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コアの力

「あの……本気で言ってます?」
「本気だとも。本気で一つの選択肢として提案してる」

 俺の提案にジューネがおそるおそる聞いてくるので、逆に胸を張って断言する。こういうのは自信満々に言った方が良いんだ。自分が信じていないのに相手に信じさせるなんて出来ないもんな。

「コイツの言う事が本当なら、このダンジョンはコイツとそのマスターが造ったものだ。当然ここの構造は誰よりも熟知している筈。突破するのは簡単だろう」
「簡単だろうって……そもそもその石は自分で動けるの?」
「そりゃあ無理。歩く為の足も飛ぶ為の翼も無いんだから」

 エプリに返した今の一言で皆からジト~っとした視線を向けられている気がする。……まあ気持ちは分かるけどな。しかしここで終わるわけにはいかない。

「それにコイツはこのダンジョンでは凄い力を持っている。いやあ残念だなぁ。近くにスケルトンでもいたら見せられるのになぁ」
「おっ! 丁度近くにスケルトンが一体いるな。折角だからわざとおびき寄せてみよう」

 えっ!? いやちょっとアシュさんっ!? そうしておびき寄せられたスケルトンは俺に気づくと、剣を握ってカタカタ音を立てながら向かってきた。

 ちなみに俺以外全員壁際に退避している。いつの間にっ!? だがしかしこれはチャンスだ。コイツの能力を知ってもらえば多少は話も変わってくるだろう。

「よしっ! こいや~!」

 俺は片手に石を持ったまま、もう片方の手で軽く挑発する。スケルトンは俺の目の前まで来ると、侵入者を排除しようとばかりにボロボロの剣を振り上げた。

 ここで逃げたり反撃するのは可能だ。しかしそれでは意味がない。俺がとるべき行動は……これだっ! 

 俺は手に持った石をスケルトンの前に翳した。次の瞬間、石から静かで揺らめくような青色の光が放出されて周囲を照らす。それを浴びたスケルトンは、剣をポロリと取り落として動きを止めた。

「よおし。そのまま……両手を上にあげろ」

 俺がそう言うと、スケルトンはゆっくりとした動きで万歳の体勢を取る。……ふぅ。上手くいったか。

「これはいったい!?」
「…………ほう!」

 ふっふっふ。皆驚いているな。正直こっそり服にボジョが潜んでいたとはいえ、上手くいかなかったら一撃貰うんじゃないかとビビっていたことは内緒だ。そんな態度を隠しつつ、皆の方に振り返ってニヤリと笑ってみせる。

「この通り。このダンジョンでコイツが作ったモノであれば、少しは言う事を聞かせることが出来る。と言っても力の大半を失っているから近くの相手限定だけどな」

 夢の中で説明を受けたが、ダンジョンを乗っ取られたとはいえコイツはまだダンジョンコアだ。つまり()()()ダンジョンにおける権限はまだ残っている。

 正確にはマスターの権限だが、ダンジョンコアだけでも一応モンスターの召喚や命令も可能らしい。

「……待って。なら何故隠し部屋を脱出する時にモンスターが襲ってきたの? 言う事を聞かせられるなら、自分が巻き添えを食わないよう止めさせると思うのだけど」
「それには理由があってさ、さっきも言ったけどコイツは力の大半を失っている。あの時も出来たのは精々俺に話しかけるぐらいだ」

 実際あの状況でスケルトン達を黙らせられればあそこまで苦労はしなかったと思う。しかしあれが実は必要なことだったりする。

「コイツが力を取り戻す方法は一つ。ダンジョン内でモンスターを倒して、それを()()()()使()()()エネルギーを回収していくことだ。偶然だがあの隠し部屋で大量に倒したから、僅かだけどコイツの力が戻ったという話だ」

 と言っても作るのに使った分がそのまま戻ってくるという事ではないらしい。大体今のコイツがスケルトン一体を作り出すには、スケルトンを四、五体は倒す必要があるという。

「という訳でスケルトンが来ても戦闘にならない。むしろ場合によっては戦力が強化されるという具合だ。これなら十分に俺の提案も考える余地があるんじゃないか?」

 俺だけの意見で周りを巻き込むのはマズいからな。出来れば皆に賛成してもらいたい。特にジューネ。だが、

「そうですね……やはりダメですね」

 うわっ!? 一蹴された。一体何故?

「有能である事は認めます。この元ダンジョンコアが居れば、探索が捗るのは間違いありません。しかしその石が本当の事を言っているのか分からない以上信用しきれません。仮にその石に協力してダンジョンを踏破したとしても、それから先はどうするのですか? 元のようにダンジョンコアに戻って、そのまま私達を攻撃するという事もあり得ますよ」
「それは……」
「まだあります。百歩譲って協力したとしましょう。ダンジョンを踏破して、ダンジョンコアが私達を攻撃しなかったとしましょう。……それで私達に何の利益がありますか? まさかダンジョンコアが二つ手に入るなんて言うんじゃないでしょうね?」

 それはない。だってそこまで行ったらもうコイツは半ば仲間みたいな関係になっていると思う。そうなったらもう売るなんて話にはならない。ジューネが言っているのは多分そういう事だ。

「利益か。まぁ正直に言って……あんまりないな。ダンジョンコアも結局は一つしか手に入らないし、その上相手は巧妙に隠されていたダンジョンの入口を見破り、このやたら複雑な作りの内部を潜り抜けて最深部まで辿り着いた強敵だろうしな」
「ならば何故?」
「決まってる。こっちのコアの方が長い目で見たら良いと思ったからだ」

 話してみて感じた事だが、コイツは人に対して害意を持っていない。戦いを好まなかったというマスターの影響かもしれないが、こっちから仕掛けなければ多分襲ってくる事はなさそうだ。少なくとも今は。

 対して新しく替わった方はどうにも怪しい。普通ダンジョンコアを入れ替えるなんてするか?

 どうにもそういう胡散臭い奴がダンジョンを好き勝手にするよりは、周りに迷惑かけずに引きこもっている奴の方が良い気がする。

「……う~ん。そう言われましても」

 ジューネは予想以上に悩んでいる。もう一押し何かがあれば、

「なあトキヒサ。その石は()()()話は出来ないのか?」
「どうでしょう。俺は持っていたから声が聞こえたけど……アシュさんも持ってみますか?」
「よし。試しにやってみよう」

 アシュさんにそう言われて、俺はダンジョンコアをそのまま手渡す。

「ほぅ~これが……うおっ!? 何か声が聞こえてきたな」

 持ってみて軽く目を閉じると、急にアシュさんは驚いた様子を見せた。どうやら石が話しかけているらしく、アシュさんは時折相槌を打ちながら俺達から少しだけ離れる。別に話の内容ぐらい聞かせてくれても良いのに。

 少しして戻ってくると、

「多分コイツは嘘を吐いていない。だから安心していいぞジューネ」

 と自信満々に言ってのけた。それを聞いてジューネはますます考えこんでいる。何か気になることでもあるのだろうか?

 そしてしばらくの間じっとしていたかと思うと、突如声をあげて「……決めました」と呟いた。

 いよいよか。俺は姿勢を正してジューネの答えを待つ。ちなみに石は今度はエプリが耳元に当てていた。貝じゃないんだから海の音とかは聞こえないぞ。

「結論から言いますね。トキヒサさん。色々と考えたのですが……やはりこのままダンジョンを出て町へ向かった方が良いと思います」

 どうやらジューネを説得することは出来なかったらしい。




「……ダメだったか」

 俺はがっくりと肩を落とす。色々言ってはみたが、石は皆で見つけたものだから自分だけの意見を通すことは出来ない。仕方ないが諦めるしかないか。許せ野良のダンジョンコア。

「あの、何か勘違いしてませんか? 私はダンジョンを出て町に向かった方が良いとは言いましたが、すぐに売り払おうとは言っていませんよ」
「へっ!?」

 おや、なにやら流れが良い感じになってきたぞ。俺はその言葉を聞いてむくっと起き上がる。

「長期的な視野で見ればトキヒサさんの案もアリです。しかし今の戦力では、その石の力を合わせてもダンジョンの踏破は難しいでしょう。苦労の割に儲けになりませんしね。なのでより戦力を増やしつつ、そしてより多く儲けるために動きます」
「ちなみに具体的には?」
「簡単です。私が元々情報を売りつけようとしていた相手。ダンジョンにやってくる調査隊ですよ」

 そう言えば元々ジューネ達はその為に来ていたんだよな。調査隊より先にダンジョンを調査して、情報代をせしめるのが目的だった。当然初見の場所に突入する調査隊なのだから、それなりの戦力があるだろう。そこにコアを売り込むという事か。

「調査隊にとっても利の有る話ですから、交渉の場に立つ可能性は高いでしょう。後は互いにどこまで信用できるかという点ですが、そちらはアシュのお墨付きがありますからおそらく問題ありません」

 う~む。アシュさんの信頼度高いな。ああ言っただけでジューネが素直にコアの言っていることを信じたぞ。……ここまで頑張って説得しようとしていた俺の立場は? ちょっぴり涙目になりそう。

「後は向こうの調査隊の方ですが……まあ何人か知った顔もいるでしょうが、こればかりは実際に会ってみないとなんとも言えませんね。という事で、当初の予定通りダンジョンから出て町へ向かいます。ここまでで異論はありませんか?」
「俺は雇い主様についていくだけだぜ」
「私もダンジョンから出るまでは異存はないわ」

 アシュさんとエプリはそのまま同意。早く医者に見せたいバルガスは言わずもがな。ちなみにボジョはさっきからコアや動きを止めたスケルトンをしきりに触手で撫でまわしている。うっかり溶かすとか壊すとかしないでくれよ。

「よっしゃ。それで行こう。……ただ一つ問題がある。このコアが何で宝箱の中に押し込められていたか分かるか?」

 ジューネは少し考えるが、答えが見つからなかったようで首を横に振る。

「答えは簡単。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。コアが壊れたりダンジョンの外に出ると、その時点でダンジョンのモンスターが消滅する。今のダンジョンは二つコアが有るからダンジョンの崩壊は無いにしても、もしこっちのコアが作ったモンスターが消えてしまったら上部数階層は完全に丸裸だ」
「……再配置しようにもこちらのコアが造った部分には手が出せない。まず()()()ダンジョンを増設してからじゃないと動けなかったという事ですか」
「多分な。用意が出来るまでは幽閉扱いだったんだと思う。あの隠し部屋に関しては、元々こっちのコアが造りかけだったらしい。造りかけだったから介入できたって所かな」

 これであの隠し部屋の違和感の正体が分かった。別々に造っていたんだからちぐはぐになる訳だ。

 それにあそこは宝を護る部屋じゃなくて閉じ込める部屋だったんだから罠も当然多い。ダンジョン内であればコアの修復も可能だろうから、罠が少々過激になっても構わないと。

「つまり今このコアを外へ持ち出すと、中のモンスターがほとんど消える可能性がある。今消えるとコアの能力が証明できないから、その分交渉が難しくなるってことなんだ」
「厄介なのは可能性という事ですね。絶対に消えるのならそれはそれで売り込み方もありますが……」

 俺とジューネは揃って頭を抱える。コアを外に出すのは避けたいが、ここに置きっぱなしと言うのもマズい。今のところ取り戻した護衛はスケルトン一体のみ。これでは何かあった時に守り切れない。

 一応こっちのコアにも()()()があるというが、エネルギー消費が激しくあまり使いたくないらしい。さてどうしたものか。

「ちなみにコアが外に出てモンスターが消滅した場合、その分のエネルギーはどうなるの?」
「その場合残ったダンジョンコア。つまり向こうのエネルギーになるな。むざむざ相手を強化するというのは嫌だな」

 エプリの質問に夢の中で聞いた話で返す。折角今は向こうが手を出せないのだから、なるべくこちらのコアで押さえておきたい。倒してエネルギーにするかそのまま制御を取り戻すかは別にしても。

「じゃあ一時的に誰かがコアと残って、その間に他の奴が外に出て交渉するというのはどうだ?」
「交渉がどれだけかかるか分からない以上移動の手間も考えると、場合によっては数日かかります。流石にそれだけの期間をダンジョンに置き去りと言うのは……」

 だよなぁ。だとするとどうすれば……。

「……悩んでいても仕方がありませんね。立ち止まっていても時間が過ぎていくだけ。この件は移動しながら考えるとしましょうか。入口までは二、三時間も歩けば到着しますから」

 そのジューネの鶴の一声で、俺達は入口目指して移動を再開することにした。何か妙案が出れば良いんだけどな。

 カタカタ。

 あっ!? スケルトンもついてくるのね。

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