僕の方で何か仕事を斡旋してあげることが出来ないだろうか……と、あれこれ思案したのですが……

「……まてよ……」

 ここで僕はあることを思いつきました。

「そうだな……あれをああして……言葉に関してはスアの……あと、ルアに……」

 しばらく思案を巡らせていく僕。

「……うん、そうだ、これなら」

 そして、鼻の下を何度かこすった僕は、その指をピンと立てました!

◇◇

 まず、ルアにゴンドラを作成してもらいました。
 プテラ族のみんなはだいたい体調1m前後ですので、そのみんなが足で掴んで飛行出来る大きさ・重さになるようにしてもらっています。

 で

 そのゴンドラの中は棚状にしてもらっています。
 ここに商品をあれこれ陳列出来るわけです、はい。

「このゴンドラに商品を入れて、ウリナコンベ周辺の集落に移動販売に行ってもらおうかと思って」

 集落数は多いのですが、プテラ族のみんなも総勢で10匹少々いますからね。
 みんなで手分けして配達に行ってもらえれば、コンビニおもてなしとしても助かるわけです。
 特に最近は、この移動販売の需要が高まっていましたから。

 ただ、プテラ族のみんなは言葉が話せません。
 人型に変化することも出来ませんので、お金を受け取る業務も行うことが出来ません。

「そこはほら、スアが作成しているチュ木人形に帯同してもらって」

 そうなんです。
 神界の下部世界であるドゴログマで大量にしとめた厄災のチュパカブラを素材にして、スアが完成させた木人形の量産型とでもいいますか、そんな彼女達をプテラ族のみんなと一緒に派遣しようと思っている次第なんですよ。
 チュ木人形のみんなは話をすることが出来ませんが、筆記は出来ますので筆談で対応をしてもらおうと思っています。話せないだけで言葉は理解出来ますし、計算も出来ますし、それに軽いでのでゴンドラの上にのっかってもプテラ族のみんなの負担にもならないわけです。

 チュ木人形は、現在おもてなし人材派遣部門を管轄してくれているスアによってあちこちの商会や工房に派遣されているのですが、

「……うん、10体くらいならすぐ準備出来る、よ」

 とのことでしたので、早速派遣してもらうことにしました。

 で、そのことを、ルアを通してプテラ族のみんなに伝えてもらったところ、

「くぁあ!」
「くぁぁ!」
「くぁあ!」

 みんなして嬉しそうな鳴き声をあげながら僕に頬をすり寄せてきてですね、一斉にお礼の仕草をしてきたんです。

「あはは、こちらこそよろしくお願いするね」

 そんなみんなに、僕も笑顔で応えていきました。

◇◇

 ルアが超特急で移動販売用のゴンドラを作成してくれたおかげで、プテラ族のみんなの移動販売の準備は2日で出来上がりました。

 移動販売の拠点は、コンビニおもてなし7号店の裏の土地を購入しまして、そこに小屋を建てることにしています。幸いなことに、この辺境都市ウリナコンベは発展途上ってこともあって空地がまだまだあるんですよね。
 小屋は、当然ルアに建築をお願いしています。

「あぁ、任せときな! とびっきりの小屋を作ってやっからよ!」

 自分が助けたプテラ族のみんなのためってこともあってか、ルアってばいつも以上に張り切っている様子です。

 この小屋は、1階部分がプテラ族のみんなが生活出来る広い空間になっていて、屋上から飛び立てる仕組みになる予定です。
 で、その屋上にコンテナが置かれていて、そこにコンビニおもてなし7号店から直接移動販売用の荷物を輸送出来るように、僕が元いた世界にあったベルトコンベアみたいな設備も設置してもらう予定になっています。

 商品の詰め込み作業は、チュ木人形達がしてくれます。
 自分が帯同していくゴンドラに、ベルトコンベアで輸送されてきた荷物を詰め込んでいくチュ木人形達。
 向かう集落によって、

「私達エルフ族は、あのアロマとか言ういい匂いのする商品を大目に所望いたしますわ」
「俺達犬族は、武具を頼む。特にあの弓だな」

 特別に必要とされる商品があったりしますので、そういった情報をチュ木人形達にはしっかり把握してもらっていて、不足していたら僕の方にすぐ連絡してくれるよう伝えてあるんです。
 ちなみに、チュ木人形達には攻撃用の魔石もいくつか所持してもらうことにしています。
 万が一、プテラ族のみんなが襲われそうになったら、その魔石を使って敵を撃退するよう、指示を出してある次第です。
 
 この攻撃用の魔石は、スアが特別に作成してくれたんですけど……

「……襲われないのが一番……でも、万が一ってことがあって、使用された時は……しっかりデータをとらないと」

 スアってば、そんなことを呟きながらすっごく嬉しそうにしていまして……あ、これ、スアが時々見せるマッドサイエンティストな笑顔だ……そのことに気がついた僕は、プテラ族を狙ったがためにスアの攻撃魔法の被験者となってしまう可愛そうな人が現れないことを、心の底から祈っていた次第です、はい……

 こうして、3日で全ての準備が整いました。

 まだ仮とはいえ、すでに屋上で荷物を積んだり発着出来るようになっている小屋の屋上で、僕はプテラ族のみんなを前にしていました。

 プテラ族のみんなは、その上半身にコンビニおもてなしの制服を着用しています。
 羽根の邪魔にならないように、袖はカットしてあります。
 チュ木人形達も、上半身にコンビニおもてなしの制服を着用していますので、これでコンビニおもてなしからやってきた移動販売だってわかってもらえると思います。

 ちなみに

 チュ木人形達の頭の上には、僕が元いた世界で言うところの電光掲示板が設置されています。
 横長のその電光掲示板には、チュ木人形達の言葉が表示される仕組みになっています。
 筆談となるとやっぱり面倒といいますか、効率が悪いと思いまして、あれこれ思案した挙げ句、スアにこれを作成してもらった次第なんです。

 コンビニおもてなしのお店の前に置いていた電光掲示板を元にして、それをスアに研究してもらい、魔石で再現してもらったこのスア式魔石掲示板なのですが、

「……カガク楽しい!」

 スアってば、久々に思う存分カガクを満喫出来たもんですから超ご機嫌だったんですよね。

「じゃあみんな、くれぐれも気をつけてお願いします」

 みんなを前にして僕が頭を下げると、プテラ族のみんなとチュ木人形達が一斉に頭を下げてくれました。
 そして、チュ木人形達がゴンドラの上に乗り、そのゴンドラを足で掴んだプテラ族の皆さん。

「くあー!」

 3m強の体躯を誇っているリーダー格のプテラ族が一鳴きして舞い上がると、他のプテラ族のみんなも、その後を追うようにして空に舞い上がっていきました。

 一度、小屋の上で旋回した後、みんなはそれぞれ目的地に向かって飛び立っていきました。


「皆さん! 気をつけてくださいねぇ!」

 そんなみんなに向かってパラナミオが笑顔で手を振っていました。
 そんなパラナミオの肩をポンと叩く僕。

「よし、パラナミオ。パパ達も負けずに頑張ろう!」
「はい! パラナミオ頑張ります!」

 僕の言葉に、パラナミオも笑顔で頷きました・

 こうして、コンビニおもてなし7号店の新移動販売が開始されました。

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