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花祭り その1

 辺境都市ガタコンベの南方街道に出没していた魔獣騒動も無事に解決しました。
 これで、ブラコンベ辺境都市連合主催で開催される花祭りの開催準備も整ったことになります。

 ちなみに……

 魔法使いのポイッタと青犬狼のウルですが、巨木の家ごとコンビニおもてなし本店の裏に引っ越して来ています。
 元々、闇の嬌声の追っ手から逃れるためにあちこちを転々としていたポイッタですけど、ウチの近くならスアの防壁魔法もありますので安全ですし、何よりウルが我が家の子供達とすごく仲良しになっているもんですから、それに配慮した格好になっています。

 ポイッタは、合わせてスアが主催しているお茶会メンバーにも参加することになりました。
 魔法使いが主催しているお茶会って、王都の上級魔法使い達が私利私欲のために運営していた上級魔法使いのお茶会倶楽部が思い出されて、悪い印象しかないんだけど、

「……元々、魔法使いのお茶会は、仲良しの魔法使いが時々集まって自分達の魔法研究の成果を披露し合うものなの、よ」

 って、スアが教えてくれたんですよね。
 ちなみに、超絶人見知りなスアですが、同じ魔法使い相手だとあまり症状が出ないらしく、このお茶会は引きこもりをしていた時期から時折開催していたそうなんです。

 ちなみに、スア主催のお茶会には、コンビニおもてなし店舗検討部門のメイデンも参加しています。
 一緒に店舗検討部門を担当しているブリリアンが熱烈なスア信者なんですけど……彼女は『魔法の素質がちょっと……』と、スアにダメ出しをされたもんですから、最近はメイデンの付き添いとして参加して、みんなにお茶を振る舞う役をしているんだとか……
 魔法の研究発表には参加していないとのことだったんですけど、まぁ、ブリリアン本人が
『こうしてスア様主催のお茶会の片隅に存在出来るだけでも最高の喜びです』
 って、満面の笑顔で言っていましたので……まぁ、よしってことで……

 ポイッタは、普段もスアの研究室を訪れては魔法薬の作成の指導を受けたり、魔法の研究を一緒にしたりしています。ポイッタ自信も結構人見知りなところがあるらしく、同じ人見知り同士気が合ったみたいです。

 ウルはというと、最近は我が家に入り浸っています。
 パラナミオをはじめとした子供達と一緒に遊ぶのが大好きになったウルはですね、パラナミオが仕事から、リョータ達が学校から帰ってくるまでの間は、コンビニおもてなし本店の地下倉庫で冷媒役をしてくれている隷属製魔人のシオンガンタやユキメノーム達と遊んでいて、子供達が帰ってくると子供達と一緒に楽しく遊ぶ日々を過ごしています。なお、ポイッタ製の妙な魔法のかかった果物を食べなくなったおかげで、巨大化することはなくなっています。


◇◇

 いよいよ春の花祭り開催日が近づいてきました。

 今年の花祭りは1週間かけて行われます。
 最終日には、ステージイベントなども開催される予定になっていまして、コンビニおもてなしとしても出し物を考えなければならなくなっていまして……さて、何をやったもんかと、頭を悩ませ続けている次第です、はい。

 参加者の調整などは、ブラコンベ辺境都市連合に所属している各辺境都市の商店街組合の皆さんが行ってくれています。

「今年は過去最高の参加者になりそうですです」

 商店街組合の蟻人さん達がそう言って嬉しそうにしていたものですから、僕まで笑顔になった次第です。
 
 開催日まであと数日ってこともありまして、メイン会場である辺境都市ガタコンベの中央広場付近には多くの荷馬車が所定の位置に停泊していて、早くも屋台を開いているところも少なくありません。
 荷馬車で1ヶ月近くかけてやってきてくれた方々もいますので、こういったフライングは毎回大目にみているんですよね。

 この日、辺境都市ウリナコンベにありますコンビニおもてなし7号店での仕事を終え、スアの転移ドアをくぐって辺境都市ガタコンベへと戻ってきた僕とパラナミオは、リョータ・アルト・ムツキ・アルカちゃんに加えて、ウルの合計4人と1匹の出迎えを受けました。
 青犬狼のウルですけど、亜人種族の皆さんのように二足歩行出来るもんですから、まるで子供が1人増えたような錯覚に陥ってしまいます。

「よし、せっかくだし、散歩がてら中央広場の様子を見に行ってみるか」
「賛成です!」
「リョータも!」
「アルトも行きますわ!」
「ムツキも当然行くにゃしぃ!」
「アルカも行くアル!」
「アウ~!」

 僕の言葉に、みんなも一斉に右手を上げながら賛同してくれました。

 そんなわけで、僕達はスアとポイッタを加えた合計8人と1匹で中央広場まで散歩しに行くことにしました。

 コンビニおもてなし本店は、辺境都市ガタコンベ商店街の端っこにありますので、本来なら客足が少ないはずなんです……ですが、コンビニおもてなし本店が出来て以降は辺境都市ガタコンベのメイン街道並の人が毎日訪れてくださっているもんですから、そのお客さんを当て込んで、かなりの数の屋台が軒を連ねていました。
 中には、屋台出店禁止区域に屋台を出している人もいたもんですから、そういった方々には、こっそりと注意をさせてもらった次第です。

 これに対して、

「あはは、やっぱばれたか。明日には正規の場所に移動するよ」

 そう言って笑う人もいれば

「兄さん、そう固いこと言いなや、ほら、この串焼きサービスするさかい、見んかったことにしてんか?」

 と、笑いながら買収しようとしてくる人もいたりで、まぁ、とにかく賑やかです。
 でも、その喧噪がどこか心地よい気がします。
 これも、お祭ならではなんでしょうね。

 パラナミオ達も、

「うわぁ……屋台がいっぱいです」
「美味しそうな匂いもしてます」
「あら、リョータお兄様、駄目ですわよ晩ご飯前ですわ」
「アルトぉ、でもすごく美味しそうな匂いがしてるにゃしぃ」
「わ、私もお腹がなってしまいそうアル……」
「アウアウ~」

 楽しそうにそんな会話を交わしていました。
 確かに帰ったら晩ご飯ですけど……

「そうだね、少しくらいなら食べても……」

 そう言いながら振り向くとですね……パラナミオ達はみんなして手に焼き鳥の串を持っていたんです。

「あ、あれ? みんなそれはどうしたんだい?」

 僕が目を丸くしていると、スアが僕の腕をひっぱりました。

「……あのね、お茶会メンバーのバテアが来てたの。それで、みんなにプレゼントしてくれたの」

 そう言っているスアの手にも、しっかりと焼き鳥が握られています。
 
「バテアさんって、確か北の方にある辺境都市トツノコンベの人だったよね? そっか、わざわざ参加しに来てくれたのか」

 スアの言葉に、思わず笑顔になった僕。
 いろんなところにお住まいに人が、こうして集まってくださるのって、なんかホントに嬉しくなってしまいます。

 スアが預かってくれていた僕用の焼き鳥を受け取りました。

「じゃあみんな、ありがたくいただこうか」
「「「はい!」」」 

 僕の声に、元気な声で返事を返してくれたみんな。
 その後の僕達は、この焼き鳥を食べながら中央広場を回っていきました。

 しかしこの焼き鳥……すごく美味しいですね。
 クッカドウゥドルの肉を使用しているのはわかるのですが、タレが本当に絶品です。

「うん……この味に負けない焼き鳥をコンビニおもてなしでも提供出来るようにしないとな」

 思わずそんなことを考えてしまった次第でした。

 この日の僕達は、みんなで仲良く寄り添いながら中央広場をのんびり散策していきました。
 中央広場のあちこちに魔石街灯の灯が灯り、周囲が宵闇に包まれはじめたところで帰宅していきました。

 たまには、こういった時間もいいものですね。

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