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193章 朝食

 コハルとの共同生活が始まった。

「コハルさん、朝食にしよう」

 朝食のメニューは、ご飯、ベーコンエッグ、味噌汁、桃である。日本の一般家庭と、ほぼ同じメニューとなっている。

 二人分の食事を並べているからか、不思議な感覚がする。一人生活を続けたことで、一人分が当たり前になっていた。

 コハルは朝食を見ると、瞳をウルウルさせていた。

「とっても豪華ですね」

 豪華という言葉をきいたことで、これまでの貧しさが伝わってきた。

「付与金をもらえるまでは、バナナ、飴以外は食べられませんでした」

 バナナが育っていたからこそ、住民は生き延びることができた。「セカンドライフの街」においては、バナナ=命の源である。

 コハルは気分が悪くなったのか、口に手を当てる。昨日の悪い記憶が、脳裏に蘇ったのかもしれない。

「コハルさん・・・・・・」

 元気になってもらいたい一心で、背中に手を当てる。

「すみません。今はやめてもらえますか」

 アカネはそっと手を離した。

「現在は食欲がわかないみたいです」

「食べられないようだったら、食べ物を残してもいいよ」

 優しさのつもりでいったけど、コハルはそのように思わなかった。

「食べ物を残すのは、絶対にありえません。そんなことをしたら、天罰が下ってしまいます」 

 戦後の日本の貧しさが、脳裏に浮かんだ。あの頃も、同じような考え方をしていたのだろうか。

 コハルは桃をフォークで刺したのち、ゆっくりと口の中に運んだ。

「みずみずしくて、おいしいです」

 食欲がないといっていた女性は、桃を次々と口に運んでいった。

「おいしい、おいしい、おいしいです」

 テーブルに並んでいた桃は、わずか3分でなくなってしまった。

 コハルがフォークを刺そうとすると、食器から鈍い音がする。

「ごめんなさい。アカネさんの分まで、食べてしまいました」

 大きなため息をつきたいところだけど、大人の対応を見せることにした。

「気にしなくてもいいよ」

 デザートを分けておけば、こういう展開にならなかった。次回からは、デザートも別々にしたほうがよさそうだ。

「桃を食べたことで、お腹は満たされました」

 バナナ、飴だけの生活だったので、胃袋は小さいのかな。人間の胃袋の大きさは、日々の食事によって変化するのかもしれない。

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