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はわわわわぁ その4

「いやぁ、皆様のおかげで脱走していたジルル達を再び拘束することが出来ました。本当になんとお礼を申し上げたらよいか」

 スアの転移魔法を使って、捕縛したジルルを王都の衛兵局へ引き渡してきたゴルアが満面の笑顔で僕達にお礼を言っています。
 
「皆様のおかげで、私とメルアが昇任することまで決まりまして……あ、これ、つまらないものですが」

 そう言って、菓子折みたいな物を僕に手渡してくるゴルア。
 辺境都市ガタコンベの近くというすっごい辺境に赴任させられて、昇任など夢のまた夢だったはずのゴルアとメルアなんですけど……なんといいますか、見事なまでの棚ぼたが続いているもんですから、辺境駐屯地勤務をしている騎士としては異例の昇任ぶりを記録しているそうなんですよね。

 ただ、まぁ、王都のお菓子はこっちの世界の食べ物の傾向を知るのに役立つのでありがたく頂くことにしておきます。

「……しかし、よくもまぁこれだけ何度も脱獄出来ますねぇ」
「いや……それに関しては本当に面目ない……ただ、ポルテントチーネはしっかりと捕縛してありますゆえ、そこはご安心ください」

 そう言って胸を叩いているゴルアなんですけど……その下っ端をこうも何度も逃がしていたら……ついそんな事を思ってしまうんですけど、よく考えたら闇の嬌声の本体はまだどこかで潜伏していて暗躍しているって話ですし、そいつらの手が入っているってことなんでしょうね……
 とにもかくにも、そういう悪い人達はしっかり捕まってしっかり罪滅ぼしをしてほしいと節に願う僕だったりします、はい。

◇◇

 そんな会話を交わした後、ゴルアとメルアをガタコンベ近くにある辺境駐屯地へ、スアの転移魔法で送り届けた僕達。

 ここで、改めて魔法使いのポイッタへ振り返りました。

 ポイッタの頭の上に、青犬狼のウルが乗っかってお座りしています。
 結構重たいんじゃないかな、と、思うのですが、ポイッタは笑顔でこちらを向いていますので……これがいつもの光景なんでしょうね。

「タクラ様、それにスア様やみなさん、本当にありがとうなのです」

 ぺこりと頭を下げるポイッタ。
 その拍子に、ポイッタの頭上から落下したウルなのですが、すごい勢いで再びポイッタの頭の上によじ登っていきまして……ポイッタが頭をあげると、先ほどまでと同じ格好で頭の上に鎮座していました。

「いやいや、たまたまというか……」

 と、ここで僕はあることを思い出しました。

 僕達は今回、南からガタコンベへ向かっている商隊に向かって襲いかかってくる巨大な魔獣の調査をするためにやってきたわけなんですよ。

 ……しかし

 今回の出来事を思い返してみるとですね……どう考えても、その巨大な魔獣ってウルのことにしか思えないんですよねぇ

 僕が、そんなことを考えながら、ポイッタの頭上に鎮座しているウルを見ていると、ポイッタがにっこり微笑みました。

「あ、ウルはですね、とっても人好きなのです。だから誰とでも仲良くなりたがるのです」

 ポイッタの言葉に頷くウル。
 同時に、手にしていた木の実を僕に向かって差し出してきました。

「じゃあ、僕達に駆け寄って来たのも……」
「あ、はい、きっとお友達になろうとしていたんだと思うのです。でも、逃げられたらいつも落ち込んで帰ってくるのです……とても可愛そうなのです……」
「う~ん……可愛そうと言っても、あのでっかいサイズで迫られたら、誰でも逃げると思うんだけどなぁ」
「……はい? でっかいサイズ?」

 僕の言葉に、きょとんとするポイッタ。

「なんのことなのです? でっかいサイズって? ウルはこのサイズなのです」
「は?」

 ポイッタの言葉に、今度は僕がきょとんとしてしまいました。

「いや……確かにウルがでっかくなって僕達に駆け寄ってきたっていうか……他にもでっかくなったウルに遭遇したっていう目撃例が……」

 僕が困惑しながらポイッタに話をしていると、スアが何やら部屋の片隅へと移動していきました。
 その前方には餌が入っている器が置かれています。

「……これ、ウルの餌?」
「あ、はい、そうなのです。早く大きくなれるように魔法で栄養価を高めているのです」

 スアの言葉に胸をはるポイッタ。
 その言葉を聞きながら餌を見つめていたスアは、その餌を1つ手に取ると、それをウルに差し出しました。
 すると、ウルはそれを嬉しそうに食べていたのですが……次の瞬間、

「ウキュ……キュウウウン!」

 気合いの入った鳴き声を上げながら家の外へと駆け出したかと思うと……巨木の家の外でいきなり巨大化していったんです。
 その手に持っている餌まで巨大化しいているではありませんか。

 その姿は、先ほど僕達に向かって駆けてきた際の姿に他なりません。

「はわわわわぁ!? どどどどういうことなのですかぁ!?」

 それを見たポイッタも目を丸くしています。

◇◇

 ……で

 スアの説明によりますと……

 なんでも、ポイッタがウルの餌にかけていた魔法なのですが……これが餌の栄養価を高めるだけでなく、食べたもののサイズまで巨大化させる魔法までかかっていたんだそうです。
 で、ウルは巨木の家を壊してはいけないとおもい、魔法が効いている間は家の外に出ていたんだろう、と。
 その時、街道に差し掛かった荷馬車を見つけると、自分と一緒に巨大化した餌をおみやげに「お友達になろうよ
!」とばかりに駆けだしていた……と……

「そ……そんなことになっていたなんて……全然気がついてなかったのです……」

 スアの説明を聞いたポイッタは目を丸くしっぱなしです。
 ウルはと言うと、サラマンダー化したパラナミオと巨大な姿のまま戯れています。

 で、ポイッタを見つめているスアは、

「……あなた、魔法の素質はすごいけど……全部独学?」
「あ、はい……そうなのです……あ、でも、師匠といいますか、勝手に師匠と崇め奉っているお方ならいるのです」

 そう言って、本棚を指さすポイッタ。
 その先には……えぇ、魔女魔法出版は刊行している魔導書が並んでいまして、しかもそのほとんど全てがスア製の本なわけでして……

「私、ステルアム様のようにすごく格好良くて、スタイル抜群で、美人で、こんな本をいっぱい書けるくらいすごい魔法使いに……な、なれたらいいなぁ、と思っているのです!」
「……え?」

 ポイッタの言葉に、思わず首をひねる僕。

 えっと……スアを表現する言葉としては、

 可愛い
 チャーミング
 プリティ
 幼児体型

 これらの言葉が適当だと思われるのですが……なんですかね、そのスアを表現するのにふさわしくない言葉の数々は……

「え、でも、ほら……この本の著作近影に……」

 そう言ってポイッタが差し出した本の袖の部分にですね、スアの似顔絵が載っていたのですが……

 切れ長の目
 妖艶な笑み
 バストアップでもわかるナイスバディ感

 その本は、僕と結婚する前に発行されたものみたいなのですが……

「スア……アレは一体……」
「……ママが、勝手にやってたの……しばらく気がつかなかったの……今は、もう辞めさせてる、わ」

 僕の横で大きなため息をつくスア。

 スアのママって、この魔女魔法出版の社長なんですよね……
 しかもスアの事が大好き過ぎるママでして……まぁ、そのせいでスアが百年単位で家出したりしたわけなんですけど……多分、この著作近影もスアママのリテールさんが娘可愛さで色々盛りまくったんでしょうねぇ……

「はい? ど、どういうことなのです?」

 そんな会話を交わしている僕達を交互に見つめながら、ポイッタは困惑しきりの様子です、はい。
 でもまぁ……これで、魔獣の一件は無事解決したわけです。

 イエロとセーテン、それにオデン6世さんやグリアーナ達は近くの森の中で普通の魔獣を狩っていまして、そのおかげでこのあたりの危険度がさらに下がっていました。
 これで、春の花祭りにやってくるお客さんの数が増えるかもしれませんね。

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