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190章 元気を取り戻す

 コハルが目を覚ます。時刻は既に、8時を回っていた。

「コハルさん、ぐっすりと眠れた?」

「はい、よく眠れました」

 コハルは瞼をゴシゴシとこする。こすり方からして、眠気が強いと思われる。

「アカネさん、現在は何時ですか?」

「夜の8時を回っているよ」

 8時を回ったことで、周囲は暗くなりつつある。 

「すみません。寝過ごしてしまいました」

「気にしなくてもいいよ」

「そういってもらえると、とっても救われます」 

「体、心は休まった?」

「体は楽になりましたけど、心の傷は癒えていないですね」

 心の傷を、一日、二日で回復させるのは難しい。ゆっくりと時間をかけて、少しずつ回復できるようにしたい。

「今日は泊まっていく?」

「アカネさんの家に、泊まってもいいんですか?」

「うん、いいよ」

「ありがとうございます。アカネさんの家に泊らせていただきます」

 自分の家を建てたあとは、誰かと宿泊することはなかった。それゆえ、斬新な気持ちが芽生えていた。  

「ご飯はどうする?」

「軽いものなら、食べられそうです」

 本当は食べたくないけど、生きるために食べ物を口に入れる。彼女の心境が、手に取るようにわかった。

「おにぎりを作るね」

「アカネさん、ありがとうございます」

 炊飯器の中には、結構な量の米が残っていた。これだけの量があれば、お腹を満たせると思われる。

 アカネはおにぎりを作ったあと、コハルに差し出す。

「コハルさん、おにぎりだよ」

 コハルは食欲がわかないのか、おにぎりに冷めた視線を送っている。

 おにぎりを口に入れた直後、コハルの目つきが変わった。 

「米がとっても甘くて、砂糖を食べているみたいです」

 食欲を失っていたはずの女性は、おにぎりをあっという間に食べきってしまった。その姿を見
て、おおいに安心する。食べ物を拒否し続けたら、どうしようかなと思っていた。

「アカネさん、他のものを食べたいです」

「わかった」

 冷蔵庫の中を確認すると、「セカンド牛+++++」を発見した。

「最高の牛肉があるよ。よかったら食べてみない」

「最高級の肉を食べてみたいです」

 最高級の肉を食べられると知って、瞳をウルウルとさせていた。

「わかった。これから作るね」

 アカネはフライパンに、「セカンド牛+++++」をのせる。

「調理はしなくてもいいんですか?」

「うん。肉をセットするだけで、勝手に焼いてくれるんだよ」

「すごい機能ですね・・・・・・」

 最初のときは驚いたものの、最近は当たり前と思うようになった。自動調理生活を送り続けたことで、違和感はなくなった。

 五分ほどで、肉は焼き上がった。

「コハルさん、どうぞ」

 肉に切り込みを入れると、大量の肉汁が登場することとなった。

「すごい肉汁ですね・・・・・・」

 コハルは肉を口に運んだ。

「言葉では表現できないおいしさです」

 10分ほどで、300グラムの肉は姿を消した。

「アカネさん、とってもおいしかったです」

「少しは元気になれた?」

「はい。元気を取り戻しました」

 ショックを引きずることなく、前を向いてもらえるといいな。マイナスのことを引きずったとしても、一ミリの得にもならない。
 

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